第6話『一線を越えてみた』

 あれから何ヶ月経っただろうか。


 ソピアとの交換日記の冊数は5冊を超える。

 日記を重ねてみるとソコソコの厚さだ。

 この日記が厚くなるほどに俺とソピアの心が近づいたような気がした。



 安宿のベッドで昔の日記と今の日記を読み返してみると、

 徐々に文章が砕けてきているのが分かって面白い。

 

 日々の清掃の仕事についてだが、

 日々のKAIZENの結果、俺の毎日の地下下水道の

 モンスター討伐の効率は劇的に良くなった。


 もちろん、ソピアに会う前から仕事はきちんと仕事をこなしていたのだが、

 ソピアに会ってから以降は、改善点をみつけて、

 日々より効率的に仕事ができるように工夫した。

  

 まるでゲームのRTA(リアル・タイム・アタック)動画のように

 一切無駄のない行動で迅速かつ完璧に仕事を終わらせるようになった。


 早く仕事を終えればソピアと一緒に居られる時間が長くなる。

 だから自然と頑張れるようになったのだ。



 日課のレベル・ドレインも続いている。

 最初の頃は1日あたりソピアには50レベルほどしか

 分け与えられなかったのが、いまでは100レベルほど、

 分け与えられるようになった。


 ほぼ無限に湧いてくるジャイアント・ローチや、ポイズン・ラット、

 そういったモンスターを効率よく狩るほど俺のレベルは効率良く上がるので、

 プレゼントできるレベルも多くなる。

 

 もちろん清掃も短時間にかつ以前よりも効率よくこなせるようになった。


 ローチ系の敵をバブル・ウオッシュで瞬殺できると

 知れたのは良い発見だった


 家に湧いたGは殺虫剤だとなかなかか死なないのだが、

 なぜか食器洗剤だと即死だった。

 

 この世界のモンスターにもその理屈が通用するかと

 試したらこれが大正解だった。

 現代知識が初めて役にたった瞬間である。


 モンスターを倒すついでに、

 床とか壁とかも綺麗になるしバブル・ウオッシュは最高だ。

 


「ただいま。今日も仕事終わったから帰ってきたよ」



「おかえりなのじゃ。今日はいつもにまして仕事が速いの」



「ソピアに早く会うために頑張った。記録更新したかもしれないな」



「さすがソージは優秀なのじゃな」



 普通に褒められると照れる。

 距離感が少し縮まってきたせいかちょっとした

 冗談が言いやすくなってきた感はある。


 今日のソピアはスライム状の体の上からワンピースを着ている。



「おお、ソピア、今日はスライムな気分なのか」



「そうなのじゃ。なんとなくスライムな気分なのじゃ」



「涼しそうでいいと思うぞ」



「うむ。そなたがこの姿を嫌いでないというのであらば、このスライム状の姿でいるのは人型よりもリラックスできるので割りと好きなのじゃ」



「俺はどっちの姿も同じように好きだぞ」



「ありがとうなのじゃ」



「この部屋から出て王都のほうで暮らすことを考えるなら、人型の姿を維持することに慣れる必要があるかもしれないが」



「そうじゃの。妾の知る限りにおいてもスライム状の亜人種は存在しないのじゃ。王都にこの姿であらわれたら討伐対象にされかねんからの」



 部屋のなかは俺が購入した家具であふれていた。

 ベッドに、ソファー、あとは本棚。


 ほとんど俺が木材で作ったものだ。

 ネットで注文して、組み立てセットが翌日到着というような便利なものはないので、

 稼いだお金でコツコツ地道に木板を購入しアイテムボックスに貯めていった。


 この部屋に来るたびに徐々に家財道具を組み立てた。

 少しずつ形になっていくのはデ○ゴスティーニを集める感覚に近かった。


 効率を考えたら、材料をまとめて購入していっきに

 作る方が良いのかもしれないが、ソピアとあーでもないこーでもないと

 話しながら作るのは楽しかったのだ。


 まあ、本は俺が店で手に入れられる程度の

 ものだから大した価値は無いものなのだろうが、

 それでもソピアは喜んでいた。



「ちと、お主の膝の上でくつろがせてもらっても良いかの?」



「もちろんだ」



 いつものように俺があぐらを書いている上にソピアが乗ってきた。


 最初はソピアのふよふよ柔らかい触感を楽しんでいるだけだったのだが、

 途中からちょっと、変な気分になってきた。



 ……そして、どうやらそれは俺だけじゃないらしい。



 ソピアのスライム状の体がほんのりとあたたかくなっていた。

 俺をじっと見つめる瞳がなんか潤んでいるような気がした。


 そして、ソピアは無言でゆっくりと目を閉じた。



 ……落ち着け。

 この状態はセーフなのか、アウトなのか。


 いや、なんか……まずくないか?

 相手は140cmの少女っぽい外見。


 なんかいろいろまずい気がするが気のせいか?


 冷静になれ。落ち着け。

 ラジカセで会話する男のようにクールになるんだ。前原宗治。



 いやでも、大丈夫だよな。

 だって相手の年齢的には千年を超えているからな。

 つまり……相手は成人以上に成人女性というわけだ。

 合法どころか超合法……何ら問題ない。



 ……千年の年を生きているという事はもちろん20歳以上だ。

 この世界の法律的にも、地球の法律的にもなんら問題ない。

 そうだ、1000歳=20歳✕50。



 つまりソピアの合法力は、成人したばかりの女性の50倍。

 50倍の成人力を持つ女性に何故に罪の意識を抱く必要があろうか?



 むしろ、背徳的な気分になっているいまの俺の方が間違っているのだ。

 童顔の成人女性は違法ではない。


 むしろ背徳的な気分になっている俺が間違っているのだ。

 そうだ、大丈夫。大丈夫に違いない。



「……ソージよ。女性に恥をかかせるものでないぞ」



 そんな事を考えながらじっと見つめ合いながらフリーズしていると、

 ソピアが俺に向かって声をかけてきた。

 女性に自ら恥をかかせるとはなんたる失態。



 ええいままよ! 据え膳食わぬは男の恥!



 俺は心の中で"南無三ナムサン"と念じながら、

 ソピアと俺の唇を重ねる。


 スライム姿のソピアの唇は、驚くほどやわらかく、

 まるでメレンゲにキスをしているような感触。

 天にも昇る心地とはまさにこの感触。

 

 俺が唇の感触を楽しんでいると、

 舌先に冷たく柔らかい感覚。


 ……ソピアの舌が俺の口内に入ってきた。


 まるで口内をゼリーに蹂躙される感覚。

 気持ちよさ頭がおかしくなりそうだ。

 脳の奥がピリピリと痺れる。


 ひんやりとしたソピアの少しひんやりとした舌先の感覚が、

 俺の脳の理性を徐々にむしばんでいく。

 やばい、俺が……負ける!



 屈するな――俺!



 俺は負けじと、ソピアの舌に抵抗する。

 俺は舌に力を入れ、ソピアの舌を押し返し、

 ソピアの口内を蹂躙し返す。



 男として、ここで屈するわけにはいかない。

 ここが天下分け目の関が原。

 絶対に負けられない戦いがここにはある。



 しばらくは、双方の舌力が拮抗していたが、

 自由に長さが効く分ソピアの方がわずかに有利であった。

 人型ならともかく、スライム状態の舌には勝てない。



 あと、俺の舌が2cm

 ……いや、1.5cmほど長ければ、

 俺にも勝機があったかもしれない。

 歴史が変わっていたかも知れない。

 だが、今日の戦いは……俺の負けだ。



 くっ…殺せ!

 たとえどんな辱めを受けても、

 俺の心までは屈しは………!



 ……ごめん。

 俺……性欲には勝てなかったよ。

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