7-2
5人の護衛に囲まれながら、俺は自分のアパートへと移動していた。
そんな必要なんてなかったんだけど、葛城ちゃんに「どこへ行きますか?」と質問されて仕方がなくだ。
あ~、とっとと死に戻りたい!
葛城隊の女の子は全員可愛くていい子なんだけど、今は色気より食い気だ。
早くあちらへ帰って寿司が食いたい。
アナゴが俺を呼んでいる。
朝食も粗食だったからなぁ……。
たぶん、この二日で1キロは痩せたはずだ。
デブの体重はすぐに減る。
そして、すぐに戻る……。
「隊長、魔物の気配です。1時の方向、距離25、数2」
この子は西田加奈子ちゃん。
スキル「探知」を持っていて、半径25メートル以内の魔物の気配を感じ取れるそうだ。
「全員、私の近くに」
この子は村岡詠美さん。
「素早さの付与」を持っている。
魔法で俺たちの身体能力を上げることができるスキルだ。
火力としては、「弓矢」の今野愛理ちゃんと「鬼火」の新見ひかりちゃんがいる。
そして「麻痺」と
この五人は代々木公園でも屈指の戦闘班だと神大が言っていた。
おかげで魔物が出てきても俺はやることがない。
葛城ちゃんたちの前でスキルを使う気はないけど、これではレベルが上がらなくて困ってしまう。
今日は何としてでもレベル10にしたかったのに。
戦闘は魔物の接近を許さずに終了した。
今野さんのコンパウンドボウ(滑車の付いた強力な弓)と新見さんの火球でカタが付いている。
今野さんの方はスキルによって弓矢の貫通力が上がっているみたいだ。
新見さんの「鬼火」は火球を飛ばすだけでなく、その場で保持もできるから、灯りや焚火の代わりにすることもできた。
倒した魔物はムカデを大きくした感じで、これは食用にはならないとのことだった。
一般的なムカデ同様に強力な毒をもっていて、刺されると強烈な痛みに苦しみながら死んでしまうそうだ。
あちらの世界に死に戻るにしても、こいつだけは使わないでおこう。
「それにしても、みんなすごいスキルだね」
「我々のスキルなど新王様に比べたらたいしたことないですよ」
葛城ちゃんが神大のことを話すときは、やけに誇らしげだ。
「覇王だっけ?」
「はい。あれは特別なスキルです。新王様こそ荒廃した日本を統べるお方だと私は信じています」
なんでだろうね? 神大に同情する気になってしまった。
神大は葛城ちゃんだけでなく代々木の人々の期待を一身に受けている。
それはそれで大変だと思うよ。
俺なんか倫子の期待だけで精いっぱいだ。
原宿を抜けて千駄ヶ谷辺りまでくると、葛城ちゃんの警戒レベルが少し上がった。
「反町殿、少し迂回しますがよろしいですか?」
「別にいいけど、この辺りに強力な魔物でもいるの?」
「そうではありません。ただ、代々木は今、新宿御苑と少々もめていまして……」
先月のことだ。
それぞれの狩猟班の衝突があり、代々木のメンバーが襲われ獲物を奪われた。
多勢に無勢でどうしようもなかったそうだ。
「こちらの班員には女もおりました……」
獲物を奪われただけでなく凌辱されてしまったということか。
ひどいことをしやがる。
報告を受けた神大は怒り狂ったそうだ。
そのまま御苑方面へ赴き、片っ端から報復した。
特に女を犯した奴は文字通り八つ裂きにされたそうだ。
神大の力を恐れて御苑側も今のところは沈黙を保っている。
狩りの時に遭遇しても、お互いに接触はしないで離れていくそうだ。
ただ、新宿御苑と代々木公園は距離が近い。
どちらも関東の一大勢力となっている。
もしかしたら全面衝突があるのではないかというのが葛城ちゃんの考えだった。
「こんな時代でも人間同士が争うんだねぇ……」
「荒廃の世に平和をもたらすためにも、反町殿のお力を新王様にお貸しください」
「協力はするけど、神大さんだけに肩入れするわけじゃないからね」
松濤コミュの塚本さんのことも気になるし、亀戸のナンバー2である吉永さんのことも気になっている。
「わかっております。新王様からも反町殿の意向に逆らうことはしないようにと命令されておりますので」
だったらついてくんなよ……。
いつまで経っても寿司が食べられないじゃないか。
俺のシマアジが……。
そんなこんなで市ヶ谷についてしまった。
直線距離だと4キロ足らずだし、有能な護衛のおかげで戦闘時間も短い。
そのうえ葛城ちゃんは地理にも詳しいので歩きやすい道を通ってきたおかげだ。
とりあえずアパートエントランスの封鎖を解いて、葛城隊には中に入ってもらった。
通すのは自分の部屋ではなく塚本さんが使っていた方の部屋だ。
「俺はこれから身を清めて、召喚の儀式を執り行う。その間、君たちはこの部屋で待っていてくれ」
「承知しました。儀式はどれくらいかかりますか?」
「およそ24時間」
それだけあったら向こうでシャワーを浴びて、寿司を食って、睡眠をとって、ゴムボートを注文する時間もあるだろう。
「長くかかるのですね」
「それはそうだ。神大さんからは20リットルの軽油を頼まれている。それだけのものを召喚するには、それなりの時間を要するんだよ」
「なるほど」
神大の名前を出したら、葛城ちゃんたちはあっけなく俺の嘘を信じてくれた。
「待ってる間にこれでも食べてて」
点検口に隠しておいたジュースやお菓子を出したら、葛城ちゃんたちの目が点になっていた。
「護衛の任ご苦労だった! 召喚が済み次第、君たちには軽油を運んでもらうことになる。それまで英気を養っていてくれたまえ!」
なにやら訓示っぽく言うと、葛城隊の皆さんは背筋を伸ばして聞いていた。
並行世界の少女たちはこういうノリが好きなのだろうか?
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