第14話 停電の理由

 着いたとたんに、鉄格子の中に閉じこめられてしまうなんて。

 ナオミは、小さくため息をついた。

 未来は、ひどいところみたいだ。

 こころとかいう友達もひどい。自分だけ逃げだして、助けに来た友人を牢屋の中に置きざりにしてしまうなんて。

 絆は無事に逃げだせるのだろうか。

 こころに再び巡り合うことができるのだろうか。


『どのくらい時間がたったろうか。

 だしぬけに明かりがついた。

 さっきの松明の炎とは違うまばゆい光に、私は思わず目を覆った。

 目が慣れてくると、鉄格子の縞が、ぼんやり黒く浮かんできた。

 格子と格子の間が純白に光り輝き、ほとんどすべてが影絵のようにしか見えない。

 その向こうから、黒い染みが現れた。

 人の形に見える影がふたつ。

 影絵のように見えたそれが、だんだん大きくなってきた、と思ううち、気がつくと、目の前に人が立っていた。

 格子の向こう側にいたと思っていた人影が、いつの間にか格子のこちら側にいる。

 見慣れぬ服装をした、見知らぬ人たち。そのうち一人の顔を見て、私は息を飲んだ。

 こころのお兄さんだ。

 向こうもこちらに気づいたようで、少し驚いたように目を細めた。

 お兄さんの斜め後ろにいた男が、お兄さんに小声で何か話しかけた。

 聞いたこともない言葉だ。

 お兄さんが首を横に振り、何か言い返した。

 幾度かそうしたやり取りがあった後、お兄さんが私のほうへ近づいてきて、かがみこんだ。

「双葉さん? 久しぶりだね」

 お兄さんは、初めて会った時と同じように、愛想よく微笑んだ。

 思いがけず街角で出会って、久しぶりだね、と声をかけるのと同じぐらい気軽な調子で。

 助け起こそうと手を差し伸べてくれる。

 私の置かれたシュールな状況には、あまりにも不釣り合いな態度だったけれど、

ようやく頼りになる現実を見つけたように思い、私はお兄さんの手にすがりついた。

 お兄さんの笑顔は、あいかわらずうっとりするほど素敵だった。

 二年前と変わらない澄んだ瞳を間近にすると、ふっと全身の緊張がほどけていき、違う意味で緊張した。

「まさかここで会うとは思わなかった。なぜ君がここにいるんだ?」

「分かりません。私……」

 もう一人の男が、射すような目でこちらを見ている。

 私が怯えているのに気づいたのか、お兄さんが素早く振り返って何か言った。

 男は、抗議するように何か言い返したが、お兄さんが身振りで立ち去るように指示すると、しぶしぶといった様子で踵を返した。

 男は来た時と同じように――どうやったのかさっぱり分からなかったけれど――気がつくと格子をすり抜けて影になっていて、そのまま小さく、薄くなっていつしか消えていった。

 呆然としている私に、お兄さんが左手を掲げてみせた。

「ついさっき、リングに反応があった。それから大規模な停電が起きた」

 薬指には、私がしていたのと同じ、鈍色の指輪がはめられていた。』

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