毎日が辛いあなたへ

睦月

私は今─

 周りの子達は、流行りの服とか雑貨に詳しい。お喋りの内容もそんなのばっかり。私に意地悪はしないけど、特別仲良くもしない。

 私のお父さんとお母さんは仲が悪い。お父さんは何回も仕事を辞めちゃうから、家はピリピリしている。お陰でビンボーだし。


 物心がついてお洒落をしたり、デートをしてみたかったけど、お金が無い。頑張って働くお母さんを見ていると、お小遣いをねだるなんて以ての外だ。遺伝性の病気があり、容姿をからかわれたりする。病院代も安くはないんだって。ありがとう。


 私は『普通』に憧れた。クラスメイトの家に行くと、綺麗な家に仲の良いお父さんお母さん。見た事無いお菓子とジュース。話題の洋服に可愛い髪型のクラスメイト。どれか一つでも、と何回思った事か。


 生まれ育った街は、結構田舎なので娯楽が少ない。クラスメイトと上手く馴染めなかった私は地元愛なんて微塵も無い。派手な髪色やアクセサリーを身に着ける事がステータスな環境なのだ。狭いコミュニティなので、休日にクラスメイトに会う事が多く憂鬱だった。


 思春期になると、こんな毎日にウンザリしていた。自分は『普通』にまで達していないのだ。

 精神的に参っていた。親にもう死にたいって言った事もあったっけ。ごめんなさい。


 何だかんだで大人になる。大人っていうのは精神的にとかではなく、成人式を迎えたという事だ。地元で就職したところがそこそこブラックだったがお金の為に何年か働き、地元以外に転職した。


 初めて生まれ育ったところ以外の街で生活をすることは、今までの人生のモヤモヤを晴らしてくれそうな予感がしていた。両親は結局離婚し、お母さんと一緒に地元を離れた。


 新しい職場は前職と比べホワイトだった。職場や街の雰囲気も良い。努力が結果になり、仕事をする事が好きになった。気持ちに余裕が出来た私は、数少ない友達の輪から他の繋がりを見つける事が出来た。医療も進歩し、治りにくかった病気は良くなってきている。少しずつだが『普通』に近づけた気がする。


 今から思えば、様々な理不尽や多少の人間性の悪い人が居たかもしれないが、劣等感や妬みから自分で他者へ壁を作っていたのかもしれない。でも私は、関わる事を辞め距離をとった。死んでしまうことを選ばなくて良かった。合わない事から離れる事は逃げなんかじゃないよ。


 大切な人と結婚することになった。自分の欠点までもわかっているだろう恋人と、私は一生側にいることだろう。結婚式には親しい友人と親だけ招待する。本当に来て欲しい人だけでいいじゃないか。

 こんな私は『普通』になれたかと考える事がある。私にとって『普通』とはなんだろうとわからなくなった。


 だって私は今、最高に幸せなのだから。



 

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