4-3
何も起こらないままに夜が明けた。
俺が塚本さんを襲うこともなかったし、魔物が夜襲をかけてくることもなかった。
たまに鳴き声や地響きがして目が覚めたけど、あれはかなりビビったな。
「大型獣のほとんどは夜行性だからね。でも、大きいだけあって建物の中まで入って来ることは滅多にないわ。数も昔よりはずっと減ったしね」
人間と魔物は数のバランスが取れて、共存期に入っているのかもしれない。
スタンピードのときは昼夜に関係なく暴れまわったそうだけど、今は昼と夜の区別もしっかりできているそうだ。
死にたいときは夜の街へ行けば簡単に殺してもらえるわけね。
「そろそろ出かけるけど、反町さんはどうするの?」
「俺も出るよ」
今日は早めに木更津まで移動して、自衛隊の駐屯地で転移する予定なのだ。
まずは元の世界へ帰らなければならない。
二人で協力して入口の封鎖を解いた。
「ねえ、どうして昨日は私を抱かなかったの? 待っていたんだけどな」
瓦礫をどかしながら塚本さんがそんなことを口走った。
そうなの!?
はっきり言ってくれないとわからないんだよなぁ。
駆け引きとかは苦手だから。
「本当に?」
「どうだろう……」
塚本さんにもわからないことなら、俺にわかるわけもない。
「迷っているうちはやめた方がいいと思うぜ。それに俺は見かけほどスケベじゃない」
「本当に?」
「どうだろう……」
俺たちは顔を見合わせて笑った。
どんな世界でも笑えることはいいことだ。
「それじゃあ気をつけて」
「うん、私はいったん松濤公園へ戻るわ。反町さんも死なないでね」
「おう、死んでたまるかよ」
いきなり嘘をついてしまった。
本当はさっさと死んで、明日は千葉に行く予定である。
塚本さんと別れてバールを片手に歩き出した。
四ツ谷駅方面へ南下しながら住宅街を抜けていく。
この辺りも大砲の弾でも飛んできたのか、ひどい有様だ。
駅に向かっているとはいえ、電車に乗りたいわけじゃない。
ここから一番近い郵便局が駅前にあるから、そこを目指しているだけだ。
運が良ければ大量のお金をゲットじゃない?
そうなる前に魔物が出てきそうだけど、そのときはそのときだと軽い気持ちで歩き続けた。
ついていない時というのはどうしようもないものだ。
郵便局は戦火で炎上したらしく、外形をとどめていなかった。
中にあった札束も燃えてしまったに違いない。
仕方がないから近所のコンビニでも見てみようか。
コンビニATMをバールでこじ開けられるかわからないけど、試してみる価値はあるだろう。
そんなことを考えていたら角を曲がって魔物がやってきた。
それもなんと角の生えたイノシシだ。
昨晩鍋にして食べたやつの親戚か?
仇を取りたいのなら取らせてやろう、俺は向こうに帰りたい。
俺たちの利害は一致しているのさ、なんてクールぶってみたけど、やっぱり怖いものは怖かった。
魔物の方でも俺の存在に気づいたらしく、身を低くして構えている。
やっぱりイノシシのように突進してくるのかな?
きっと、あの長い角に貫かれて死んでしまうのだろう。
恐怖がマックスになった時、俺の頭の中で何かがスパークした。
頭の中に流れ込んでくる情報の奔流が嘘のように速やかに理解につながる。
そうか、これがスキルか!
スキル名:マジックガンナー
説明 :指先から魔力の弾丸を撃ちだせる。
レベル :1
弾数 :5発
リロード:10秒
射程 :25メートル
威力 :10
命中補正:5%
モード :???
手が拳銃の形をとり、自然に腕が持ち上がった。
息を吐きながら命中させたいイノシシの眉間を見つめる。
力をためた角イノシシが襲い掛かってきた時にも、あまり恐怖は感じなかった。
そりゃあそうか。
さっきまで死んでしまおうと思っていたんだものな。
右手がぶれないように左手をそえた。
そして魔力を込めながらスキルを開放する。
バシュッ!
指先から放たれた
音を立てながら魔物の体がアスファルトへ沈んでいく。
バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ!
続けざまに全弾を発射してから腕を下した。
全身の緊張を突き破るように、体の奥底から高揚感が弾け出す。
「すげぇ!」
感激なんてものじゃないね。
自分にこんなことができるなんて思いもよらなかったよ。
突然、骸となった角イノシシから白い光の玉のようなものが浮かび上がり、俺の体へと飛び込んできた。
途端に頭の中で声が響く。
『レベルが上がりました』
レベル :1 → 2
弾数 :5発 → 5発
リロード:10秒 → 10秒
射程 :25メートル → 25メートル
威力 :10 → 12
命中補正:5% → 5%
モード :??? →???
さっきの光は魔物の魂?
ゲームで言う経験値みたいなものだろうか。
俺のスキルは魔物を倒すことによってレベルアップしていくみたいだ。
今回のレベルアップでは威力が少しだけ上がっていた。
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