第14話『王都地下の隠しダンジョン第一層』

 螺旋階段を降りた先にはダンジョンの一階層。

 冷たい石の壁はぼんやりと発光し、行く先を照らしている。


 発光性のキノコの菌糸が壁一面を覆われており、

 地下の空間にも関わらず視界に困ることはない。



 ダンジョンは、女神○生や、世○樹の迷宮といったような、

 クラシックな名作ダンジョンゲームと同じような感じの空間であった。


 階層によって異なるのだろうが、第一階層は剣を振り回すには、

 十分な程度の幅の整然とした通路が存在している。

 長槍使いにとっては、立ち回り辛そうな印象のフロアだ。


 一本道を進むとその先にはちょっとした小部屋があり、

 基本的にはその大きな小部屋が十字路になっていて、

 その通路の先にまた別の小部屋があったり、または行き止まりがあったり、

 運が良ければ、宝箱のある部屋に辿り着いたり……といった感じだ。



 一件、単調な空間なので道に迷わなそうなものなのだが、

 実際は途中で遭遇するモンスターとの戦闘や、

 罠避けなどを意識しているうちに深みにはまっていくのが、

 ダンジョンの恐ろしいところではある。



「壁にバッテンを書いて印をつけておいたのに、戻っていたら消えているんだもんなあ……。ダンジョンに光を灯す菌が食っているのか。それとも……謎だな」


 俺が検証のためにバッテンを書いているのをハルは落書きだと思ったのか、

 ハルはダンジョンの壁に落書きをしていた。



 一見、こんな単調な空間なのであれば迷わなそうなものなのだが、

 実際は途中で遭遇するモンスターとの戦闘や、

 罠避けなどを意識しているうちに深みにはまっていくのが、

 ダンジョンの恐ろしいところではある。



 同じような景色の続くダンジョンで迷うという感覚は、

 樹海で遭難する場合や、砂漠で迷子になる感覚と似ているのかもしれない。

 目立つものがないのだ。


 とはいっても、ここはあくまでもダンジョンの1階層。

 王都の地下下水道で遭遇するモンスターと比べるとかなり弱い。


 弱点特効でないはずの俺の清掃魔法でも魔力のゴリ押しで、

 蹴散らせる程度の相手だ。



 っと、モンスターの群れのお出ましだ。

 ゴブリンとレッサー・ワームか。



「しゅーっとぅ!!」



 目の前のゴブリンの頭部が爆散する。

 ハルの光の矢の威力は抜群だ。


 ヤジリの先端が突き刺さると内部で爆発する。

 ファンシーでマジカルな見た目とは異なり殺傷力の高い兵器である。


 だが……



「バブル・ウオッシュ」



 俺はハルの近くに接近していた無数のレッサー・ワームを

 泡と水流で、窒息させて殺す。

 威力は弱いが小型の虫型の敵を殺すには十分な魔法だ。



 レッサー・ワームは群体で襲ってくるモンスターだ。

 一匹一匹は大きめの芋虫といった感じだ。

 通常、冒険者が負ける相手ではない。


 だが、他のモンスターの戦闘で大怪我を負った冒険者が、

 ワームに全身を噛まれ食い殺されるというような

 事例もないわけではないそうだ。


 油断は大敵である。



「パパ。ありがとうなの!」



 ハルはまだ戦いに慣れていないということもあるのだろうが、

 弓矢を構える時に照準を絞っている間は過度に集中しているためか、

 接近する敵に気づけ無いというという欠点がはある。


 とはいえ、これらはあくまでもプロの冒険者と比較しての評価だ。

 あまりに厳しすぎる評価であろう。


 娘は能力が非常に高い……とはいえ産まれたばかりの0歳児である。

 そう考えれば、むしろ出来すぎなくらだ。

 我が娘は天才だ。


 あまりに多くの事を求めすぎるのは親の押し付けだ。

 ハルが思い切り冒険できるようにフォローしよう。


 ハルはまだ産まれて数日。


 恥ずかしながら俺はまだ親としての実感が薄い。

 だから、俺も親になるために成長していかなければならないだろう。



「ハル。怖くないか?」



「パパと一緒だから怖くないなの」



「そうか。ママの住んでいる部屋の上には王都という街があってね。とても綺麗な町なんだ。俺としては、いつかはハルが王都で友達ができたらいいなと思っているよ」



「友達はいらない。パパとママが一緒に居てくれればハルは寂しくないよ」



 俺とソピアを大切に思ってくれるのは嬉しいことだけど、

 やはりハルが人として健全に成長していくためには、


 いろんな人間と交わることで良いこと嫌なこと含めて、

 いろんな感情を学んでいった方がいいんじゃないかなって気はしてくる。


 うーん。どうなのだろうな。


 自分は、幼い頃からうまく交友関係を築けなかった子供だった。

 なのに、娘には俺にできなかった事も期待してしまう。

 親というのは難しいな。



「ハルがパパとママを好きと言ってくれるのは嬉しい。でも、パパもママも多くの人と出会って今のパパとママになったんだ。だからハルにも同じように学んで欲しいと思っているんだ」



「うーん。うーん」



「ごめん。ハルにはちょっと難し過ぎる言い方だったね。ゆっくりと勉強していけばいいと思うよ」



「はいなのです! ハルはダンジョンをもっと探索したいのです」



「ハル。ダンジョンは危険な場所だ。ハルも大人になるまではパパと一緒じゃないときは絶対に一人で行ったら駄目だよ」



「あい~!」



 なかなかうまくいかないな。

 アレコレと心配していていろいろと細かなことを言ってしまう。


 ハルにはのびのび自由に成長して欲しいのだけど、

 アレコレ細かく言ってしまう。


 ハルの見た目は8歳から10歳くらいだけど、

 どれくらいの子と友達になるのが適切なのだろか。

 親である俺ですらまだ分かっていない。


 そんなことを考えながら歩く。



「パパ。目の前に大きな扉があるなの」



 俺とハルの目の前には鉄製の巨大な扉が広がっていた。

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