第5話「叛旗」

 前回までのあらすじ

 ******

 「ジャスティス帝国」の襲撃から命からがっら逃げ切った禮たち。


 しかし、帝国軍は避難用シェルターを発見し、最新兵器「電磁砲レールガン戦車」を引っ提げて禮たちのいるシェルターを襲う。


 果たして禮たちは、彼らの追撃から逃げ切れるだろうか…!

 ******

 <追撃>

 兵士1「出てこい!いるのは分かっている!」


 兵士2「電磁砲レールガン戦車の餌食になりたくなければ、直ちに出てこい!出てくれば手荒なことはしない!」


 禮「…くそ!やはり嗅ぎ付けてきたか!」


 このままでは俺もシェルターの中のみんなもやられてしまう。だからと言って一人で大量の兵士に立ち向かうのも自殺行為だ。どうするかを考えていたところ、麻里奈がドアを開け、シェルターの玄関前の柱に隠れていた俺に話しかけた。


 麻里奈「一体人の騒ぎですの?」


 禮「見ればわかるだろ?奴らがここまでかぎつけてきたんだ。このままでは確実にやられる。」


 互いに柱の陰に隠れ、どうするかを考えていた。


 麻里奈「そう、だったらもう突っ切るしかなくてよ?」


 あまりにも無謀、あまりにも無茶すぎる提案に俺は「はぁ!?」と大声で叫びかけたが、何とか我に返ってそれは抑えた。


 禮「いやいやいや、このまま突っ込んだらいくらお前でも『死ぬ』ぜ!?」


 俺はあんまり戦いたくはなかった。戦って何かしらの要因で重症になってしまえば肝心な時にどうすることもできなくなってしまうからだ。そのうえ、兵士の人数を目測で見ると焼く50人ほど。7vs約50ならよほどのことがない限り50が勝つに決まっている。だったら「レジスタンス」と合流して迎え撃ったほうが確実なのだ。それなのに麻里奈は…!


 禮「俺たちの目的は「レジスタンス」との合流のはずだ。何もあいつらを再起不能にすることじゃあ…」


 麻里奈「え?誰が再起不能にするといったのかしら?私は言ってませんわ。」


 禮「確かにそうだが…。」


 麻里奈の言い分に半ば納得しかけていた時だった。


 兵士3「そこにいるのはわかっている、今出てくれば殺しはしない!おとなしく出てこい!」


 兵士がプラズママシンガンを構え、すぐそこまで迫ってきている。冷や汗が出始めた。俺は麻里奈に「どうする気だ」と言った。


 麻里奈「要するに『兵士の兵装を使えなくさせ、撤退に追い込む』。そうすればここから逃げる時間が稼げますわ。」


 その発想が出なかった自分が、少し悔しかった。が、今はそんなことを考えている暇はない。自分たちの命が危ういのだ。


 禮「わかった。動きはお前に合わせるぜ。」


 麻里奈「それでいいですわ!むしろ推奨しますわ!」


 兵士1「さぁ、これが最後のチャンスだ!もし出てくれば命だけは…「待って!今行く!」よーし!出てこい!」


 禮「悪かった、怖くて出られなかったんだ。」


 麻里奈「中にみんないます!だから命だけは…ってね!」


 刹那、彼女の左手から火炎が放たれる。それはプラズママシンガンを構えていた兵士の右手に直撃し、彼の手からマシンガンを離させる。


 兵士1「熱ッ!貴様!正義の使者たる俺の手に、よくもやけどを!」


 麻里奈「正義の使者?何言ってますの?あなたのやっていることはただの虐殺ではなくて?」


 至極真っ当な正論が、麻里奈の口から放たれる。しかし、自分を正義の使者だと信じて疑わない彼らにとっては、ただの暴論、屁理屈でしかない。


 兵士1「虐殺!?貴様こそ何を言っている!」


 兵士3「悪を抹殺する、それの何が悪いというのだ!」


 兵士2「どうしてもわからないというのなら…!」


 兵士4「ここで全員死ねッ!!」


 麻里奈「禮、奴らの武器を!」


 禮「わかった!」


 俺は麻里奈の指示通り、奴らの武器を俺の能力で吸い寄せようとした。軽量な武器、例えば高周波ナイフやテーザー・ハンドガン(相手を「殺さない」捕獲用拳銃)は吸い寄せることはできたが、彼らのマシンガンやライフル銃までは吸い寄せられなかった。


 兵士5「俺たちの武器が!」


 兵士4「やはりあいつらも偉大なる『十騎士』様たちと同じ能力者か!」


 兵士6「うろたえるな!でかいのは吸い込まれてねぇ!」


 『十騎士』というワードに少し引っかかりがあった。『十騎士』とは何者なんだ?いや、そんなことを考えている暇はない。


 禮「……チッ、軽い武器しか吸い寄せられねぇ。わりぃ。」


 麻里奈「いえ、これで十分ですわ。あとは私に任せ、あなたはみんなを呼んでくださいまし!」


 禮「わかった、死ぬなよ。」


 俺は麻里奈を心配しつつも、華玖夜たちがいる部屋へと向かった。


 麻里奈(それはお互い様、ですわ。)


 麻里奈「さぁ、どうしたのかしら?あなた方が正義の使者ならば、そのマシンガンで私様の命を奪ってみなさい!」


 麻里奈は、兵士を挑発する。


 兵士2「言わせておけば!望み通り打ち抜いてやるよ!!」


 兵士は、むきになって麻里奈に銃を向ける。しかし、しかし


 麻里奈「やはり単純ですわね!くらいなさい!」


 彼女の手のひらから、電気がほとばしる。それは彼女に向けられたプラズママシンガンに向けて放たれ、武器をショートさせ使えなくさせる。


 麻里奈「わが奥義「放電」!あなた方の命までは奪わない、この私様の温情に感謝なさい!」


 兵士6「だめだ!兵装のほとんどが…!」


 麻里奈の「電撃」によって、奴らの装備のほとんどが一時的とはいえ使用不可能な状態になる。


 兵士7「だめだ、電磁砲レールガン戦車もダメになった!」


 兵士4「引け!引け!いったん引くんだ!!」


 麻里奈「ふん!所詮は噛ませ犬もいいところでしたわね!」


 兵士5「貴様…これで終わったと思うな!貴様らはいずれ身にしみてわかるだろう!我らが真に崇拝する『正義の執行者』!我らが崇めし大いなる『正義の天使』!その大いなる力がもたらす絶対なる正義の鉄槌!」


 「『セフィロトの十騎士』、その正義の力を!」


 麻里奈「『セフィロトの十騎士』。いったい何者ですの…、これ以上は聞けない、わね。」


 かくして兵士たちは、俺たちの前でまるで蟻が巣へと帰っていくように撤退していった。ひとまずはやり過ごしたが、もうここに長居はできない。急いで出なければ…。そう思いながら、引いていく兵士たちを見送っていった。

******

 <行先>

 稔「『セフィロトの十騎士』。」


 麻里奈「ええ、奴らはそう言ってましたわ。」


 華玖夜「その人たちって、いったい何者なんだろう。本当に。」


 麻里奈は、奴らが言っていた存在『セフィロトの十騎士』のことを話した。


 禮「今そいつらについてわかることは、『ジャスティス帝国にとって重要な存在』であることと、『十の名の通り10人いる』ということか。」


 澪「それに全員能力者。まぁ、全人類が能力者だし、これは関係ないか。」


 俊介「そのうち会っちまうのか。いやになるぜ。」


 躯「面倒なことになりましたね…。」


 7人「「「「「「「…。」」」」」」」


 しかし、いつまでも悩んでいる暇はない。今はここから出ることが先決なのだ。


 禮「それより、これからどうする麻里奈?というか、追手や増援が来ることを考えればもうここに長居はできない。」


 華玖夜「どこに行くの?」


 麻里奈「まずは裏山を抜けるわ。奴らが使っていた電磁砲レールガン戦車は自動運転システムとなっている。それの到着地点を隣町に合わせてここからおさらばするしか…。」


 電源が復旧した電磁砲レールガン戦車、奴らが置いていったのだ。


 澪「でも帝国軍のシステムでしょ?簡単ならばいいけど、こういうのってハッキングしなければだめじゃないの?それに、もしできなかったとしたら、どうやって運転するのよ。あのバカでかい戦車。」


 麻里奈「…。」


 俺含めて、誰もが口をつぐんだ。全くの正論だったからだ。しかし。


 俊介「俺がやろう。」


 麻里奈「え?まじで?」


 俊介「簡単な奴ならばな。どーせカーナビみたいなもんだろ?この時代のそういうシステムなんざ。」


 禮「だが…。」


 セキュリティをどうにかする必要がある、と言おうとしたら、


 俊介「ま、無理だったら強引にでも動かす!機械ってのは、そういうもんだろ。」


 おいおい、いくら何でも…。大昔じゃあないんだから。確か、昔の「家電」というものは斜めに叩いたらまた動きだした。とか言ってたな。だが今は違う。こういうものは耐震対策もできているし、よほどのことが起きない限りは壊れない仕様になっている。


 澪「…おおざっぱじゃね?」


 禮「否めない。」


 澪の言い分に納得していた、その時だった。


 俊介「はっはっは!なんだこのシステム。簡単すぎるぜ、アナログすぎる。カーナビで目的地を入力するほど簡単だった。動くぜ。」


 まじかよ。


 麻里奈「さすがですわ!さぁ、乗りますわよ!」


 5人「「「「「おう!」」」」」


 俺たちは電磁砲戦車に乗り込み、裏山から出ようする。エンジンは俊介が起動させた。自動運転システムによって目的地である隣町へと方向が変わり、戦車は動き出す。


 麻里奈「この裏山を抜ければ、隣町に出ますわ。そこに『レジスタンス』の仲間がいる!まずはそこに向かいますわ!」


 戦車は、隣町へと向かう。真夜中の路を戦車のライトが照らしている。この先に何があるかは俺たちはわからない。敵が待ち伏せているのかもしれない…。


 その予感は、俺たちが想像しうる最悪の形で的中してしまう。

******

 <影>

 そのころ、一人の男が兵士の死体を右足で踏みつけ、誰かに電話をしていた。


 ?「奴ら、おそらくは『レジスタンス』に会いに行く予定ですが…。ハイ。今阻止しますか?」


 その男は、まるでゴミを見る目で兵士の死体の山を見ている。兵士は、どれもこれもぐちゃぐちゃに「潰れて」いる。


 ?「はい、こいつらが全く役に立たなかった。処刑して正解でしたか?」


 ぐちゃっ、と肉をつぶすような生々しい音が、彼の足の下の死体から聞こえる。


 ?「…はい、では奴らの「処刑」は私めに任せてもらっても…?」


 真夜中の森、その男は先ほどまで踏んでいた死体を蹴り飛ばし、悪しき笑みを浮かべる。


 ?「このような栄誉、ありがとうございます。我らが「神」。」


 イェソド「この『イェソド』めが、必ず!奴らを葬ってまいります。すべては「絶対正義の体現者」たる「神」、あなた様のために…!」


 毒々しい紫の短髪、白目と黒目が反転した不気味な瞳、まるで木の枝のような細い四肢。その姿は、まるで幽鬼の如く。


 ____その男の名は「イェソド・メソッド」、「基礎」の暗示を持つ存在。


 第6話「基礎イェソド その1」へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る