第22話『寝室での夫婦の会話』
ダンジョンの二階層を踏破したその日の夜に、
寝室でソピアと娘のことについて話し合った。
なお、寝室には簡単な鍵を付けている。
「ソピアはハルが剣を食べられること知っていたか?」
「えっ……剣って、あの剣なのじゃ?」
「ああ、モンスターを切ったりする刃物の、鉄でできた剣だ」
「そんなの食べた大丈夫なのじゃ?」
「なんかハルが一気に全身スライ化して"ぶわあ"って感じで宝箱から手に入れた、ブロード・ソードを体全体で丸呑みにしたんだ」
「"ぶわあ"ってなるのか、ハルちゃん……驚きなのじゃ」
「ソピアもあんな感じで食べたりしないの?」
「妾はスライム状態のときも"ぶわあっ"ってなったりしたりはしないのじゃな」
「ふーむ。お互い、ハルについては知らないことばかりだな」
「そうなのじゃなぁ。妾もハルちゃんのその話には驚いたのじゃ」
娘であるハルは人の状態でいることが基本だ。
……というかスライム状態になれることすら知らなかった。
まだ、0歳児ということもあるが分からないことだらけだ。
ソピアはスライム状態でいる方が楽なようで、
俺だけしかいないリラックスができる、
寝室のなかではスライム状態でいることが多い。
ソピアは人の姿を維持するのは、
大変というほどではないが少しだけ疲れるそうだ。
「それと、ハルな。一度食べた武器を矢の代わりに、弓から射出できるみたいなんだ。凄いよな」
「凄いというか。どういう原理になっているのか妾も確認が必要なのじゃ」
「ちなみに、ハルが弓から宝箱で拾ったブロード・ソードを射出してミノタウルスの頭に当てたら、ミノタウルスが即死した」
「ふえぇ……うちのハルちゃんはどうなっておるのじゃ」
俺は目の前で瞬殺されたのであまり実感がわかなかったが、
ミノタウルスはソピアいわく、そこそこ強いモンスターらしい。
もちろん仮に娘が倒せなかったとしても、
俺が倒せる程度の相手ではあるが。
知能は高そうな感じがしなかったので、
バブル・ウオッシュで溺死させられそうな感じのボスではあった。
でも、まさか一撃で倒すとは驚きだ。
うちの娘は天才かもしれない。
「ソピアもこの家の家財道具の修繕は結構大変だったんじゃないか? なにしろ家具が多いし、放置されて傷んでいる家具も多いからな」
「妾は家事仕事をするのが始めての経験じゃったのもあるが、なかなかに大変な仕事じゃった。世の奥様方は育児をしながら家事をしているのだから凄いと尊敬したのじゃ」
「ソピアも無理するなよ。俺もダンジョン潜るのはいまのところはハルの運動不足解消で行っているだけだから、家事がきついなら、ダンジョン探索をやめて仕事終わり次第早く戻ってきても良いんだぞ?」
もちろんソピアと関連のありそうなダンジョンなので、その調査の意味もある。
だが、それは急ぎの用件ではない。あくまで、ゆっくり進めればいいことだ。
重要なのは、いま大変な想いをしている妻を支えることだ。
「気妾としては、ソージにはハルちゃんの息抜きをしてくれた方が助かるかの。どうしても、ハルちゃんの世話をしながらだと家事を中断しなければならないことも多いから、ソージがハルちゃんを外に連れていって遊んでくれるのは一番助かるのじゃ」
「ハルは好奇心が強い元気な子だからな。ソピアも大変だとは思っている。いつも娘の世話をしてくれてどうもありがとう」
我慢強いソピアが大変という言葉を出すということは、
本当に大変なのだろう。
さすがに俺もギルドから請け負った王都地下の清掃中は、
ハルと一緒に居るのは難しいが、
仕事が終われば一緒に遊ぶことくらいのことは造作もない。
俺もハルと一緒にいれるのは楽しいし、
それでソピアの家事の手伝いになるなら一石二鳥である。
「こちらこそ、ありがとうなのじゃ。ソージがハルちゃんと一緒に遊びに行ってくれるから、その間に裁縫や、料理や、家具の修繕などの作業が捗るのじゃ。そして、たまに紅茶を飲んでゆったりもできるのじゃ。ソージには感謝なのじゃ」
「ハルにも10歳くらいの年齢の友達ができたら随分とソピアの負担も減ると思うんだけど、ハルは家族以外には結構人見知りするところがあるからな」
「そうじゃの。妾も、千年前はあまり人付き合いが得意な方ではなかったから、ハルちゃんもそれに似たのかもしれないのじゃな」
「ははっ、気にするなよ。俺も子供の頃はあんまり大勢の人間と付き合うのは得意な方じゃなかった。ソピアも俺も苦労したからこそ、ハルの気持ちが分かってやれたらいいんじゃないかな」
「そうじゃの! 前向きに頑張るのじゃ~!」
えいえいおー! っと拳を突き上げるソピアの髪を撫でる。
髪といってもスライム娘状態なので頭と一体化しているが。
「そういえば、いつものアレするか?」
「ソージ。おぬしも好きよのう」
ソピアが俺の背中から覆いかぶさる。
ヒンヤリとした胸が当たる感じが気持ち良い
「うおぉ……この吸い取られる感じ。ヤミツキになるんだよなぁ……」
「妾のしていることは、レベル・ドレインじゃぞ? それはソージにとって、気持ちの良いものなのじゃ?」
「何と言ったら良いのか説明が難しいんだが例えて言うならば、体の中に溜まった余剰エネルギーを吸い取られる感じは、ちょっとだけ、あの感じに似ているな」
「……ふむ。妾の旦那さまは、少しだけ変態さんのようじゃな」
「ははっ。まぁ、性癖は人それぞれということだ。100レベルくらい吸ってもらった後のソピアの翌日の肌ツヤが良くなるし、デメリットは無いからな」
もちろん、俺が言った事はすべて本音ではあるが、
ソピアにもあえて少しだけ言っていないことはある。
それは、ソピアに長生きして欲しいからということである。
"魂"だけの存在であるソピアが少しでも存在として安定するためには、
定期的に俺のレベルを吸い取ってもらうことが必要だと思ったからだ。
ソピアの命は俺とソピアだけのものではない。
ソピアが死んだら俺だけじゃなく、ハルも悲しむ。
だから、そんな悲しいことが絶対に起こらないように、
意味があるのか分からないこの行為を俺は每日繰り返している。
「ごちそうさまでしたのじゃ、ソージ。とってもお腹いっぱいになったのじゃ」
「どういいたしまして、ソピア」
俺はソピアのオデコに軽くキスをする。
スライム娘状態のソピアのオデコは、
ヒンヤリプルプルして気持ちが良いのであった。
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