6-4

 本当はすぐに戻って車両を運ぶ実験をするべきなのだろうが、俺はNHKの方角に向けて細い路地を歩いている。

代々木コミュニティーや神大悟じんだい さとるという男を見たいという理由のほかに、自分のスキルレベルを上げておきたいという思惑もあった。


 現在のスキルレベルは7である。

前回は4から7へ一気に上がったから定かではないが、もしかするとレベル5の時点で3点バーストモードが解放されたのではないかと推量している。

だったら、次はレベル10で新たなモードが解放されそうだ。


 港区からボートで木更津へ行くにせよ、亀戸でボートを借りるにしろ危険は付きまとう。

少しでも自分の立場を有利にしておきたかった。


 もっとも、死んでも甦るんだから、これ以上有利なことなんてないけどね。

それに、次は一緒に転移する予定のエルナにいいところを見せたいという気持ちもある……。

しょうがないだろう、オッサンの中の少年は永遠に死なないのだ。

少しくらいカッコつけさせてくれよ。


 瓦礫で塞がれて通れない場所を何度も迂回して、東に大回りしながら代々木公園へと近づいていく。

途中で何度か魔物との遭遇戦になって、ついに負傷してしまった。

思いっきり左腕を噛まれてしまったのだ。

俺の腕に噛みついているトカゲ型の魔物の脳天に魔弾丸を打ち込み、辛くも敵を倒せたが、流れ出る血は止まらない。

骨もグシャグシャになっているようだ。

痛みでまともに立ち上がることすらできなかった。

これは放っておいても死ぬだろうけど、さっさと自決して元の世界に戻った方がよさそうだ。

レベルはようやく9になったのに、惜しいところだったな。


レベル :7 → 9

弾数  :7発 → 12発

リロード:8秒 → 8秒

射程  :27メートル → 28メートル

威力  :16 → 18

命中補正:9% → 10%

モード :三点バースト、??? →三点バースト、???


 焼けつくような痛みに耐えて、前回のように指をくわえた。

もし、両手が負傷していたら自決できるのかな? 

考えるだけで恐ろしい。

もしかしたら足の指からでも魔弾丸は撃てるかもしれないけど、腹の脂肪が邪魔でうまいこといかない気がする。

足の指か……。

今はブーツを脱げないから、死に戻ったら実験してみよう。


 そろそろ楽になってしまおうと目を閉じた。

そのとき瓦礫の上から人の声が聞こえた。


「おい、人が負傷しているぞ。葛城かつらぎ! こっちへ来てくれ」


 余計な邪魔が入ったな。

俺は死にたいんだからそっとしておいてくれ。

集まってくる人を無視して魔弾丸を自分に打ち込もうとしたら、とんでもない美少女が現れた。

この子が葛城さんかな? 


「今楽にしてあげます。少し待っていてください」

「僕は疲れたよ。なんだかとっても眠いんだ」


 少し甘えてみたけど、葛城さんは無言で傷口に手を当ててきた。

途端に痛みが和らいでいく。


「うお? なにこれ?」

「私のスキルは『麻痺』といいます。敵を麻痺させる効果もありますが、こんな風に麻酔のように使うこともできるのです」


 傷口の少し上のところを布で強く縛られて止血をしてもらった。


「ありがとうございます。貴方たちは?」

「私たちは新王・神大悟様の正規軍です。貴方は?」

「反町寛二といいます。どこにも属さない一匹狼でして……」


 むしろ一匹ノブタ? 

負傷の身に自虐ネタはつらい。

俺を取り囲んだ人々は何やら小声で話し合っていたけど、最終的に葛城さんが声をかけてきてくれた。


「反町さんの治療をしなくてはならないですね。癒しの巫女様に相談してみましょう」


 なんだかよくわからないけど状況に流されてみるか。


「おい、こっちのオオトカゲは助けたお礼に貰っていくぜ」


 別の男がトカゲの四肢を結んで棒に括り付けていた。

みんなで担いで運搬するのだろう。

あのトカゲは食べられるのか。

今度倒したら少し味見をしてみることにしよう。


 男たちに肩を貸してもらいながら、代々木公園コミュニティーへと向かった。

当初の予定では外側からサラッと観察するだけのつもりだったけど、いきなり内部へ入り込めそうだ。

いい機会だからどんなところかよく見ておこう。

それにしても葛城さんは可愛いな。

アニメやゲームに出てくる戦国武将少女みたいな凛とした美しさがある。

俺としては塚本さんの方がタイプだけど、見ている分には葛城さんも素敵だった。

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