7-1葛城隊
傷も治ったことだし訓練を再開しようと思ったら、神大に飯を食っていけと勧められた。
「遠慮することはない、材料はお前が倒したオオトカゲだ」
オオトカゲを食べてみたいと思っていたので遠慮しないでいただくことにした。
調理法はシンプルな網焼きで、調味料は塩だけだった。
弾力があって、噛むとプチンプチンと繊維が切れる不思議な食感だった。
味は鶏肉に似ていなくもない。
不味くはないけど、たくさん食べたいと思えるものでもないというのが正直な感想だ。
「そういえば疑問だったのだが、どうやってこのオオトカゲを倒したのだ?」
「内緒」
「秘密の多い男だな」
「ミステリアスなデブを目指してるんでね」
大神は追及することもなく不敵に笑うだけだった。
食事の時は大部屋だったのだが、ここには本当に子どもや老人がたくさんいた。
ちょっと変わっていたのは食事の前にお祈りの時間があることだった。
仏教のような神道のような、よくわからないお祈りだった。
きっと、みんなをまとめるのに宗教が効果的であろうという大神の考えなんだと思う。
神頼みでもしてなきゃ、やってられない世界だもんな。
はぁ、ナンマンダブ、ナンマンダブ。
俺?
俺は困った時だけ他力本願寺へお参りに行く人だ。
「いや~、ご馳走様。おかげでお腹いっぱいになったよ」
本当は腹半分くらいだけど、トカゲ肉は充分だ。
「意外と小食じゃないか。遠慮しているのか?」
神大が気遣ってくれたけどそれは違う。
早く向こうへ戻って寿司が食べたいだけなのだ。
今の俺はリッチマン。
ウニ、中トロ、シマアジ、なんだって食べ放題だ。
「そうじゃなくて、このあと少しだけ用事があるんだ。そろそろお暇(いとま)するよ」
「そうか。だが、間もなく日も暮れる。今夜は泊って行ったらどうだ?」
「ありがたいけど、ゆっくりしてもいられないんだ」
「ふーむ……。ならば反町には護衛をつけよう」
「はっ?」
「葛城」
「はっ!」
出た、戦国美少女!
「お前に反町の護衛を頼みたい。彼は我らの繁栄を取り戻すキーパーソンだ。何としてでも守り抜いてくれ」
「承知しました。この命に代えましても」
いや、勝手に盛り上がらないでくれ。
レベルが10になったら、すぐにでも死にたいんだから。
カンパチとボタンエビが俺の帰りを待っている。
「ちょっといいかな。護衛なんていらないんだけど……」
「勝手なことを言うな!」
それは俺のセリフだぜ、葛城ちゃん……。
「反町殿のことは葛城隊が守る。お前たちも命を懸けろ!」
「はっ!」
葛城ちゃんの部下らしき女の子4名が膝をついた。
本当に何時代だよ?
それともディストピアではこれが若者の流行になってるの?
「重機が動かせれば砦の完成が早まる。そうすれば世田谷方面からくる魔物たちも抑えられるのだ」
「世田谷に魔物?」
「知らなかったのか?
それは恐ろしい。
考えてみれば倫子を見つけ出したとしても、向こうの世界に連れて帰れるわけではない。
だったら、安全に育てる環境が必要になってくる。
ちょっと本気になって神大に協力した方がいいのかな?
ここのコミュは他と比べて食事が多いわけじゃない。
それぞれに割り振られた仕事も大変そうだ。
だけど、他のコミュより人々の笑顔は多い気がする。
「反町殿が何と言おうと護衛の任は務める。ここでは新王様の命令は絶対だ」
やれやれ、本当にどうしよう。
「わかったよ。でも、やっぱり今晩はここに泊めてくれ」
葛城ちゃんは俺が出かけたら無理やりにでもついてきそうだ。
夜の街へ出かけるとなると彼女たちにも危害が及んでしまう。
仕方がないから今晩はここに泊まることにした。
「神大さん、本当に迷惑なんだけど……」
「そう言うな。娘探しにだって人手はあった方がいいだろう? こいつは女ながら、代々木一番の剛の者だ。決して足手まといにはならん」
たしかに、倫子を探すのを助けてもらうのはありがたいな……。
「わかった。よろしく頼む」
こうして翌日から俺は戦国美少女のお供になった。
いや、逆だったな。
葛城ちゃんが俺の護衛になってくれたのだ。
いらないんだけどね。
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