第15話『寄生する義手を討伐せよ!』
「ここが、ダンジョンのボス部屋ってやつか」
「うわあ。でっかい鉄の扉なの!」
「この部屋のなかには強くて危険なモンスターが居るから、ハルは安全なところで距離を取って安全を確保していてね」
「うん。わかったなの」
巨大な扉を開け中に入る。
部屋に入るやいなやボスモンスターらしき存在が俺を出迎える。
フロアボスは甲冑をまとった騎士風のモンスターだった。
身長は180cm。俺と同じくらいの背丈だ。
特異なのは光を吸い込むほどに漆黒のクレイモアだ。
王侯氏族の近衛兵が身にまとっていそうな、
フルプレートの甲冑と長大で漆黒のクレイモア。
無骨な兜に覆われて面容はうかがい知ることはできないが、
兜のスリットの奥に2つの赤い不気味な輝きだけがあった。
右腕もぱっと見たところ甲冑の一部のように見えるが、
よく目を凝らして観察するとその中身は空洞。
右肩から下は義手のようだ。
右肩から下は義手である。
その義手の中にはうねうねと菌糸状のナニかが蠢いていた。
右手だけで本来は両手剣の漆黒のクレイモアを引きずり歩く。
石造りの床を剣先で削りながら、徐々に俺に近づいてくる。
「来る……っ!」
緩慢な動きをしていた甲冑のモンスターは、
突如ものすごい勢いで駆け出す。
速いが体の動きが不自然で全体的にぎこちない。
クレイモアの剣先によって石畳が削られ、
そのたびに火花が飛び散る。
低く地を這うような不気味なうめき声とともに、
甲冑は引きずっていた右腕のクレイモアをまるでムチのように、
俺の脳天に振り下ろす。
俺は即座にスライム状の右腕を剣の形状に変化、
硬化させ受け止める。
「くっ……重い。それにしても珍妙な動きをするモンスターだ」
歯を食いしばってなんとか漆黒のクレイモアの一撃を耐えきる。
だが、俺は目の前の光景に目を疑った。
受け止めた俺の右腕を侵食するかのように、
まるでアメーバが侵食するかのように右腕を侵蝕しているのだ。
「こいつ……寄生型のモンスターか?!」
俺は硬化させた腕の表面が徐々に黒いアメーバ状の
物体に覆われるのを感じ、急いで硬化を解除。
漆黒のクレイモアによって侵食された表面を破棄する。
破棄するというよりもモンスターに取り込まれたという方が正確か。
「……こいつ迂闊に近寄ったらヤバいな」
後方に待機している娘のハルは、俺と寄生型の甲冑が、
かなり近い距離で戦っていることもあり、
弓矢を構えながらも放てないようだ。
娘には敵と距離を取れと事前に指示を出しておいて良かった。
寄生型の侵食攻撃の範囲はあくまでもクレイモアが
触れた部分に限定されるようだ。
再び人間ではあり得ないまるでムチのようにしなる右腕の義手で、
クレイモアを振るい俺の脳天に叩き込もうとするが、
今度は受けずに回避する。
「前と同じ行動か、動きは単調だな」
硬化させた右腕を刺突剣の形状に変化させ、
兜のスリットから覗く赤い光を目掛けて突き刺した。
赤く光る眼光の一つを刺し貫き頭蓋と脳を抉り破壊、
どんな生物にとっても急所である脳天を破壊する。
「何っ……!?」
目の前の寄生された甲冑は脳を破壊されたにも関わらずに動く。
だが、宿主の脳の運動を司る中枢を破壊されたせいか、
動きが更にぎこちないものとなる。
できそこないの操り人形のように不気味にうごめく。
「動作の起点は異形の右腕の義手か。あそこが第二の脳として機能している?」
右腕の寄生義手は、破壊された頭部を修復しようと、
とまるで蜘蛛の巣のように黒いアメーバが兜の顔面を覆われていく。
一方、全身黒塗りのクレイモアの一部が、
銀色の鉄塊部分があらわになっていた。
どうやらあの寄生する右腕の義手は無尽蔵に操れるのではないようだ。
破損した部位を修復するたびに、攻撃兼、侵食用の漆黒の
クレイモアの侵食範囲が狭まり元の鉄塊の部分があらわになる。
「ぬらあっ!」
俺は右腕を剣の形状に変化させ心臓を刺し貫いた上で左腕を斬り落とす。
全身の破壊された部位を修復しようとして、
いつの間にか漆黒のクレイモアはただの長大なナマクラになっていた。
「案の定だ。この義手は宿主が破壊されないように反射で動いている。そしてこいつの正体が分かった以上は、俺の清掃魔法で仕留めることが可能だ」
俺は義手による侵食が完全に解除されたクレイモアの柄の部分を、
剣状に変化させた俺の右腕で斬り落とした。
これで直接の脅威となる部位は取り除けたはずだ。
あとは残った左右の足を切断。
全身が右腕の義手を起点として黒いアメーバに覆われていき、
完全に異形のモンスターとなった。
「寄生虫殺戮魔法――パラサイト・キル」
全身を寄生体に覆われた甲冑に向け清掃魔法を放つ。
寄生虫を殺すのに特化した清掃魔法。
甲冑の全身がまばゆい光に覆われる。
まるで、カビ○ラーをかけた後の浴槽のカビのごとく、
全身を覆っていた黒い蜘蛛の巣は破壊され、光の粒子となり消えていった。
最後に残されたのは右腕だけであった。アイテム名は【混沌の義手】。
右腕に剛力を与える、その代償として脳を寄生されるそうだ。
こんな呪いの装備を【健康体】であらゆる状態異常を無効化できる、
俺以外の人間が装備したいと思うだろうか。
俺がこの装備を回収することで今後うっかり寄生される人が
いなくなるのだから良いことだ。
「ボスドロップってやつか? さっき俺が戦ったのも寄生義手を装備した誰かの成れの果ての姿だったのかもしれないな。いや……実際のところは知らないけど」
俺は無造作にその右腕の義手に手を伸ばし装備する。
右腕は丸ごとスライム化しているのでそれをすっぽり
覆うことができるアイテムが出来たのは助かる。
鋼の錬金○師の主人公みたいに格好いい呪いの装備だ。
「パパ。その右腕しても大丈夫なの? ばっちくない?」
「心配してくれてありがとうね。パパの体は呪いの装備を受け付けないから大丈夫だよ。ほらこの通り自分の手のように扱える」
この寄生義手の侵食の効果かもしれないが、
まるで右腕が戻ったかのような感触である。
神経や血管なんかを寄生義手の効果で繋いでいるのかもしれない。
今後は左手同様、右腕でも繊細な動きが可能になるだろう。
「パパ、すっごくかっこいいなの!」
「ありがとうなハル。今日は疲れたからママのもとに帰ろうか」
「はいなの~!」
明日の朝一にギルドに行く時にまた受付嬢に冷やかされそうだ。
俺が王都のファッションリーダーに成る日はそう遠くない。
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