7-4
軽油を買うのには便利屋さんを頼んだ。
俺は自動車を持っていないし、近所のガソリンスタンドから40リットル分の軽油を買ってくるのも大変だと思ったのだ。
アパートは2階だからタンクを担いで上がるも大変だからね。
経費は作業費、出張費、車両費で8000円だった。
軽油には専用のポリタンクがあり、大抵は緑色をしている。
今回は20リットルサイズの物を2本購入してもらった。
諸経費と軽油代で1万2000円になったが全く気にしていない。
だってこれが400万円になるんだぜ。
便利屋のお兄さんを待っている間に、インターネットでエンジン付きのゴムボートも注文した。
この場合のエンジンは、正しくは船外機というそうだ。
「へー、2馬力までのエンジンなら小型船舶免許がなくても操縦できるんだって」
「さようか。購入したらぜひ私にも操縦させてほしいのじゃ」
「エルナにできるのか?」
「馬鹿にするでない。こう見えてワイバーンを操らせれば人に後れをとったことはないぞ」
ワイバーンよりはゴムボートの方が簡単なのかな?
自転車しか乗れない俺にはわからない。
「むっ、寛二よ。こちらに6馬力の船外機があるではないか。こちらの方が速く強力なのじゃろ?」
エルナがパソコンの画面を指さした。
「うん、でも6馬力の物は小型船舶免許が必要になるんだよ」
「ふはは、どうせ使うのは並行世界でだ。気にするでない」
「いいのか?」
「私は日本人ではないのでな。それに6馬力の方がスピードも出るのであろう? 木更津にも早くつけるというものじゃ」
それを言われると心が揺れる。
結局、俺は6馬力の船外機付きゴムボートセットを購入した。
実際にはライフジャケットやオール、フットポンプなども購入したので総額は38万円ほどになった。
配送には10日かかるそうだ。
「一応購入はしたけど、亀戸コミュにも行ってみるよ。ボートを貸してくれるかもしれないし、あそこの人たちも気になるからね」
吉永さんや徹君にも会っておきたい。
「わかった。それは私もつき合おう」
「よろしく頼む。とりあえず今日はここで転移して、様子を見るところからはじめよう!」
俺たちは今日の転移に向けて準備を整えていった。
40リットルの軽油とエルナを一度に担いでの転移は無理だった。
転移するためには魔導書に手をおかなければならない。
取り合えず20リットルポリタンクをブランケットで包み背中に担いだ。
今日は3往復も死に戻らなければならない。
「そういえば死体はどうなっているかな?」
「どういうことだ?」
「前回はアパートのバスルームで自決したんだよ。だから自分の死体がバスタブの中に転がっているかもしれないだろう?」
「安心いたせ。こちらの世界に戻ってくるときにお主の体は時間をさかのぼって元の形に再生されるのじゃ。それが我が魔法のすごいところでもある」
エルナは胸を反らせて、いつもの自画自賛ポーズをとった。
肉体自体が時間を巻き戻して再生されるわけか。
でも、ちょっと待てよ。
ということは、向こうの世界でどれだけ痩せても、こちらの世界に帰ってきたら元に戻ってしまうということじゃないか!
つまり、いつまでもデブのまま……。
あっちでは粗食だし、運動時間も長いから、確実に痩せられると思ったのに……。
だが待てよ……。
逆に考えれば、ディストピアではどれだけ食っても元に戻れるということか!
「エルナ、ちょっとピザとケーキを買ってきてもいいか?」
「何を言っておる。時間がもったいないのじゃから早く転移をするのじゃ」
エルナに欲望を阻止されてしまった。
仕方がない、食い放題祭は次回に取っておくことにしよう。
軽油タンクを担いだまま、俺は魔導書に手をおいた。
エルナが言ったとおりバスタブの中に俺の死体はなかった。
だけど、のんびりしている暇はない。
すぐに死に戻ってもう一本の軽油タンクを運ばなければならないのだ。
壁に耳をつけると葛城隊の声が微かに聞こえてくる。
「音がしたぞ」とか「動きがあった」などと会話している。
俺の気配がなくてヤキモキしていたのだろう。
早く姿を見せてあげないといけないな。
今度はバスルームにはいかず、部屋の真ん中で脳天を打ち抜いた。
こうして40リットルの軽油と、買い足した食料をすべて運び終えた。
トン、トン、トン
控えめにドアが叩かれる。
俺の動きを察知して、ついに葛城ちゃんがしびれを切らせたのだろう。
「反町殿、大丈夫ですか?」
小声でドア越しに声をかけてきた。
仕方がない、顔を見せて安心させてやるか。
ドアを開けると安心したような表情の葛城ちゃんがいた。
やっぱり戦国少女は可憐だ。
「やあ、約束通り軽油は用意できたよ」
「おお! それは
「でも、これから儀式の最終段階にはいるから、もうちょっとだけ外で待っていてね」
最後にエルナを運んでこなければならないのだ。
「
戦国少女を外に残し、すぐに3点バーストで頭を打ちぬく。
もうね、自殺がルーチンワークになってきているよ……。
だがそれもこれも倫子のためである。
父ちゃんは負けないぜ!
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