第16話『2つの嬉しい報告』

「あら……ソージさんまたアバンギャルドなコスプレですね。今度は右腕だけ騎士風のファッションですか。もう私は驚きませんよ」



 受付嬢さん、若干呆れている表情だな。

 右肩だけ甲冑とか完全にファッションリーダー一直線だ。



「そういえば、昨日仕事中に子供が2人地下下水道に肝試しに入っていましたよ。なんとか間に合ったので助けることができましたが、うっかり入らないように地下下水道の入り口には鍵とかかけておいた方がいいんじゃないですかね」



「そんなことがあったんですね……。子どもたちがうっかり入ったら危険ですね。上長と相談して鍵の設置は検討させていただきます。ソージさん、クエストの依頼でないにも関わらず子どもたちを助けていただき、どうもありがとうございました」



 受付嬢さんが俺に向かって深々とお辞儀をしている。

 いつも気が強くて言葉が強い人ではあるけど、

 仕事についての姿勢は真摯なのだな。



「いえいえ。業務の範囲内の出来事でしたので当然のことをしたまでです。子供が誤って入らないための対策にはお金も掛かるので大変だと思いますが、上長さんに相談していただけると助かります」



「はい。受付が終わったら、今日中に稟議書を書いて社内回覧します。結果についてはまた後日報告しますね」



「ありがとうございます。お手数ですが、よろしくお願いします」



「それと今日から約束通り昇給です。ソージさんおめでとうございます。いままでの報酬の倍の銀貨10枚です。ギルド一同、ソージさんの活躍には今後も期待しておりますのでファイトです!」



「がんばります!」



 受付嬢はそういって銀貨10枚を渡してくれた。

 俺は布袋に銀貨を納める。


 泣くほど嬉しい。


 銀貨1枚が1万円相当1日働いただけで10万円。

 これだけもらえれば、嫁にも娘にも服とか

 いろいろ買ってやることができる。



 俺はギルドを出るとウキウキ気分で、

 王都の表通りを歩く。


 しばらく歩くと王都の中央通りにたどり着く。

 大きな噴水があって綺麗な公園だ。

 ベンチなんかもあって王都の民の憩いの場になっている。



 おっ、あれはいつも人気の串肉屋か。

 ソピアとハルへのお土産に何本か買って行こうかな。


 ソピアは魂だけの存在だから食事を取らなくても

 大丈夫と言っていたけど、そもそも食べられるのだろうか。


 娘も食べなくても大丈夫なようだけど、

 もし食事をすることができるのであれば、

 せっかくだから美味しい物を食べさせてやりたいものだ。



「串肉を十本下さい」



「あいよ。包むものはいるかい?」



「持ち帰りなのでお願いします」



 活気のあるいい街だ。

 俺はいつもの通り地下下水道に入る。


 今日は串肉を持って帰っているので、

 仕事の前に一旦隠し部屋に帰った。



「ただいま~。すぐに仕事に行くけど、お土産を買ってきたから先に寄ったよ」



「ソージ、おかえりなのじゃ。そして昇給おめでとうなのじゃ」



「パパが偉くなったってママから聞いたなの。おめでとうなの!」



「ありがとう! それで今日のお土産なんだけど……」



 俺は中央公園で買った串肉を差し出した。

 下水の臭いが移らないように、

 消臭魔法を自分の周りに展開しておいた。



「おお。それは、串肉なのじゃな。久方ぶりにみたのじゃ」



「肉ってなあにぃ?」



「ソピア、ハルは食物を摂取しても大丈夫なのか?」



「妾もハルもマナがあれば生きていくことはできる。じゃが、食物を摂取したとして害になることは決して無いから安心するのじゃ。妾もありがたく、お主が持ってきたご馳走を頂戴するのじゃ」



 ソピアは人の姿に変化して串肉の串をつかむ。



「やはりご馳走を食べるときはこの姿で食べるのがしっくりくるのじゃな。ふむ、久方ぶりの肉じゃが、とても旨いのじゃ。肉汁が口の中にあふれてくるこの感覚がたまらないのじゃな」



「ママ、ハルも一緒に食べていい?」



「もちろんじゃ。いっぱい食べるのじゃ」



 ハルは串肉の串を掴み、

 肉を恐る恐る口に含める。



「ぐにぐにしているなの。とっても美味しいなの! パパありがとうなの!」



「その串肉は二人で全部食べていいからね」



「ソージ、お主は串肉を食べぬのか?」



「ああ。俺の分の串肉は、ハルに分け与えてやってくれ。本当はもっと良いものを食べさせてやりたいんだけどな。いつか一緒に王都に出てみんなで外に出られる日がくればいいね」



「そのことなのじゃがな。お主の昇給と同じように朗報じゃ。お主が妾に経験値を捧げてくれたおかげで、どうやら妾の魔力の総量がこの部屋の封印を超えたようなのじゃ」



「……えっと、それはつまりどういうこと?」



「妾もこの封印部屋から出られるようになったのじゃ。つまり、ソージ、お主と同じように王都で暮らすこともできるようになったのじゃ」



「え……っ!! そんな嬉しいことが……?」



「そうじゃ。明日からは、お主とハルと妾の3人で共に王都で暮らすのじゃ。ハルにも王都の街並み、パパやママだけでなく、いろんな人と知ってもらうことができるようになったのじゃ」



「それじゃあ明日は朝一番にギルドに行って、ソピアとハルを俺の妻子として住民登録するための手続きを進めよう。それに、3人で暮らすための家も探そう。明日は忙しくなるぞぉ!」



「ふふっ。今のお主はいつもに増して良い笑顔をしているのじゃ」



「っと、その前にお仕事行ってきます!」



「いってらっしゃいなのじゃ。ご安全にのっ!」



「パパ、ご安全になの~」



「ああ行ってきます!」



 俺は喜びを噛み締めながらいつもどおりの仕事に向かった。

 明日は朝から忙しくなりそうだ。

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