第21話『娘と一緒に第二階層を踏破せよ!』

 ここは王都地下下水道の隠し扉の先にある、

 ダンジョンの2階層である。


 今ここにいるのは、俺とハルの2人だけだ。



「ママはダンジョンにこないなの~?」



「ああ。俺も誘ってみたんだけど、ソピアは家の修繕とか、家具を修理したりで忙しいみたいだ。それに料理の準備もあるし、ママは忙しいんだよ」



「わぁ。ママはとっても、忙しいなの。とっても偉いなの~」


 最近の日課は王都の地下下水道の掃除を終えたら、

 家にいる娘を迎えにいきダンジョンへと向かう。


 娘のハルの運動不足解消と家族交流のための冒険だ。

 あとは、ソピアが育児疲れを起こさないように、

 娘を預かるという一面もある。


 ソピアも1日中ハルの子守りをするのは大変だ。


 ソピアは我慢強いので一度も口にこそ出したことはないが、

 元気ハツラツなハルの相手をずっとし続けるのは大変なようだ。


 俺がハルとダンジョンに潜っている間だけでも妻が、

 少しだけ家で体を休めることができれば幸いである。


 ソピアは育児経験はない。


 そんなソピアが10歳近くの娘の世話をするというのは、

 それなりの負荷がかかっていることは間違いないだろう。


 可能な限り、俺も娘の面倒を見るようにしないといけない。

 心労や疲労というのは見えない内に蓄積しているものだ。


 前世では、一度ストレスで精神に不調をきたして、

 それを理由に会社をクビになった経験がある。

 

 肉体の疲労も大変な問題なのだが、目に見えないからといって、

 心の問題は軽んじていい問題ではないのだ。


 ある日突然、限界を超えてバタンと倒れることもあるだろう。


 特にソピアのような一見我慢強そうな子ほど、

 知らないうちにストレスを溜め込んでいるものだ。


 そのあたりは一度は失敗している俺は、

 同じ轍を踏まないように気をつけないようにしよう。



「今日のモンスターは前のより強いと思うから油断しないこと」



「分かったなの!」



 ダンジョンの二階層は1階層と同じ作りの迷宮だった。

 道中で現われてくるモンスターも1階層とほぼ同じ。


 基本的には昆虫系のモンスターが多いのだが、

 バブル・ウオッシュで包むと死ぬ敵がほとんどだ。


 キメの細かい泡がモンスターの呼吸器官を、

 詰まらせているようだ。


 バブル・ウオッシュ、かなり使える魔法である。



「えいやーっ!」



 おお。さすが俺の娘。


 マジカルな感じの弓矢を放って、

 ジャイアント・ファイア・アントの頭を爆散させた。

 単純な破壊力でいったら俺の魔法よりも上だ。


 小さくて速い敵を狙うのは苦手なようだけど、

 ある程度の大きさの敵が相手であれば、

 出会い頭に瞬殺だ。


 頭が爆散したジャイアント・ファイア・アントは、

 しばらくすると光の粒子になって消えていった。



「不思議なの。なんで消えちゃうなの?」



「モンスターの魂をダンジョンが回収しているそうだ。ダンジョンも一つの生き物みたいなものなのかもな」



「でも、地下下水道のモンスターは消えないなの。不思議なの」



「ああ。地下下水道はダンジョンじゃないからね。だから、清掃魔法の"バキューム"でモンスターの死骸を回収をしないと、モンスターの死骸が腐って大変なんだ」



 "バキューム"で吸い込んだモンスターがどこに行くのかは謎だ。

 亜空間的なところなのだろうか?

 いや、そもそも魔法自体が謎ではあるのだが。


 もっと言うのなら、前世でリモコンのボタンを押すと、

 テレビが着くということを疑問もなく行っていたが、


 リモコンのボタンを押すとなんでテレビがつくのか、

 そして、そのテレビがどういう理屈で動いているのか、

 理解していない。


 この世界で魔法を使うのは、

 前世でいうところのテレビのリモコンと似ている。


 理屈は分からないけれど感覚的に、簡単に燃やせたり、

 凍らせたり、治癒したりできる。

 だけど、なんでそうなるのか言葉で説明できる冒険者はいないだろう。


 きっとそういう学者さんみたいなのも居るのだろうがエリートだろう。

 冒険者にはそんな学術的な知識は必要とされない。



「パパー。宝箱があったなの~!」



「さすがハル、偉いね。罠の可能性もあるから俺が開けるよ」



 ミミックとかいう宝箱に擬装するモンスターの可能性もあるため、

 念のためにサニテーションとバブル・ウオッシュを宝箱に掛けてから、

 宝箱を開ける。



「おお。ブロード・ソードだ。幅広の剣だから、これはいらないかな」



 ブロード・ソードは大きすぎて使い勝手が悪い。

 戦士とかの前衛職が装備する武器だ。


 個人的には呪われている武具以外はいまいち、

 テンションがあがらないという事情もある。



「パパがいらないなら、これ食べていい?」



「ハルは剣とか食べられるのか? おなか壊さない?」



 ソピアと俺の子供だから少し特殊だとは思っていたが、

 剣とかも食べるんだな。



「それじゃ、いただきますなの」



 ブロード・ソードの前で食事の前のように手をあわせて、

 体を一気にスライム化させたと思ったらそのまま

 体内に取り込んだ。



「ハル、なかなかいい食べっぷりだな」



「ボリューミーで、いいお味だったなの。ごちそうさまでした」



 きちんと"ごちそうさまでした"ができたので頭を撫でた。



 きちんと残さず綺麗に食べるあたり育ちの良さを感じさせる。

 この娘の親の顔が見てみたいものだ。

 まぁ、俺なのだが。


 自画自賛である。


 それにしても娘がスライム化できるのは知らなかった。

 まぁ、ソピアと俺の娘だから、

 そういうこともあるよなと納得した。



 魔力極振りの俺的には宝箱から剣や盾が出ても、

 装備できないから、呪いの装備以外は、

 いまいちテンションがあがらなかったのだが、


 娘が食べて喜んでくれるのであれば、

 宝箱探しにも力が入るというものだ。



 そんなことを考えながらダンジョンを歩いていると、

 突き当りに巨大な門がある。



「パパー。ボス部屋なの」



「ハル、ボス部屋を覚えていたんだね。偉いね」



「えへへ~」



 うちの娘は頭が良い。

 きっと妻の方に似たんだろうな。


 俺は両手で鉄製の扉を開ける。



「2階層はミノタウルスかー」



 巨大な体の角を生やしたモンスターである。

 1階層のあのくせ者と違って正統派の敵だ。



「パパ。ハル試したいことがあるんだけど、してもいい?」



「いいぞ。なんでやってみなはれ」



「うん。いっくよーぉ! マジカル・ブロード・ソードなのお!」


 いつものマジカルな感じの弓がハルの手元にあらわれる。

 そして、いつものマジカルな感じの矢の代わりに、

 ブロード・ソードが弓から射出される。



 目にも止まらぬ速さでミノタウルスにブロード・ソードが飛んでいき。



 ミノタウルスの頭蓋を破壊しそれでも速度は落ちずに、

 壁にブロード・ソードが突き刺さって止まった。



「やったー! 勝利なの~!」


 俺の娘、強いな。


「偉いな、ハル。ところであれ何だったんだ?」



「さっきの剣を食べた時に、ハルのおなかの中で剣の構造を解析したなの。そして消化するまえに魔法で剣の構造を再現できるようにしたなの~! えらい?」



「えらいね~。さすがはハルだ」



 まあ、剣の情報を解析とか、剣の構造を再現とか良くわからないけど、

 人生ってそんなものだよなと思い、にこにこ笑うハルの頭を撫でるのであった。



「それじゃあ。今日の冒険はこれまでにしてお家に帰るよ」



「はい、なの~!」



「今日はハルが初めてボスに勝った記念に、串肉を買ってあげよう」



「わーい! 噴水の前の屋台の串肉、ジューシーで最高なのー!」



 そのあとは王都の噴水広場前のいつもの串肉の屋台で、

 家族3人分のお持ち帰り用の肉串も買って、

 ハルと手を繋ぎながら家路に着くのであった。



 黄昏たそがれどきの王都の街並みはとても美しかった。

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