8-1スキル発動 エルナ編

 山と積まれた肉は次々と食され、どんどんとその量を減らしていった。

エルナもモリモリ食べているが、葛城隊の食欲はもっとすごい。

ディストピアの世界では女の子も食欲旺盛なんだね。

おかげで俺も遠慮することなく、心ゆくまで肉と飯を腹に詰め込むことができた。


 エルナ特製のタレに付け込んだ角イノシシの肉は、これまでに食べたことがないくらい美味い。

ピカピカの銀シャリに肉の脂とタレの旨味が染み込み、いくらでも食べられそうな気がするよ。

つくづく外見にそぐわぬ家庭的な王女様だ。

見た目だけだったらツンツンロリって感じなのにな。


「はぁ~美味かった。堪能しました。ご馳走様」


 肉を獲ってきてくれた葛城隊と、おいしく調理してくれたエルナに感謝だ。


 肉の余韻に浸りながら、今後の方針を聞いてみる。


「んで、どうする? さっそく神大さんに軽油を持って帰るかい?」


 神大としては一刻も早く手に入れたいところだろう。

それだったら葛城隊に軽油を持たせて帰らせてしまった方が俺にとっても都合がいい。

若い女の子が一緒だとどうにも落ち着かないのだ。


「反町殿は一緒にいらっしゃらないのですか?」

「これからちょっと用事があってね」


 今からエルナのスキルが発動するように、いろいろとしなくてはならないことがある。


「しかし、お金を受け取らなくてはならないでしょう?」

「そうだけど、現金のことを言ったのは昨日のことだ。まだ用意できていないかもしれない」

「それは、そうかもしれませんが……」

「それに、神大さんは代金を踏み倒すような人じゃないだろう?」

「もちろんです。しかし困りました」

「何が?」

「私は反町殿の護衛を命ぜられたのです。それを途中で放棄するのはいかがなものかと思います」


 戦国少女は真面目だなぁ。


「俺の護衛なんていいよ。エルナもいるし、なんとかなるでしょう」

「そうはいきません」


 葛城ちゃんはしばらく考えていたが、やがて「鬼火」を使う新見ちゃんに命令を出した。


「ひかる、私の代わりに隊を率いて軽油を持って帰ってくれる?」

一葉かずははどうするの?」

「私はこのまま反町殿の護衛を続行するわ」

「わかった」


 葛城ちゃんがついてくるみたいだけどまあいいか。

いろいろと手伝ってくれるみたいだし……。

なんか能力を隠しておくのも面倒になっちゃった。

ほら、俺っていい加減な性格をしているからさ。


 軽油を担いで帰る女の子たちを見送ったあと、エルナと葛城ちゃんをともなって町へ出た。


「どうするつもりじゃ?」

「魔物の肉は食ったから第一段階は終了だ。次はエルナに恐怖を感じてもらおう」


 スキルは危機的状況に陥ると発現するようだ。

俺の時も魔物に襲われて「マジックガンナー」の力に目覚めた。

だったら、エルナにも恐怖体験をしてもらうまでだ。


「エルナは何が怖い?」

「うむ、しいて言えば、自分の才能と美貌じゃな」

「あー、はいはい。完璧な王女様ですね」

「むっ、軽いジョークに皮肉で返すな」

「痛っ! ごめんなさい、悪かったから腹の肉を掴まないでくださいっ! 女王様ぁ!」


 女王様じゃなくて王女様だったな。

痛みに我を忘れて叫んでしまったぜ……。


「まったく、イシュタルモーゼだったら不敬罪で捕まるところじゃぞ。あとで、お馬さんハイハイの刑で許してやろう」


 本当に女王様みたいになってやがる。

豚さんハイハイと言われないだけマシかな?


「んで、本当は何が怖いんだよ? 高いところはどうだ?」

「そんなもんが怖くてワイバーンに乗れるか」

「暗いところ」

「ファイヤーで明かりは点く」

「水の中」

「マーメードばりに泳ぎは得意じゃ」


 完璧かよっ!?


「やっぱり、魔物と戦ってもらうしかないかな。今なら魔法もうまく使えないみたいだし」

「それしかないかのぉ」


 この辺では比較的魔物の出現率が高い四ツ谷駅方面へと向かってみた。


「先ほどからお話をうかがっていると、エルナ殿はまだスキルの力に目覚めていないようですね」


 遠慮がちに葛城ちゃんが話しかけてきた。


「そうなんだよ。だから強制的に目覚めさせようと思ってさ」

「どうするのですか?」

「魔物と戦わせようかなって」

「我々3人でですか?」

「いや、エルナ1人がだよ」


 一緒に戦ったら意味ないじゃん。


「しかし、それはあまりにも無謀というもの! スキルのないエルナ殿では勝ち目はありません。ヘタをしたら死んでしまうかもしれないのですよ」


 実際には死に戻るだけなんだけどなぁ……。


「安心いたせ。私にも考えがある。それにいざというときは寛二が何とかしてくれるだろう」

「反町殿が? ですが、反町殿のスキルは『召喚』のはず……」

「まあ、何とかなるって。俺と葛城ちゃんは離れたところからエルナの戦いぶりを観察しておこう。それでいいかな、エルナ?」

「うむ。私が華麗なる魔法技術で魔物を倒すところをよく見ておくがよい!」


 君はバカか……。


「魔法で倒しちゃダメだろが。危機的状況でスキルを発現させるのが目的なんだぞ。魔法は禁止!」

「そ、そうであった」


 なんか心配だなぁ。

やっぱりこれを使うしかないか。

俺は向こうの世界から持ってきたロープを鞄から取り出した。


「どうする気ですか?」

「ん~、緊縛からの放置プレー」

「なっ……」


 葛城ちゃんは顔を赤らめてしまったけど、エルナは余裕の笑みを崩さない。


「ふっ、王女を縄で縛るとはいい度胸だ。その態度、嫌いじゃないぞよ。よかろう、その試練、受けて立つぞ!」


 くくくっ、王女様と下僕の立場が入れ替わったな。

冗談はさておき、崩れ落ちたビルの外壁にエルナを縛り付けた。

これから魔物に食われるかもしれないのにエルナはどことなくウキウキしている。


「なんか楽しんでない?」

「少しだけワクワクしている」

「変態王女?」

「ち、違うっ! どんなスキルが発現するかが楽しみなのじゃっ!」


 そっちですね。


「怖くなったらギブアップしていいからね」

「ギブアップなどするものか。いいから、隠れて見物しておれ」


 不敵に笑うエルサを残して、俺と葛城ちゃんは物陰に隠れた。

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