第17話『妻子と一緒に王都で家探し』
「うーん……。王都で家を借りるって結構お金がかかるんだなぁ」
俺と妻のソピアと娘のハルは、地下下水道を出て、
王都でこれから住まう家を探していた。
いままで宿屋暮らしで気づかなかったのだが、
王都で借家を借りるのは結構高いことに気付かされた。
冒険者が泊まる宿屋は、
日本でいうところのホテル暮らしかと思ったが、
どちらかというとネカフェ暮らしに近いようだ。
ちなみに参考までにネカフェ暮らしは30日で4万9800円だ。
電気ガス水道ネット環境込みでこの価格は破格である。
ネカフェの個室は狭いが、王都の宿屋よりも遥かに安い。
安いからといって……本当に暮らしたいかといったら、微妙であるが。
さて、王都で借家を借りるとなると1ルームでも銀貨30枚。
つまりは……30万だ。
少し狭めな2LDKだと最低でも銀貨70枚――なんと月額、70万だ。
賃上げ交渉で報酬を増やしてもらった俺なら、
払えなくはないが……ちょっと高い。いや、高すぎる。
家賃意外にも食費に、教育費に、衣服にと……、
いろいろかかることを考えると無理できない。
ギルドへの賃上げ交渉もこれ以上したら、
俺のギルドライセンスを取り上げられかねない。
そうなったら、家族が路頭に迷う。
今もらえる報酬で得られるお金でやりくりするしかない。
妻子で家探しをしているうちに、
冒険者が王都に定住せず、宿屋に泊まる理由が分かった。
単純に家賃が高いのだ。
冒険者中心に回っている都市なので、
宿屋が安過ぎるし、サービスが良すぎると言えるのかもしれない。
今思えば、王都に家に定住している人は、
裕福そうな身なりをしている人が多かった気がする。
なかなか世知辛い世の中だ。
とは言っても、家族で宿屋暮らしはあまりに現実的でない。
やはり狭くてもちゃんとした借家に住みたい。
「ソピア、王都はどこも家賃が結構高いみたいだ……」
「ソージよ、無理をしなくても良いのじゃ。妾は狭い部屋でも構わぬのじゃぞ?」
「うーん、とはいってもね。娘のハルもいるし、ね?……その夜のことも……」
「……なるほど。……確かにそれは重要じゃな。確かに、そこを拠点に文化的な生活をするとなると最低でも、2部屋は必須じゃな」
「そうだな。ハルの部屋を作ってあげたい」
「そうじゃな。……できれば、ある程度の防音性も気にしたいところじゃ。でもそうするとお金はかかるのじゃな。頭の痛い話じゃの」
「パパ、ママ、ボクは地下のあの部屋で暮らすのも問題ないなの。無理にお金がかかる王都で暮らす必要はないなの~」
ハルはそう言うが、親ごころとしては、
ハルには暗い地下ではなく、
明るい日の当たる王都で暮らして欲しい。
それに、俺の子供だからあまり人付き合いは得意じゃないかもだけど、
それでも子供の時には同じ背丈の子どもたちと友達になって、
人間関係を学んで欲しい気持ちもある。
まぁ、ハルは実際の年齢で言えば0歳児だけど、
見た目上は10歳児くらいでも通る。
知識も豊富で会話能力も高いので、
10歳の友達ができても苦労しないはずだ。
「ハル、気遣ってくれてありがとうな。優しい子だな。大丈夫! 心配いらないぞ~! パパが頑張るから、ハルは心配しなくても大丈夫だぞ!」
「うん。分かったなの。でも、パパもお仕事頑張りすぎないでね~!」
「おう! パパにまかせておけば大丈夫!」
俺はハルを抱えあげて、ギュッと抱きしめ、頭をグリグリと撫でる。
ハルが心配そうな顔をしていたのがパッと顔が明るくなった。
まだ0歳児ではあるが、見た目の年齢の10歳児相当の感性は
あると思って会話をした方が良さそうだ。
ソピアとのゴニョゴニョな話はハルが居ないところでしないといけない。
いまのやり取りやいままでの様子を見ていると、
ハルは思いやりのある優しい子だ。
俺が親馬鹿ということもあるかもしれないが凄くいい子だと思う。
まぁ……少なくとも、俺がガキの頃はこんないい子ではなかった。
思いやりの気持ちがあれば、
多少特殊な出自でも友達ともうまくやっていけるだろう。
その点は心配が無さそうで安心した。
「うーん。それにしても、家はどうすっかなぁー」
思わず考えていることが言葉に出る。
現実的な問題として、実際どうしたものかなぁ……。
ワンルームで、家族で川の字で寝る生活も無くはない。
なんとなく楽しそうな気すらする。
……夫婦の営みは宿屋で。
まぁ、その選択肢もなくは無いけど、
贅沢かもしれないけどなんとなく寂しいよなぁ。
ソピアをがっかりさせたくも無いし、
ハルを家で一人にさせる時間が増えるのもかわいそうだ。
どーしたものかなぁ……。
俺がそんなことをあーでもないこーでもないと考えていると、
どこからともなく声が聞こえてくる。
「どなたか~! どなたか~! 状態異常魔法を使える方いますかぁ?」
胸元がはだけた服装を着た女性が大声で助けを呼んでいる。
なんだろうか? なかなかに珍しい光景である。
女性は大声をあげながら助けを呼んでいる、
額から汗を流しているところを見ると、
何やら深刻な事態になっているようだ。
さすがに困っている王都に暮らす人を見捨てる訳にはいかない。
家のことは一旦忘れて、その女性に声をかける。
「随分と急いでいるようですが、どうされました? 治癒魔法なら使えますが」
俺は、右腕だけ義手風の鎧をまとい更に、
その下に禍々しい包帯が覗く男である。
更には着ている服も"破戒僧の法衣"という怪しげな服装だ。
客観的に考えると、全体的に邪悪っぽい服装だ。
いきなり声をかけたら怖がられるかなとも思ったが、
そんなことを気にしている様子でも無さそうだったので声をかけた。
一瞬声をかけてきた女の子も俺の姿を見てギョッとしたようだが、
俺の隣のソピアとハルをみて安心をしたようだ。
ある程度の自覚はあるので、責めることはできないな。
でも呪いの装備は死ぬほど強くて便利なんだよなぁ。
「見知らぬお方! 治癒魔法が使えるというのは、ほっ、本当ですか?! ちょっと、事情が事情なので、細かな詳細をお話する余裕がないのですが……急いで、私についてきてくれますか? 治癒が必要なかなり重症な病人が居るんです!」
「あ、はい。完全な治癒は難しいかもしれませんが、応急処置程度であれば大丈夫だと思います。患者さんのいる場所に連れて行ってください」
女性の後ろをついて歩くそこは王都の花街、娼館街であった。
そして、女性はその娼館街の娼館の一つに入っていった。
俺たちもその女性に付いて中に入る。
それにしても……まさかこの異世界に転生して、
はじめて娼館に行くのが人助けとは、思わなかった。
人生とは、予想の出来ないことの連続である。
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