第30話『不死身のスパール』

 ソピアの両足を繋ぎあわせているのであれば、

 そこを切れば動きを止められるかもしれない。


 俺を間合いを詰め、剣の形に変形させた腕を振るう。

 脇腹から刃が食い込み、横一文字に両断する。



「……ソピア様の体と切り離せば、僕の不死性を無効化して殺せると考えたのだろうけど、浅はかな考えだったね。今の僕は"子どもたち"の協力のおかげで医療の技術だけで不死の力を得ることに成功したんだ。今の僕は、ソピアさまの半身がなくても無敵だ」



 上半身が引きちぎられくるくると回り吹き飛ぶが、

 両断された胴体からヌルリと新たな足が生えてくる。


 一瞬のスキをつくために頭頂部から縦一文字に切り結ぶ。

 頭頂部から腹部まで真っ二つに切り裂き、

 裂けるチーズを真ん中から割いたかのように綺麗に真っ二つになった。



「「だから無駄なんだよ」」



 真二つに割れた左右の頭がそれぞれ元通りに復元する。

 まるで双頭の蛇のように、

 二つの頭を持つ異形へと変化する。



「「なるほど。頭が二つあれば、2倍の思考力を持つことができる。これは盲点だった。君に真っ二つに切られるまで気づかなかったよ。やはり、科学の発展には痛みが付き物ということなんだね。とても勉強になったよ」」



(……脳を破壊しても体を復元するとは、不死身か)



「僕はね。ソピアさまから授けられたこの科学という叡智を使って、世界の人々を救いたいんだ。魔法による治癒なんていうのはね……医療技術と比べたらあまりにも不完全だ。僕は、人を……全ての人類を救いたいんだ」



「そうか」



 この男と価値観があまりに違う。

 人は生きるために産まれてくるのではない。


 ……無限に他人の臓器を造るためだけの機械として生かされる。

 それは、もはや人の生き方ではない。



「「無駄だよ。僕はね、"子どもたち"が持っている能力を全て身につけているんだ。いまの僕は、ソピア様の半身がなくても無限に生きることができる。君は手数の速さが自慢のようだけど、それならば見逃さないように目を増やせばいいだけだよね」」


 

 男の全身をおびただしい数の目玉が覆い尽くす。

 二つの頭を持つ目玉だらけの化け物。

 この男の心の内面を移したような異形。



「「全身が目に覆われた今の僕に死角はない」」



 バックステップで距離をとり、

 腕を槍の形に変形させ心臓に向かって突き立てる。

 男の腹が縦に割け、巨大な口になる。


 俺の槍状にした腕を噛みちぎられる。



「「君もしつこいね。僕は不死身なんだよ。そろそろ諦めたらどうだい?」」



「……ロイコクロリディウムカタツムリの触覚に寄生する虫



「ロイコ……? ん……なんだその名前は? 君、気でもおかしくなったかい?」



「それがカタツムリがわざわざ鳥に捕食されやすい葉っぱの上に登る理由だ」



「ん? カタツムリがどうしたっていうんだ? 一体……君は何を」



 俺の体をあえて取り込ませることによって、

 強制的に足の筋肉を俺の体の一部であるスライムによって、

 操り男を廃棄処理場と名付けられていた、異形の肉塊の前に歩みを進めさせる。



 芋虫のような肉塊は俺の体を取り込んだ三賢者スパールを

 認識できず"エサ"と認識し、モゾリモゾリとゆっくりと這いずり、

 スパールの元へと近づく。



「……君は、一体なにをしようとしているんだ? やめるんだ! やめろぉ!!」



「俺は清掃員だ。目の前の危険な産業廃棄物を処分しようとしているだけだ」



 廃棄物処理機と呼ばれていた芋虫のような肉塊は、

 スパールを頭から丸呑みにして口内の何百とある、

 おびただしい数の歯で咀嚼する。

 


 スパールが肉塊の口の中から這い出ようとしても、

 おびただしい数の触手によって引き戻され、

 何度も咀嚼される。

 

 声帯も破壊されているせいか悲鳴すら聞こえない。


 スパールは何度も無数の歯で咀嚼されながら、

 すぐに再生するが再生するとすぐに咀嚼される。


 巨大な口の中でどんなにミンチ状の肉片になっても再生する。

 再生するたびに噛みちぎられ、すり潰される。


 言葉に嘘はなくこの男は哀れなほどに不死身だ。

 三賢者スパールは確かにまともに闘っていたら、

 厄介な相手だっただろう。


 生前の世界では、地獄の最下層では最も罪の重い罪人は、

 サタンによって死ぬことを許されず永遠にサタンの口の中で、

 体を噛み続けられるそうだが、

 目の前で起きているのはそれと同じことだ。


 いつか、もし仮にスパールが運良く死ねたとして、

 行く先の地獄でも同じ刑罰を受けることになるのだとしたら、

 今のこの状況はその予行演習のようなものである。



「死ねないというのも随分と不自由なものだな、スパール。お前が苦しめた人たちが感じさせられた苦痛を永遠に味わいながら、そこの中で生き続けるが良い。」



 狂人に千年間不当に奪われていた妻の両足を回収し、

 俺は異形に咀嚼され続ける男を横目に、


 ダンジョンのさらに奥へと進むのであった。

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