6-2
肩に食い込む荷物にヒイヒイ言いながら進むと、とつぜん声をかけられた。
武器を携えた三人組だ。
「もしかして、反町さんですか?」
誰だろう?
記憶にない顔なんだけど。
「そうですけど……どこかでお会いしましたっけ?」
「いえ。塚本から話を聞いていましたので」
そうか、塚本さんから俺の話が通っていたのね。
えっ?
でもなんで?
「どうして俺が反町だとわかったんですか?」
「それは……その、塚本が、反町さんは恰幅のよい中年男性と言っていましたから」
翻訳すると小デブのオッサンか。
そういえば、この世界でデブは絶滅危惧種だったよな。
今や俺こそがニッポニアニッポンになってしまったか……。
こんな体型では目立って仕方がないのだろう。
本当は少し傷ついていたんだけど、表情には出さずに対応した。
「ちょうどよかった。塚本さんに頼まれていた食品を運んできたんです。ちょっと手伝ってもらえませんか?」
ものすごく重いからこの人たちにも手伝ってもらっちゃおう。
「じゃあ、あの話は本当なんですか? お金を食べ物と交換してくれるっていう……」
「本当ですよ。ほら」
リュックのサイドポケットに詰めておいた、筒入りのポテトチップスを見せてあげると、3人のテンションは一気に天へと駆け上った。
「おい、お荷物をお持ちしよう」
「俺たちに任せて下さい!」
うむうむ、良きにはからえ。
チップ代わりにチップスでもあげようかな。
三人組に案内されて松濤公園へと向かった。
公園を取り囲む細い一方通行の道路には隙間なく大型車両が停められていて、魔物から人々を守る防御柵になっている。
公園には池があり、その水が生活に利用されているみたいだ。
集落の基本は水の確保から始まるのだ。
池では食用の鯉も飼われている。
池の横には井戸が掘られていて、飲料水はそこから汲めるとのことだった。
この近くには似たようなコミュニティーが点在していて、どことも協力関係にあるそうだ。
住民が多いなら、ビジネスチャンスはますます広がるだろう。
缶詰1個10万円、いらんかえ~?
この辺りは元々が高級住宅街のようで、立派な家が軒を連ねている。
人々はそのうちの何軒かに別れて暮らしているそうだ。
池の鯉をめでながら塚本さんを待った。
本当はおやつに持ってきたパンを鯉にやりたかったんだけど、きっと顰蹙(ひんしゅく)を買うから止めておいた。
鯉とかハトに餌をやるのが好きなのに……。
「反町さん!」
塚本さんが笑顔でこちらに走ってきた。
「二日ぶりですね! 元気そうで何よりです」
二日ぶり?
昨日の朝に別れた気がするんだけど……。
俺は死んだら転移した1秒後の世界に戻るけど、こちらではそのまま時間が経過するのかもしれない。
そのあたりも確かめないといけないな。
「物資が集まったからやってきたんだ」
「それはよかったです。皆に反町さんのことは話したんだけど、全然信じてもらえなくて」
やっぱりそうか。
そんなことだろうと思って来たのだ。
「塚本さんはお金を集めてくれた?」
「ばっちりです。実はこの辺はお屋敷街だからタンス預金を残している家がいっぱいあるんですよ。見て下さい」
ポケットから取り出された札束が三つも取り出された。
「おお!」
「金庫を開けられればもっと持ってこられるんですけど、私にはそんなスキルはないですから」
「いいよ、いいよ。じゃあさ、ちょっとあざといけど、皆の前で取引をしない? その方が宣伝になるし、コミュの皆さんのやる気も出るだろうから」
塚本さんはいたずらっ子みたいな笑顔になった。
「いいですよ。その代わりオマケしてくださいね」
「ああ。バッチリ宣伝費は払うからさ」
俺たちは固い握手を交わした。
しっかし、300万円ですか……。
この調子で金が集まれば、船なんて余裕で買えるんじゃね?
問題はあちらの世界にどうやって持っていくかだけだ。
これに関してはあんまり期待していないんだよな……。
「そうそう、塚本さん。ちょっと聞きたいんだけど、海にも魔物っているの?」
「さあ、聞いたことはないわね。釣りをする人が襲われたって噂も聞かないし」
それは有益な情報だぞ。
だったらエンジン付きのゴムボートを使うのが一番いいような気がしてきた。
木更津までだって歩くよりはずっと早く着くはずだ。
途中で荒川を遡上すれば、徹たちにお菓子を届けることも可能だろう。
結城に会うのは嫌だけど吉永さんたちのことは気になる。
「海に行くつもりなの?」
「正確に言えば千葉県の木更津に行きたいんだ。そこに娘がいるかもしれない」
「そっか……」
何やら塚本さんの視線が熱い。
「どうした? もしかして惚れた?」
「うん。こんなお父さんが欲しかったなって」
そっちですかいっ!
まあ、褒められれば悪い気はしない。
それじゃあ気を取り直してビジネスといきましょうか。
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