第2話『ソピアと真剣交際1ヶ月目』

 あれから一月が経った。

 俺はあれからは毎日ソピアに会いに行っている。


 最初は少しぎこちなかった交換日記もお互い徐々に慣れていって、

 それを読むことでお互いの知らない面が見えてくるのが楽しい。

 お互いの文章が少しずつくだけた感じになっていくのが楽しかった。



「今日もサクッと仕事を終わらせますか!」



 最近の俺はというと、

 朝早くにギルドの受付に行ってクエストを受注して、

 そして即座に王都の地下下水道に潜り徹底的にモンスターを討伐している。


 たくさん討伐しても報奨金が増えるということはないんだけどな。

 まあ、掃除を頑張って誰かが迷惑する事もないだろう。

 不思議とこの地下下水道にも愛着が湧いてきた。


 まあ、一日の半分はここに居るからという理由もあるけど、

 それはソピアと会いに行くのが楽しいのだ。


 頼まれても居ないのに、地下下水道のあちこちの汚れを、

 "バブル・ウオッシュ"で洗浄してしまう。


 いい年齢のおっさんが年甲斐もなく浮かれちまっている。


 最近では危険なモンスターの居る地下下水道の中ですら楽しい。

 仕事をしている最中に鼻歌を歌っている自分に気づき自嘲するくらいだ。



 なんか中学生の頃に片想いをしていた頃に似ているぜ。

 まあ、その子は普通に彼氏作って告白する前に轟沈したわけだがな!



 それに就職してからも20代の前半を終えたあたりからは、

 仕事と家の往復だけで疲れていたし、お金も無いしで恋愛なんて諦めていた。



 まだ希望を持っていた20代前半の頃は街コンに参加したり、頑張っていた。

 街コンっていうのは簡単に言うと7500円くらい支払って知らない男女が

 チェーン居酒屋でお酒を飲みながらワイワイやる疑似合コンみたいなのだ。

 念のために書いておくが、特にいかがわしいものではないぞ。


 チェーンの居酒屋のワ○ミとかが会場でそこで同席した子にそれとなく

 勤め先とか、年収とか、家族構成の話とかを聞かれて、俺が正直に話すたびに

 露骨に対応が冷たくなったのが切なかったぜ。



 まあ、俺と同じような境遇の人間でもイケメンだけは例外だったな。



 俺は前世でのチートに該当する能力は"イケメン"だったと思っている。

 相手によるが"年収"や"学歴"という強カードすら上回るルールブレイカー。

 明らかにゲームバランスを壊している気がするぜ。

 バージョンアップ時にはレギュレーションをかけて欲しいぜ。


 まあ、そんなこともあって現実の自分自信の査定額を知った俺は

 恋愛に、関心を持てなくなっていたんだよな。


 "不都合な真実"を知り、悟りに至ったのはちょうど20代も半ば。

 いま思えば若かったし挑戦した事自体に……後悔はない。



 いや……、やっぱあるわ!



 うわあ! うわあ!!!

 ふざけるな……ふざけるなッ! 馬鹿野郎ッ!!!!


 鎮まれ……鎮まれ! 俺の心の中の衛○切嗣よ。



 そんなことはまったくどうでも良いのだ。

 HAHAHA。そんな闇の記憶は綺麗にこの下水に流そう。


 俺は、八つ当たり気味に目の前のダーティー・スライムを

 掃除魔法で殲滅した。汚物は消毒に限る。


 今が楽しいのだからそんな昔のことは忘れよう。

 街コン会費が男だけ3倍だったことなんて、

 俺はまったく気にしていないからな!



 この世界に来てからは大変なこともあったけど生きている実感があるし、

 ソピアと出会ってからは毎日が楽しい。

 景色が輝いて見える。



 まあ……みっともないのかもしれないけど……。



「でも、楽しいのだから仕方ないじゃないか」



 俺は一仕事を終えて、いつものように

 ソピアの居る隠し部屋に遊びに行く。



「おじゃまします。ソージです」



「おおっ! ソージ、今日も遊びに来てくれたか嬉しいのじゃな」



 今日はいつもどおりの交換日記とは別にちょっとした

 プレゼントも持ってきた。喜んでくれるといいのだけど……。


 ソピアに出会ってからは王都の街並みも美しく見える。

 安宿に帰ったあとは、毎日日記を書くのが楽しい。



「今日は花束を買ってきたよ。気に入ってくれると嬉しい」



 俺はソピアにオリーブの花束を渡す。

 交換日記を読んで知った彼女の好きな花だ。

 贈り物用に綺麗に包んでもらったのだ。



「おおっ。いい匂いじゃのう……。妾の大好きな花なのじゃ。ソージ、気を使ってくれてどうもありがとうなのじゃ。お返しができなくて申し訳ないのじゃが……」



「どういたしまして。俺が好きでやっていることだからお返しなんていらないよ。ソピアの交換日記の中で、子供の頃はオリーブの花が好きだって書いていたから買ってきたのだけど、喜んでもらえたみたいで俺も嬉しいよ」



「本当に……いい、においなのじゃ。花の匂いか、随分と懐かしいのじゃ」



 ソピアは花束のブーケットを鼻先に突きつけて、匂いを楽しんでいる。

 きっと懐かしい想い出を思い出しているに違いない。



「お主が、最初にアルビノ・アリゲーターと戦った時の日記は腹を抱えて笑わせてもらったのじゃ。特に笑えたのは、出口付近まで戻ってアリゲーターが登ってこられないところから一方的に魔法連射してハメ倒すシーンは面白かったのじゃ」



「いや……。あのワニ畜生にはじめて出会ったときは死ぬかと思ったよ。だって、俺の掃除魔法ですら一撃で死な無い奴は初めてだったから、さすがに命の危機を感じた」



 ソピアがつたない文章なのに笑ってくれて嬉しい。

 交換日記は思ったよりも楽しかった。



「それにしても、昨日の日記に書いてあった、ソピアのことを千年前に邪神扱いして酷いことをした連中が許せないよ。ただソピアが知っている知識を伝えようとしただけで……そんな残酷な事をするなんて狂っている。そいつらこそ邪神だ!」



「日記をしっかりと読んでくれたのじゃな。ありがとうの。妾も昔は神童と呼ばれた時期があっての……。昔は叡智を持つ大賢者なんて言われておったりもしたのじゃ。それで、張り切りすぎたのかの。人々の生活をよりよくと思ってやった事が、大きな間違いじゃったのじゃな……出過ぎた行いだったのじゃ」



 俺は黙って話をうなずきながら聞く。

 なんとなく口を挟んだらいけないような気がしたのだ。



「当時最大勢力の教団の信仰と矛盾すると弾劾され、いつの間に妾は神の信仰に背く "邪神" の生まれ変わりと言われるようになったのじゃ。そして、いつの間にか妾の周りには見ず知らずの者たちが群がり、妾を神と崇められ、あれよあれよという間に妾を神とまつり上げる教団が出来ておったのじゃ。それが、千年前にあったことの全てなのじゃ」

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