6-3
ザックから品物が取り出されるたびに周囲の人々はどよめいた。
「見ろよあれ、『赤いどん兵衛』じゃないか!」
「嘘だろ……『ポンカレー』も『ペ・ヨンジュン・ソース焼きそば』あるぜ……」
今回は缶詰だけじゃなくて様々なラインナップを用意してみたのだ。
塚本さんの好みはどれだろう?
「どれでも一つ10万円ね。好きなものを選んでくれ」
難しい計算は面倒なので大雑把に値段を付けている。
俺は計算が苦手だ。
それに塚本さんがどれを選んだところで9万9千円以上の利益はでる。
「どうしよう……、こっちのみつ豆の缶詰は外せないし、パイナップルもマストよね。カップ焼きそばと、大盛りラーメンと……」
「塚本! あとで20万円でも30万円でも払うから、そこのタバコを俺にくれ!」
おっ、やっぱりタバコを吸いたがる人がいたね。
俺は吸わないけど欲しがる人は必ずいると思ったんだ。
「つかもっちゃん、お願い! チョコレートを食べさせて!」
こっちの人の気持ちはわかる。
好きな人にとって、カカオは中毒性のある食べ物だ。
ここに住む人々は俺の品物に夢中になったようだな。
これで次回はもっとたくさんの資金が手に入ることだろう。
優しい塚本さんは仲間たちに食べ物を分けてあげていた。
次回は全住民がお金を集めてくるだろう。
そうなれば一千万……、いやいや億越えだって夢じゃない!
何が欲しいかのアンケートを取ってから、松濤コミュを後にすることにした。
自分の欲しいものが手に入るとあればみんなのモチベーションも上がることだろう。
次回は買い物も多くなるから、エルナにも手伝ってもらうことにするかな。
「もう帰るの? 今日は泊っていけば?」
塚本さんが俺の袖を引っ張った。
でも不用意にそういう発言をしないでもらいたい。
モテない男はすぐに勘違いするからね……。
時刻は正午をとっくに過ぎている。
塚本さんは俺が今からアパートまで戻ると思っているのだろう。
市ヶ谷に着く頃には日が暮れてしまうと心配してくれているのだ。
「大丈夫だよ。今日は途中で寄るところもあるし」
「だけど……。知っているかもしれないけど、代々木公園の方を通るときは気をつけてね」
「どうして?」
「ほら、あそこのコミュの人は強引だから……」
代々木公園コミュは東京でも有数の大きさを誇っているそうだ。
300人を超える人々が集まり、農業や狩猟は盛んだし、銃器や車両などさえ有しているとの噂もある。
そんな巨大コミュをまとめるのが
しかもこいつは
「新王? うぷぷっ、なにそれ、中二病?」
「笑い事じゃないのよ。私たちのところにも魔物から守ってやるから貢物をよこせって言ってきてるの。神大の部下は強力なスキルを持っている奴が多いから、逆らうことも難しくてさ……。実際にここら辺の魔物を駆逐しているから、神大に従おうっていう意見さえ出てきているのよ」
なんだか本当に世も末って感じだな。
21世紀は始まって間もないけどさ。
そういえば子どもの頃にミレニアムって言葉が流行っていたっけ……。
「あいつらは強引に兵隊を集めているから反町さんも気をつけてね」
「わかった。代々木公園には近づかないようにするよ」
と、塚本さんにはまた嘘をついてしまった。
だって、どんなところか見てみたかったんだよね。
そんな軽い気持ちで代々木公園を目指して歩き出した。
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