第3話『ソピアにレベルを 250 吸わせてみた!』
ソピアが言葉を言い終わると、俺は思った事を言葉にする。
論理的じゃないかもしれないが感じた事を話した。
「俺は、いまソピアが話した全員が許せない。千年前にソピアみたいな良い子を"邪神"とレッテル付けして弾劾した教団も、ソピアを神として担ぎ上げて最後には酷い目にあわせた信者たちも。そして、見ているだけで救いの手を差し出さなかった傍観者達も……その全てが許せない! そんなのあんまりに残酷だ!!」
怒りにまかせて言った言葉だ。公平ではないのかもしれない。
でも、そんな公平性なんてどうでも良いと思った。
千年前の出来事だとしても、この地下下水道に千年前に閉じ込められた、
ソピア本人にとってはきっと今でも思い出すほど辛い事だったのだろう。
ソピアは俺の目の前で初めて涙を流しながら語る。
千年の時を経た人間とは思えないほどにその姿に
あった年相応の反応であった。
「ひっく……邪神と崇めていた者達によって、妾は生きたままで、体をハサミで切られて……とても……痛かったのじゃ……」
慰めになるか分からなかったが、俺は黙ってソピアを抱きしめた。
俺の右肩にソピアの瞳からこぼれた雫が伝う。
俺は両手のひらにソピアのスライムのヒンヤリとした感触を感じていた。
「妾の刻まれた血肉は、凶悪なモンスターを生み出すための触媒として使われたようじゃ。そして、あやつらが消滅させることが出来なかった魂だけがこの部屋に封印されたのじゃ……」
あまりにも酷い事実にかけてあげられる事など思いつかない。
だから、極普通の事を言った。
「……本当に辛かったな」
「辛かったのじゃ……」
ソピアは俺の肩越しに、涙を零しながらワンワンと泣いていた。
ずっと自分の気持を話す相手もおらずこの部屋で、
ひとり寂しく耐えていた、ソピアのことを考えると心が痛い。
ひとしきり泣いたあとにソピアは言葉を続ける。
「この部屋に閉じ込められて最初の数年は……特に辛かったのじゃ。じゃが、いつからか時間の感覚がおかしくなって……時が進んでいるのか……止まっているのかすら、分からなくなっていたのじゃ……そして気づいたら千年経って、お主が居たという感じなのじゃ。きっと、お主が来てくれなければ、妾の魂もやがて消滅していたのじゃ」
「少しでも役にたてたのなら俺も嬉しいよ。ソピアはこれまで一生懸命頑張った。だから、これからは苦労しなくてもいい! 俺はソピアのために出来る事があるなら、何でもする! きっとこの部屋の外に連れ出す」
何の根拠もない発言だ。何か確信があって言った言葉でもない。
でも絶対にそうしなければいけないと思ったのだ。
だって、そうじゃなければこの子があまりに報われなさすぎる。
「妾はお主が会いに来てくれるだけで最高に幸せなのじゃ。妾がお主に無理を承知でお願いをするとすれば、『明日も今日と同じように妾に会いに来て欲しい』……それだけなのじゃ。短い時間だけでも構わないから、顔を見て話がしたいのじゃ」
俺はソピアの願いが、なんて慎ましやかな願望なのだと思った。
今までの理不尽や不幸を全てチャラにできるくらいに幸せにならないと駄目だ。
そうじゃないと帳尻があわない。
その時、俺のなかで絶対にやり遂げなければいけない事が決まった。
「そうだ! ソピアが日記に書いてあった、レベル・ドレインの魔法って今も使えるのか? 俺、ちょっとだけ良いアイディアが思いついたかもしれない!」
さして頭の回らない俺にしては良いアイディアが思いついた。
これが上手く機能するなら、少しは彼女の手助けけが出来るかもしれない。
「うむ。簡単な魔法なのじゃ。今の妾でも使えるが……どうしたのじゃ?」
「なら、俺のレベルを吸い取ってよ。レベルを吸収することで自分のレベルをあげることができるんだよね? それじゃあさ、ソピアのレベルが上がりまくれば、この部屋に出られるくらいに強くなるかもしれないじゃん。失敗しても、損は無いから試してみようよ!」
「さすがに、そういう訳には……。お主の妾に対しての思いやりの心は嬉しいのじゃが、お主にも生活があるのじゃ。妾のせいでお主が危ない目にあうような事にはなってほしくないのじゃ」
俺は自分のレベルにだけは自信がある。
それに地下下水道内であれば低レベルにされても生き抜くだけの力はある。
「大丈夫だよ。無駄に280レベルまで上がっちゃっているから。そうだな250レベルくらいまでなら吸ってもらって構わないよ」
「ソージよ。お主……280レベルって何者なのじゃ……? 千年前の話で今の基準が分からんのじゃが、勇者でもそんな異常なレベルには達していなかったはずなのじゃ……」
「まあ。細かい事は気にしなくていいよ。この地下下水道を掃除しているだけで経験値がかなりたくさん獲得できるんだ。物は試しだ、グイッと一気に250レベル吸ってみて!」
「ふえぇ……それじゃあ……お言葉に甘えて、レベルを吸収させてもらうのじゃ」
俺の怒涛のセールストークの勢いに押されてソピアは了承してくれたぜ。
訪問販売員が来たら押し売りされそうな感じがちょい心配だけどな。
ソピアが目をつむって手のひらをソージに掲げる。
そるとソージの体から膨大な経験値が白い光となって、
ソピアの体に吸収されていく。
すると、スライム状の体が人間のような肌ツヤの体に変わる。
今のソピアは裸体の少女である。
これはえっち過ぎる。
今度、服買わなくちゃな。
花柄の着いたかわいい白いワンピースにしよう。
「凄く肌のツヤがよくなったね! ……ところでスライム状にもなれるの?」
特に何か考えがあっての質問ではない。
やましいことなど一つもない。
本当に、本当だぞ?
「うむ。今の妾の力なら人の形にも、スライムの体にも成れそうなのじゃ。ソージからレベル250も吸わせてもらったおかげなのじゃ。魂だけの状態から、まるで肉体が戻ったかのように不思議な感覚なのじゃ。ソージよ、本当にありがとうなのじゃ」
少女らしい屈託のない笑顔で笑っていた。
俺は正直目のやり場に困っていた。
何故なら目の前の子はいきなり全裸である。
前かがみになってしまっても仕方がない。
真面目な話を聞いている中で申し訳ないとは思うが、
生理現象なので許して欲しい。
なお、実はスライム状態のときにもほぼ前かがみだったり、
“考える人”の銅像風の格好で必死に隠していたのはここだけの秘密だ。
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