第27話『お花見の約束』
第三階層のキメラのキオールを倒したあとに、
ボス部屋の前で待っていたハルと合流し、家路に着いた。
「ソピア、あのダンジョンの第三階層のボスを倒したら"邪神の腕"というドロップ・アイテムを手に入れたんだけどこれってもしかしたらソピアの腕なんじゃないか?」
体を刻んで、千年も地下に幽閉した、
狂信者たちのことは彼女の思い出したくない記憶だろう。
「……っ! それは、妾の両腕なのじゃ。まさかモンスターの体のなかに取り込まれていたとは思わなかったのじゃ」
「もしかしたらと思ったけど良かった」
「もしかしたらまだ、妾の体にくっつけられるかもしれぬのじゃ。試しにやってみるのじゃ。すまぬが、ソージ、手を貸してくれぬか?」
俺は"邪神の腕"の左腕をソピアのスライム状の肩にはめる。
まるで左腕が吸い込まれるようにピッタリはまる。
「うむ……。左腕は、綺麗に繋がったようじゃの。むっちゃ、馴染むのじゃ。間違いなく、妾の腕のようじゃの。すまぬが、右腕の方も頼むのじゃ」
"邪神の腕"の右腕をソピアの肩の付け根の部分に当てると、
まるでもとからそこにあったかのように回復する。
「腕に違和感とかは無いか?」
「すこぶる調子が良いのじゃ。それに、腕を元のようにスライム化することができるのじゃ。随分と体の調子が良くなったのじゃ、ソージよありがとう」
「気にするな。その両腕はボスが偶然ドロップしただけだ」
「ふむ。それにしても、ボスが妾の腕をドロップするとは……。あれから千年も経った。所有者が老衰で死に、妾の腕もアイテムとしてダンジョンに取り込まれ、階層ボスのドロップ・アイテムとして再利用されたということじゃろうかの?」
「そうかもな。まあ、ダンジョンっていうのは不思議なところだよ」
それと今後の三賢者という狂人たちの闘いに、
ハルを連れて行くことはできない。
それはあまりに危険過ぎる。
そんなことを考えていると、ハルが俺の目を見て話す。
「ハルね……明日からは、孫娘ちゃんと遊ぶ約束しているから、パパと一緒にダンジョン探索にはいけないなの。パパも、ハルの事を気にしなくてもいいなの」
ハルが孫娘ちゃんと言っている子は、
この家を貸してくれた娼館の女主人の孫娘のことだ。
人見知りをするハルにしては珍しいが、
友達ができたというのは素直に親としては喜ばしい話である。
「ハル知っているなの。パパはママのために命がけで頑張っているなの。だから、ハルは邪魔をしたくないなの。パパ、頑張ってなの」
ハルが俺に向かってウィンクをしていた。
ハルはウィングが少し苦手なようでウィンクで
閉じた逆側の目も半目になってしまうクセがある。
かわいらしい。
まぁ、親ばか的な評価なのだと自覚はあるが。
ハルは、想像以上に聡い子供である。
もしかしたら、第三階層のボス部屋でのキメラのキオールとの
一件もある程度、理解しているのかもしれない。
ソピアの体を盗みとった悪党どもから体を奪い返すということは、
並大抵のことではないだろう。
千年の時を生きた狂人たち、
どうのような奇抜な攻撃を使ってくるかも分からない。
ハルは、単純なモンスターを倒すという観点では、
俺よりも強い、とは思う。
だが、それは戦う相手がモンスターの場合の話だ。
相手が人間であればその力をふるうことはできない。
俺は娘を守りながら、どんな手を使うのか分からない、
狂人たちと相手取るのはかなり厳しい。
俺が万が一死ぬことは許容できる。
だが、ハルを俺のエゴの巻き添えにすることは許されない。
だからこそハルの口から、
ダンジョンの探索には行かないと言ってくれた事は、
俺にとって、とても助かることなのだ。
「すまないな。ハル。落ち着いたら、ダンジョンでも、王都の外の花園でも、どこにでも連れて行こう。約束する、そろそろ王都の中央公園の花が咲き始める時期だ。落ち着いたら、家族みんなでお弁当を作って花見に行こう」
「花見……楽しみなのじゃ。ソージが取り返してくれた、この両腕で最高のお弁当を作るから楽しみにするのじゃ。今までで、一番美味しいお弁当を作ってやるのじゃ!」
「ハル、ママのお弁当も、お花見も楽しみなの~! パパも花見を一緒に見にいくために、絶対に無理しちゃダメなの」
まだ、肌寒さを感じる季節ではあるが、
そろそろ王都の木々に綺麗な白い花が咲く時期らしい。
木々の花が満開になる前に、必ず全てを片付けよう。
家族3人水入らずで花見ができたら、それだけで最高だ。
王都の中央広場でハルの好物の串肉もたくさん買おう。
ハルにもいい思い出を残してやることができるのではないか。
道具屋で販売が開始されたという少し高いけど、
若者に人気のシュワシュワ回復薬もハルに飲ませてあげよう。
俺は今の状態にとても満足している。
これ以上ないくらいに幸せだし、
恵まれていると思っている。
だからこそ、俺の妻を不幸にし、
いまも静かに苦しめている連中が許せない。
だから、俺は明日もダンジョンに潜るのだ。
妻の体を取り戻し、その罪の報いを受けさせるために。
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