第23話『夫婦ふたりでお風呂タイム』

「そういえば、おぬしの留守中にギルドの受付嬢さんがうちに来ておったぞ」



「なんだろうね?」



「何やら明日の午前中にソージがギルドに来るようにと言っておったのじゃな。ギルドカードに記載の家族情報を変更したいということじゃった」


 ギルドカードは前世でいうところの身分証明書と戸籍謄本をあわせたような物で、

 たとえば家族情報が変更になった場合はギルドに届け出にいかなければならない。


 王都内でダークエルフの暗殺者が潜りこんだりしないように、

 住民を管理するために大事な仕事だ。


 俺としても、忘れていたわけではないのだが……。



「家族情報変更に伴う、ギルドカードの更新手続きをしろって催促だろうなぁ。といっても、王都に出てまだ数日だというのに随分と情報が早く伝わるものだなぁ」



 まだ王都にでて2日しか経っていない。

 ずっと地下にいたソピアとハルが王都に出たのも2日だけなのに、

 ギルドに知られるとは……。


 思いのほか王都はしっかり住民情報を管理しているようだ。



「きっとソージの仕事がそれだけ注目されておるからなのじゃな」



「そうかな、そうだと嬉しいけど。照れるな。まあ、この悪目立ちする外観のせいで目立つせいだとは思うけどね」



「見慣れてくると、その独特なファッションも個性があって格好良く見えてくるから不思議なのじゃな。ソージも気にする必要などないのじゃ」



「ありがと。俺も気に入ってはいるからそう言ってくれると嬉しい。仕事中も、ダンジョンに潜っている時も呪いの装備はめっちゃ役に立つからな」



「おぬしのあらゆる状態異常を無効化する体質というのは便利なものじゃな。ダンジョンの探索も順調に進んでいるようでなによりじゃ」



「そうだな、1階層の黒甲冑がそこそこ強かっただけで、2階層のミノタウルスに至っては一撃だったからな。それにしてもダンジョンって何なんだ?」



「ふむ。ダンジョンか……。ダンジョンは、千年以上前にこの世界の資源が枯渇しそうになったときに、その時の始祖錬金術師が作った物と言われておる」



 ソピアの封印の件といいダンジョンの発明の件といい、

 千年前にはいろいろと大変なことがあったんだなぁ。



「でも、資源の採取が目的なら人目の付かない、王都の地下下水道の隠し扉の先に作るっていうのはちょっと変な気はするよなぁ」



「確かにじゃな。千年前の始祖錬金術師が製造した、ダンジョンを作るためのダンジョン・コアの数も限られていて相当に貴重だったはずなのじゃ。そうポンポンとダンジョンを作れなかったはずなのじゃ」



 あと一番の気がかりなのはダンジョンの入口の鍵と、

 ソピアを閉じ込めていた部屋に使われていたのが、同じだったことだ。

 間違いなくソピアに関連した施設であることは間違いない。



「うーむ。確かに気になるのじゃな。そもそもダンジョンというのは、資源が枯渇しないように作られたものだったはずなのじゃ。まったく人の行き来がないところに作っても意味がないのじゃ」



「資源の枯渇問題を解決するのがダンジョンって、どういう意味だ?」



「モンスターを倒すと、たまにドロップ・アイテムを落とすのじゃな? ソージもモンスターを倒したときにドロップ・アイテムを手に入れたりしたことはあるじゃろ?」



「いや……いまのいままで、俺は相当な数のモンスターを狩っていたはずだがドロップ・アイテムは一度も出なかったなぁ」



「ふむ……興味深いのじゃな。そこまでいくと、珍しい。ところで、ソージおぬしは"運"の能力値がどの程度かもしよければ教えてくれぬかの?」



「俺の運の能力値は"1"だ」



「なるほど……原因が分かったのじゃ。単純におぬしがドロップ・アイテムを手に入れられないのは運の値が低いのが原因じゃ。おそらく、今後もドロップ・アイテムを手に入れられる可能性は限りなく低いと考えた方が良いのじゃな」



 魔力極振りで転生したから仕方ないが、運は"1"だ。

 というか、魔力が"10"で残りの値は全部1だ。


 まぁ、ドロップ・アイテムが出なくても、

 現実的な問題として特に困ったことは無い。



「なるほど。ちなみに、モンスターを倒すと手に入るドロップ・アイテムってどんなのがあるんだ?」



「例えばゴブリンを倒すと毒玉などをドロップするのじゃな。強いモンスターの中にはミスリル系の武具を落とすものもおるようじゃ」



「ふむ。道具屋とかでも売っているものか」



「それはじゃな、武器屋や道具屋なんかで売られている物は、冒険者がモンスターを倒して手に入れたドロップ・アイテムなのじゃ。だから、運の値が低くてもお金があればお店で買うことはできるのじゃ」



「そうか。それなら、俺はそんなに心配する必要なさそうだな。真面目に仕事をしていればギルドから報酬は每日もらえるから」



「うむ、そうじゃな。」



 それにあらゆる状態異常を無効化する【健康体】を持つ俺にとっては、

 武器屋や防具屋で手に入る装備よりも、宝箱から手に入る呪いの装備の方が、

 明らかに使えるだろう。



「午前中にちゃちゃっと仕事を終わらせたあとに、しばらくはダンジョン探索を続けてみるよ。ハルも家に居てばかりだと、運動不足になるかもしれないしな」



「ソージはいつもハルちゃんの世話をしてくれて助かるのじゃ。いつも協力的なソージのために、明日は気合を入れて料理を作るのじゃ」



「今日の料理もめっちゃ旨かったぞ。あんまり気合を入れて料理を作っていると疲れるから、たまには俺が料理作ろうか?」



「その気持ちだけで嬉しいのじゃ。じゃが、料理は妾に任せておくのじゃ」



「了解。それじゃあ、料理についてはソピア任せた。俺は明日はハルとダンジョンの3階層に行ってくる」



「仕事が終わった後に子守りさせて、ソージには申し訳ないとは思うのじゃが、よろしく頼むのじゃ。妾はとっても助かるのじゃ」



「気にするなよ。初めての子供だから大変だっていうのは、俺も理解しているつもりだ。むしろ辛いことや、愚痴りたいことがあったら俺に対してだけは遠慮なく言ってくれ。夫婦だからな」



「ありがとうなのじゃ」



「おう。それじゃあ、ハルも寝たことだし、一緒にお風呂に入らないか?」



「うむ。思えば、夫婦ふたりだけで一緒にお風呂に入るのは初めてじゃったな。大きな浴槽なので楽しみなのじゃ」



 その後は大浴槽でお互いに体を洗いあったり、

 広いお風呂のなかでイチャイチャしたりと、


 入浴時間を楽しむのであった。

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