第6話「基礎(イェソド) その1」

前回のあらすじ

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 何とかジャスティス帝国の兵士を退けた麻里奈たち。

 7人は「レジスタンス」の仲間がいるという隣町へと向かう。しかし、その道中に、何者かが潜み、待ち構えていることは、このとき彼らは気づく由もなかったのだ。

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<正義の演説>

 薄暗く、ただ広い部屋。そこに人々が銃を持って整列している。その時、彼らが向いている方向にあるモニターに「JUSTICE EMPEROR」の文字が映る。その時だった。


 ?「諸君、諸君らにとって「正義」とは何か、真剣に考えたことはあるか?」


 この問いに、彼らは声をそろえて「はい!」と答える。それもまるで機械のような笑みを浮かべて。


 ?「では、「悪」とは何なのか。そのようなものはどうすればいいのか、考えたことはあるか?」


 この問いにも、彼らは不気味なまでの笑みを浮かべて「はい!」と答える。


 ?「実に、実に残念な話だが、先ほど我らが軍、我らが正義にに逆らう愚者共が我らが軍の誇りを傷つけたとの情報がある。」


 「ふざけるな!」「俺たちをなめやがって!」「ぶっ殺してやろう!」と彼らが言う「愚者共」に罵声を浴びせ始める。


 ?「まぁ落ち着きたまえ。彼らを責めては彼らと同じ。我らがやることはいつも同じこと、そう。『悪を圧倒的力でねじ伏せ絶望させ、我らが正義を見せつけて死に至らしめる』こと。それこそが民衆、否、全人類が心の底から望む『正義』なのだ。たった今、『イェソド』が彼らを葬ろうとしている。」


 薄暗い部屋に、希望が、期待のどよめきが聞こえだす。


 ?「我らはここで見届けようではないか。正義の力を、悪が我らに命乞いをするその全貌を。そして「レジスタンス」とかという『絶対悪』に見せつけようではないか。我らが『絶対正義』、そのすべてを!」


 「「「「「うぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」


 歓声が部屋の中に満ち満ちる。そう、ここは「ジャスティス帝国」の基地。そしてモニターの中の人物こそ、禮たちが倒すべき「敵」なのだ。


 ?「『正義』とは我らが誇り!『正義』とは人類のプライド!『正義』とは我らの圧倒的な力なのだ!!」


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<基礎の暗示>


 ところ変わって、ここは裏山。依然俺たちを乗せた電磁砲レールガン戦車は裏山を走行中。前方を戦車のライトが照らしている。現時点で異常は何らない。


 禮「不気味なほど、誰もいないな。まぁ真夜中に裏山に行く人間がいないのも事実だが。」


 麻里奈「でも油断は禁物よ。あいつらがこのままおめおめと私たちを逃がすとは思えない。きっとこの先に、何者かいますわ。」


 俊介「ところで麻里奈さん。あんた、なんで隣町にレジスタンスがいるってわかったんだ。そもそもレジスタンスって何者なんだ。説明してくれ。」


 澪「確かに。」


 麻里奈は、しばらく黙ったのち、レジスタンスについての説明を始めた。


 麻里奈「ええ、『レジスタンス』ってのは、その名の通り『ジャスティス帝国』の方針に不満を持った兵士や市民が、帝国の体制を変えるために立ち上がったという組織よ。世界中に彼らは拠点を持っていて、帝国軍の侵略や彼らの言う『正義の制裁』を阻止しているわ。リーダーの名前は『マクロード・ケテル』。元帝国軍の一兵士。その基地が、隣町にある。私の仲間からの情報で、絶対に確かな情報よ。」


 と、一通り説明をし終えた麻里奈。そこに、何か腑に落ちない顔で躯が麻里奈に尋ねる。


 躯「あの、さっき『私の仲間』って言いましたけど、それってあなたも…」


 すかさず、麻里奈は答えた。


 麻里奈「ええ、私も『レジスタンス』の一人よ。」


 澪「なんで、なんで黙ってたの?普通に考えて、そういうことってあらかじめ言わないものじゃない?麻里奈さん?」


 麻里奈「そ、それは…」


 澪「いや、答えなくていいわ。大体の見当はつく。『迷惑をかけたくなかった』ということでしょう?でも残念だったわね。ああやって兵士たちは攻め込んできた。」


 麻里奈は、悔しそうに下唇を噛み締め、右手を握りしめ始めた。


 澪「皮肉なものね、あんたがレジスタンスであろうがあるまいが、どっちみち奴らが攻め込んでくる運命だったんだか『ふざけんな!』」


 麻里奈は、怒りに任せて澪の右の頬を殴った。そのあと、彼女の制服の襟をつかみ。涙を流しながらまくしたてるように言い始めた。


 麻里奈「いったい何なの!さっきからその態度!その言い方ッ!『皮肉』ですって…!『運命だった』ですって!あんたに私たちの運命の何がわかるっていうの!?あんたはそうやって皮肉を言えるほど偉いの!?」


 罵る、麻里奈は涙を流しながら罵り、まくしたてる。澪は、あまりの剣幕に黙り込むしかなかった。そのうち、言葉を絞りだすように澪は小声で言った。


 澪「…事実なのに。」


 麻里奈「なんですって?」


 この一言を引き金に、澪も麻里奈を罵りだした。ただ、麻里奈のように感情に任せて言い放つことはなかった。


 澪「皮肉も何も、事実をありのままいうことの何が悪いというの?」


 麻里奈は、一瞬口をつぐんだが、すぐにまた言い始めようとした瞬間だった。満月と星が輝く夜空に、異形の『人影』が映し出されていた。


 躯「なんか来た!あれは…人!?」


 俊介「人にしては…なんかおかしいぞ!?」


 満月に照らされた『人影』、その『右腕』は見る限り大木より太く、普通に筋肉トレーニングをしていてもそうはならない、尋常じゃない大きさを誇っていた。


 禮「『右腕』…普通あそこまで、でかくないよな!?」


 華玖夜「ねぇ二人とも!早くこの戦車飛ばしたほうがいいよ!?」


 稔「ねぇ、澪、あいつ澪を襲う気だ!」


 ?「事実とて、他人を傷つけるのはよくないなぁ?ええ!?大槻澪さんよぉ!」


 稔が聞いた『人影』の声は、確かに澪を意識した声だった。すなわち、


 ?「澪よ、正義のために死ね!!」


 バギャァァアアアアォオォオオオオオオンンンンン!!!


 異形の右腕は、戦車の進行方向の目前で振り下ろされ、大地を揺るがす。その振動は、超重量を誇る電磁砲戦車をも揺るがせ、後方へ吹っ飛ばす。幸い、戦車が回転するなんてことはなかった。


 麻里奈「な、なんですの!?」


 禮「あいつがやったんだ!あの右腕が異形の男が!」


 ?「…さぁ出てこい。命が惜しければな。」


 その男は紫のショートヘアーで、白目が漆黒の闇の如くどす黒い。その黒目にあたる部分も左と右で紫と黒をしている、化け物のような眼をしていた。怪物のような右腕とは対照的に、左腕はまるで貧相な木の枝のように細く、その皮膚は老人の皮膚のように垂れ下がっていた。

 その姿は、まさに『異形の怪物』の名にふさわしい姿であった。


 澪「なんなの?あいつ。」


 澪は、戦車の出入り口から首をだし、戦車から降りた瞬間、その男は獲物を見つけた狼のような眼で彼女をにらみつけた。


 イェソド「俺は『イェソド・メソッド』。我らが帝王に仕えし『セフィロトの十騎士』、その一人だ。話は聞かせてもらった。大槻澪、貴様が『悪』だ。」


 イェソドと名乗る男は、澪を『悪』と言い放った。『ジャスティス帝国』にとって『悪』は滅するべき存在。つまりこの発言は、彼女に対する死刑宣告に他ならないのだ。


 禮「おい、どういうことだよ。『話を聞いていた』って、どういうことだよ。」


 イェソド「いかにも。その戦車、元をたどれば我らが軍の代物。乗っ取られた場合の対策もできている。」


 彼は誇らしげに、彼が着ていた黒いコートからイヤホンと謎の黒い機械を取り出した。


 躯「くそ!盗聴器か!」


 イェソド「そうだ。おかげでもともとの『死刑対象』も発見できた。礼を言わせてもらうよ。」


 麻里奈「何が目的なの?」


 イェソド「ふん!いわずと知れたこと。俺の目的は貴様らの処刑だ。我らが軍に反旗を翻す危険因子は、早い段階で排除しなければならないのでな。だが、俺たちがもともと死刑にするはずだった『死刑対象』は、大槻澪、貴様だった。」


 イェソドは、下衆のような笑みを浮かべて、澪を指さす。


 澪「私が何をしたというの?」


 イェソド「ほう、白を切るか。馬鹿なものだ。自分の過ち、自分のしていることが悪であるという事実にさえ気づかないとは。では聞くが、澪、お前『高杉 稔』に何をした。君の口から言え。」


 稔は、何かを言いたげであった。しかし「言いたくない」という表情を浮かべていた。


 イェソド「まぁ言いたくないのならこちらから。な。」


 そのうちイェソドは、黒いジーンズから1冊の小さいメモ帳を取り出し、淡々と述べ始めた。


 イェソド「調べた限りでは、君は高杉君に対してひどいいじめを行ったそうじゃあないか。例えば彼の教科書データにペイントツールで暴言を描き連ねる、彼を呼び出してどぶ川に突き落とす、彼のウォレットから多額の金銭を盗み取る。しまいには交通事故に見せかけて彼を殺害しようと…。すべては彼が自分より弱いから。全くふざけてる。吐き気すらするね。この邪悪が。ウジ虫以下のクソカスめ。貴様がいくら白を切ろうとも、高杉君本人に聞けば事実はわかることだ。」


 一通り悪行を述べたイェソド。彼の目の前にいる、何か言いたげな澪。その隣で彼女を見つめる麻里奈。永遠のように感じる静寂の中、戦車の中から稔が現れる。


 稔「そうだ…。確かに澪は、僕をいじめた。まぎれもない、事実だ。でも…!」


 戦車を出た稔は、イェソドの前に立ち反論しだす。


 稔「でも、それでもお前なんかに、澪を殺していいはずがない!これは僕が彼女を見返してやればいいだけの話であって、関係のないお前なんかに、澪を殺していい権利はない!それでも殺したいのなら、僕を殺してからだ!!」


 禮「稔、お前何やってんだ!まだ奴の能力が何なのかわからないんだぞ!?澪を連れて今すぐ戻れ!このままだったら死ぬぞ!」


 俺は稔と澪を呼び戻そうとした。しかし稔は何かの決意を固めた表情をしている。その表情を変えようとはない。

 それを見ていたイェソドは、邪悪な笑みを浮かべてこう言った。


 イェソド「ほう、何がお前を突き動かすのか、俺にはわからない。だが、そこまで彼女を擁護するのならば。いいだろう!まず貴様をなぶり殺しにしてから貴様のお仲間を処刑することにしよう。貴様ら、ついてこい。」


<惨劇の痕>


 俺たちは戦車から降り、彼についていく。おおよそ5分後、俺たちは少し開けた、広場のような場所へたどり着いた。しかし、そこは腐敗臭が漂う。周りを見てみると、凄惨な殺され方をした、大量の人のような形をした何かが転がっていた。俺はこれを見て即座に察した。いやでもこれしか思いつかなかった、そう、これらは全て人間の惨死体だった。周囲に飛び散っている肉片、骨のかけら、血液、それをついばむ鳥。凄惨極まる地獄絵図そのものであった。


 華玖夜「ひ、ひどい、おぇ。」


 俊介「地獄かよ、ここ…ひどいとこ選びやがって…!」


 すると、鼻と口を押さえている麻里奈が、何かを見つけたようだ。


 麻里奈「これって、帝国軍のマーク、ですわ、だって、J-E(JUSTICE ENPIRE)のマークが描かれてますもの…。」


 彼女が見つけたのは、ところどころ金が塗装された部分が見える、血にまみれたバッジ。


 禮「これってよ、まさか。」


 イェソド「そうだ。俺がやった。俺が無能な兵士どもを処刑したのだ。今貴様らが見ているのは貴様らがシェルターとやらで何とか追い払った兵士、その死体なのだ。」


 こいつは無能だと分かれば、たとえ仲間でも惨殺してしまうのか。ふつふつと怒りがわいてくる。こいつの傍若無人さに。こいつの残酷性に。


 禮「てめぇ、自分の仲間だぞ…、無能ならこんな方法で殺してもいいというのか…!」


 そういうと、イェソドはけろっとした顔で言い放つ。


 イェソド「そうだ、こんなもの『基本的に』、葬れるはずなのだ。それもできぬカスに、もはや生きる価値など1ミリもない。そして、貴様らはここで俺に処刑され、肉団子と化してゲームオーバー、というわけだ。」


 まじかよこいつ。そこまで言われりゃあ何もいえねーよ。それでも、イェソドは淡々としている。


 イェソド「さて、高杉稔。貴様は先ほど『俺を殺してから澪を殺せ』と抜かしていたが、そこまで自信があるというのだな?」


 稔「…。」


 イェソド「自身がないのなら、選手交代してもいいんだぞ?俺は一向にかまわんからな。」


 イェソドは、大人気もなく稔を挑発する。しかし、彼の表情は曇ることはなかった。


 稔「いや、いいよ。みんなは隠れてて。」


 俊介「ああ、わかった。」


 麻里奈「死なない程度に頑張ってください。」


 俺たちは倒木の山に隠れ、この戦いを見守ることにした。


 イェソド「ほう、その自信と勇気だけは認めてやろう。どれほどのものか、楽しみだ!」


 その瞬間、イェソドは肥大化している左腕で稔を殴る。それは殴った場所にクレーターができるほどの破壊力。それは、もし当たっていれば、死は免れられない威力であった。


 イェソド「ちっ、躱したか。だが…」


 俺は倒木の山から跳躍したイェソドの「変化」を見た。彼の肥大化した肥大腕がしぼむと同時に、今度は右脚がミサイルのような太さに変化していく。


 イェソド「いつまでよけられるかな!?」


 禮「危ない!」


 稔「なっ!?」


 瞬間、繰り出されるイェソドの「かかと落とし」。たかがかかと落としが、まるでそこにミサイルでも着弾したかのような衝撃を引き起こす。衝撃波が周囲を襲う。


 稔「ぐあああああ!!!(大木に激突する)」


 大木に激突した稔、木の枝に何とかつかまり、そのまま落下死は免れた。しかし、イェソドは攻撃をやめようとしない。


 イェソド「もう終わりか。つまらん!(右腕を肥大化させ、跳躍する)」


 再び飛び上がったイェソドは稔を大木もろとも壁に張り付いている蠅のようにつぶそうとした。その時だった。


 稔「…今だ。」


 バァン!!


 突如、夜の山に響く「銃声」。それとほぼ同時に俺は、イェソドが『右脚』から血を流して吹き飛んだのを見た。


 稔「少しは見直してくれたか、イェソドさん?」


 イェソド「貴様、くっ、これはいったい…!」




 第7話「基礎イェソド その2」へ続く。

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