無重力の球体

 どんなに言葉を尽くしても、あたしのことは見えない、あなたは知らない、あたしの存在を認めてくれる柔らかな空気にすべてを託して、許されている気がしてしまう、勘違い。呼吸をするたび肺に入り込んでくる小さな棘、あたしを内側から壊して新しくなれるかな、そんなこと想うけど、棘は棘、刺さるだけで抜けなくてたくさんたくさん刺さって棘だらけになる、呼吸を止めることはできない。吐く息はいつも濁っていて、嘘が混じる舌がどんどん毒を吐き出す。夜に溶け込み見えなくなった。世界はいつも閉じている。あたしの嘘、あなたの虚栄、似たもの同士、磁石みたいに重なり合った、くっついてとれなくなった、むりやり引き剥がし壊れてしまった。離れた手は帰らない、どんなに重なり合ってもどこか壊れている。海を渡って死がやってくる、生きるために留まろうか。朝は月を殺している。あたしは何度でも死んで息を吹き返す、どこかそのたびに壊れていった、新しい熱を探して闇を疾走し泥に飲まれた、立ち上がろうとも沈んでいく、死は石ころみたいに転がっている、そうかと思った。あたしは小さな球体、欠けているから完璧じゃないけど。完璧じゃないからきれいに転がることができないあたしは真っ逆さまに落ちていく。

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