第7話『ソピアが妊娠しました!』
あれから2ヶ月が経ったある日のこと。
「どうやら妾は、ソージ、お主の子を身籠ったようじゃ」
「おおおっ……おめでとう!!!!!!!!!!!」
嬉しさと驚きで思わず声がうわずってしまった。
子を授かったら良いなとは思ってはいたが、特殊な間柄なので、
一方で子を授かれなくても当然と思っていた。覚悟もあった。
それだけに、ソピアの報告は感慨もひとしおである。
泣きそうだ。嬉しくないはずがない。
好きな女性が子を授かってくれたというのだから、
これ以上に嬉しいことがあるだろうか?
あるわけがないっすよ!
「妾は……ソージの子を産みたいと思っておる。じゃが、妾はお主に父になってくれと無理を言うつもりはない。産まれてくる子が、人の子ではなくモンスターかもしれん。だから、お主に無理を言うつもりは……」
「俺はその子の父親になるよ。いや、絶対にならせて欲しい。ソピアもそんな寂しい事を言うなよ。俺が自分の子どもを持てるなんて夢みたいな話なんだ。ソピアだけじゃなく、俺だって嬉しいんだ!」
「ソージよ……本当にこの子の父の子になる覚悟がある言うのじゃな? お主が、引き返せるのはここまでかもしれんのじゃぞ。本当にそれで良いのじゃな? 険しい針山を歩むような人生になるのかもしれんのじゃぞ。苦労の絶えない人生になるかもしれんのじゃぞ。それでもいいのじゃな?」
「まず訂正しておきたい。認知も何も、第一に、その子は俺の子供だ。ソピアだけの子供じゃない。二人の子供だ。だから、俺のお願いとしては一つだけだ。ソピアはお腹に負担をかけないように、無理せず休んでいて欲しい。後のことは俺がなんとかする。がんばる!」
「ソージよ……」
「大丈夫だ。勇者のように世界の民を救済するっていう話じゃねぇ。自分の最も大切に思うたった2人くらい、男として俺が守ってみせらぁ!」
現在のソピアの状態は、肉体は完全に消滅し、
魂だけの存在になっているらしい。
もう少し厳密に言うと、
非常に存在的な希薄な状態らしい。
スライム娘状態を維持するのもやっとこの状態だったのだ。
俺の認識があっていれば、ソピアは多分幽霊のような存在だ。
本来は蜃気楼のように希薄な存在なのだ。
それを元は"叡智の大賢者"と呼ばれていわれるだけの、
天性の膨大な魔力によって辛うじて維持してきたのだ。
とはいえ、彼女にとっても妊娠は想定外の事であった。
直接的な原因は日課になっていたレベル・ドレインによって、
"魂"がありえないくらいに超強化され、スライム状態ではなく、
実在する物質としての人型を維持するのも容易なくらい、
存在力が強化されていたからのようだ。
一言で言うなら、
俺が毎日100レベル分の経験値を注ぐことによって、
ソピアは魂だけの存在でありながら、
肉体を持つ存在と同じだけの圧倒的な超魂に進化していたのだ。
これによって妊娠という奇跡を起こしたのだ。
そもそもレベル・ドレインもソピアを
この部屋から出すためにダメもとで始めたことだ。
確信をもって始めたことではない。
だから思わぬ誤算。良い、誤算だ。
"幽霊を妊娠させた男"。改めて思うとなんか凄い。
FA○ZAとかに置かれそうなキャッチコピーだ。
いや、スライムを妊娠させても凄いのかもしれない。
一体全体、何が凄いのかは不明だが。
今回の一件に関しては奇跡もヘッタクレもなく、
"男女が一緒に居ればいろいろありますよね"
というだけの話なのだ。
俺が考えてもこれ以上何も分からない。
だから俺は考えるのをやめた。
何故なら俺にはもっと気にしなければならない事があるからだ。
「妊娠……出産……。つまり、金だ……より多くの金を稼がんとあかん!」
妊娠、出産となるとそれに備えてまとまった金が必要になる。
子供用の服だって必要だ。
ソピアは何も食べないけど子供は食べるかもしれない。
そうなったら食費は必要だ。
そもそも、ソピアの特性を受け継ぐのか俺の特性を引き継ぐのかも謎だ。
何もかも分からねぇ。
ただ、どんな形で産まれてこようが必ず幸せにしようと決めた。
仮に、モンスターや異形だろうと俺とソピアの子なら、
幸せにしないといけない。
いや絶対にそうする。
馬鹿の考え休むに似たり。
そんなコトワザがあった気がする。
あんまり頭が回らない人間が無駄に考えても、
結局いい結果にならないみたいな言葉だった気がする。
目の前にやれる事をひたすらやれと。
まあ、さして頭の回らない俺が難しいことを考えても仕方がない。
とにかく目の前の事を必死にやるだけだ。
◇ ◇ ◇
というわけでまずは金銭問題を
解決するために俺は早速ギルドに来ていた。
労働者の賃上げ交渉というやつだ。
「……というわけで、報酬を銀貨2枚追加していただけませんか?」
「いや、ソージさん困ります。個別の賃上げ交渉はギルドとして受け付けていないので。ソージさんだけ、特別扱いは公平性の観点から認められません」
「そこをなんとか!」
「いや、無理なものは無理です!」
「そこをなんとか!」
大事なことなので二度言いました。
押して駄目なら押し倒せの精神だ。
実際にそうしたら普通に衛兵さんに捕まるが。
「いやいや……二度言われても結果は同じですよ。無理なものは無理です!」
「ギルド嬢のちょっといいトコ見て見たいー♪」
しまった……。
言うことが思いつかず、変なことを口走ってしまった……。
なんて事を……。
「何ですか? その変でヘタクソな歌は? 私のこと馬鹿にしていますか?」
「いや、すみません。ちょっと取り乱しました。どうしてもお金が必要なんです。お願いします!! この通り、もう俺ができる事は頭下げるくらいしかないので!!」
俺は深く頭を下げた。
思いつくのはひたすらお願いするしかない。
受付嬢が若干気まずそうに語る。
「ソージさんが……その、お金のかかる特殊な趣味をお持ちだという事は存じていますが、さすがにそういった特殊な事情だけで、認めるわけにはいけないのです」
「えっ……俺、なんかしちゃいましたか?」
「いやその……大声では言えませんが……その、男性が女性の服を着る趣味というのは、ちょっとギルド的には外聞が良くないかと……いや、個人の性的な趣味についてギルドがとやかくいうつもりは無いのですが……さすがにソージさんのそのお年で、そういった趣味はいかがなものかと!」
やべ。俺、いつのまにか女装男子と勘違いされていた。
まあそりゃウキウキ気分で古着屋に行ってワンピース買ったり、
服屋で女性用の下着を買っている下水清掃員が居たらさすがに警戒されるか。
あとさり気なく俺の年齢ディスられた。
いやいや。そこは本人も気にしているっつーの。
というか結構分が悪いな、本当に困った。
俺と受付嬢がわちゃわちゃとギルドカウンターの前で、
あーでもないこーでもないと舌戦をしていると、
何故か、王都のギルドマスターが俺たちの話に割って入てきた。
王都のギルドマスターといえば相当な権力者であり、
本来はGランク冒険者である俺のような人間と会話するような
人間ではないはずだ。
王都のギルドマスターは"青薔薇の双剣使い"
と呼ばれていたS級の冒険者である。
この二つ名の由来は青い髪に、青い瞳という特異だが美しい風貌、
そしてその戦い方から付けられた名だそうだ。
詳しいことはよく知らない。
年は俺よりも若い20代前半。
実力主義の世界といえども前例のない、
最年少のギルドマスターである。
そんな彼がどうしてこんなところに?
疑問は募るばかりであった。
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