8-8
日が昇るとすぐに吉永さんを連れてきた道を戻った。
脚が悪いと言っても激しい運動ができないだけで、歩くことに支障はないそうだ。
まだ早朝だったけど徹君と仁美さんが見送ってくれた。
「おじさーん、また来てね!」
子どもたちにお菓子とおもちゃを渡せてよかった。
それに今回は仁美さんの表情も明るかったな。
そりゃあそうか、前回は結城の命令で俺に抱かれに来たのだ。
そりゃあ諦めの表情にもなるだろう。
こうして朝日の下で見ると人の印象はガラリと変わる。
今の仁美さんはどこから見ても優しいお母さんといった感じだった。
「寛二よ、あの女とは特別に仲がいいようだな」
「それほどの関係じゃないけどな」
「じゃが、お主をこうして見送りに来ているではないか」
「徹君が俺に懐いているからだろう?」
「ふむ……。まさかとは思うが、あの女にこの腹をつまませてはいないだろうな?」
そんなことをして喜ぶのはお前だけだ。
だけど、この態度って……。
「エルナさん、もしかしてヤキモチですか?」
「違うわっ! 私はただ所有権の話をしておるだけだ」
「所有権って、俺の脂肪は俺の物だろう?」
「ふんっ!」
エルナは小さなほっぺを膨らませて、横を向いてしまった。
異世界人にはよくわからないこだわりがあるようだ。
今回も俺とエルナと交互に魔物を排除しながら市ヶ谷のアパートまで戻った。
今日はここで一泊して、代々木には明日向かう予定だ。
一度戻って買い物をしてこなくてはならないからね。
魔物を倒している途中で俺のレベルだけあがった。
レベル :11 → 14
弾数 :12発 → 15発
リロード:7秒 → 6秒
射程 :30メートル → 35メートル
威力 :23 → 25
命中補正:15% → 19%
モード :三点バースト、フルオート、??? →三点バースト、フルオート、???
使い勝手がまたよくなったが、俺としてはもっとリロード時間を短くしてほしい。
エルナや葛城ちゃんがいたから大丈夫だったけど、単独行動だったら死んでいてもおかしくない場面が何回もあった。
弾の切れ目が命の切れ目というわけだ。
今回の遠征ではエルナのレベルもようやく3に上がった。
パワーがまた少し上がったそうだが、敏捷性や持久力にほとんど変化はない。
『剛力』は本当に特化型のスキルなのかもしれない。
アパートにたどり着くとちょうど3時だったのでコーヒーと焼き菓子でおやつにした。
「マドレーヌ、リーフパイ、こちらは……」
「フィナンシェだよ」
「もう、名前も忘れていました……」
葛城ちゃんが呟くように言った。
吉永さんも茫然とテーブルの上を眺めている。
静かな室内にエルナが淹れるコーヒーの香りが充満していく。
「遠慮しないで食べてよ」
「しかし、私だけ食べるというのはコミュの仲間に悪い気がするな」
吉永さんらしい感想だ。
「わかった。コミュのみんなのお土産も召喚するから、それならいいでしょう?」
葛城ちゃんにせよ吉永さんにせよ、二人とも真面目キャラだからな。
塚本さんなんか遠慮しないでパクパク食べていたぞ。
「二人はどんなものが好き? 召喚枠に入る物なら一緒に召喚するから言って」
すぐに買えるものなら向こうで手に入れてきてあげよう。
「好きというか、しばらく醤油を口にしてないから久しぶりに食べたいね。味噌は開発中なんだけど醤油はさらに難しくて試行錯誤の最中さ」
やっぱり日本人は銀シャリと醤油ですよな!
これに生卵もあれば言うことなし。
卵かけご飯の上に花カツオをぱらぱらと振りかけたものは至高なのです。と、俺のことはいいんだった。
「葛城ちゃんは?」
「私ですかっ? え、えーと、バウムクーヘンが好きでした」
これは意外。
戦国少女だから甘いものでもあんこ系かなと勝手に想像していました。
「よくわかりました。それでは6時間くらい儀式に集中するから、二人はここで待っていてくれ」
「今回は6時間ですか? 随分と短いのですね」
前は24時間も待たせたからな。
でも、エルナが力持ちになったので便利屋さんを頼む必要もない。
買い物をするだけなのでそれほど時間は取られないのだ。
「俺のスキルレベルも上がっているんだよ」
ということにしておこう。
「ところで、召喚の儀式はエルナ殿も一緒に行うのですか?」
葛城ちゃんが俺とエルナをじっと見つめてくる。
「そのつもりだけど……なんで?」
「いえ、人の手助けが必要なスキルは珍しいと思いまして……」
言い訳としては苦しかったか。
思わずうろたえそうになる俺とは対照的に、エルナが余裕の笑みを見せたまま口を開いた。
「ふふっ、詳細は明かせぬゆえ疑問に思うこともあるじゃろう。じゃが、秘儀とは元来そういったものじゃ。私と寛二が何をやっているかは教えてやれぬが、ゆめゆめ覗こうなどという気持ちは起こさぬことじゃ。どうしてもというのなら触りだけ教えてやってもよいがのぉ……お子様にはちと刺激が強すぎるやもしれんぞ。それでも知りたいかえ?」
葛城ちゃんは顔を赤くして首を横にふった。
自室に戻ると早速自決の準備に取り掛かる。
マジックガンナーの威力が上がっているので壁に穴を開けないようにする工夫が必要だった。
エルナが拾ってきた鉄板を立てかけて、その上から毛布をかぶせてくれた。
「なんで、葛城ちゃんにあんなことを言ったんだよ?」
「あの娘は
おかげで俺が意識しちゃうだろう。
「それとも何か? 寛二は私と本当に秘密の儀式をしたいのかえ?」
普通はしたいよな?
背は低くて胸は小さいけど、やっぱりエルナは魅力的だ。
「ま、まあ……」
「そうか、したいか! ならばそこで四つん這いになるのじゃ」
目を輝かせて何を言うかと思えば……。
「それじゃあ、帰りま~す」
エルナを無視して指をピストルの形にする。
頭側を鉄板毛布にくっつけて、マジックガンのトリガーをひいた。
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