夏祭り

★本日もう一個の連載、聖女をクビになったら、なぜか幼女化して魔王のペットになりました。のコミカライズが始まりました!コミックウォーカー様とニコニコ静画様で見れますので、よかったらぜひ(*´∀`*)





◆本編

 今日はお祭りの最終日だ。

 結局、わたしは全然お祭りを楽しめていなかった。

 お父様たちが来て、バタバタしていたのだから仕方ない。それはわたしを庇ってくれたみんなも同じだったらしく、最終日になってようやく、みんな肩の力を抜いて、純粋にお祭りを楽しめたらしい。本当に迷惑をかけてしまった。でもその分、今度はわたしがみんなに恩返しすればいいのだと、今は思える。きっとこれからの人生は、そういうことの繰り返しなのだ。

 精神的な疲れはあったけれど、家でじっとしているよりも、お祭りの雰囲気を味わいたかったわたしは、今日は普通に働いていた。ギルドの前に出された拡張スペースは、すでにたくさんの人たちで賑わっている。

 今回の件に関わってくれた人たちにお礼を言いながらテーブルを回っていたわたしは、ようやく挨拶をし終えて、ほっと一息ついた。そんなわたしを、ルーリーが呼び止める。

「クーちゃん、そろそろ休憩しましょ。花火が上がっている間は、みんな注文しないからね」

「花火、楽しみです」

「ふふ、みんなで見ましょうって、約束していたものね」

 ──約束が守れてよかった。

 わいわいと賑わうスペースを見ながら、そう思う。

「ううう、クーナさん、クーナさぁん……」

 テーブルに座っていたエレンさんが、グスグスと泣きながらわたしに話しかけてきた。

 どうやらお酒が入って酔っ払っているらしい。

「遠くへ行っちゃ嫌ですよぅ」

「もう、あれからずっとこの調子ですにゃ」

 エレンさんの前に座っていたクロナさんが、呆れたようにそう言った。

 わたしは思わず苦笑してしまった。

「エレンさん、わたし、ここにずっといますから、大丈夫ですよ」

「でもでも、クーナさんは実はすごいお嬢様で、私みたいな庶民なんかとはもう……」

 遠い存在になっちゃいました~! と泣くエレンさんにどうしていいかわからなくなって、ぎゅ、と抱きつく。

「話し合いをするために少し離れることはあるかもしれませんが、必ず戻ってきます。だってわたしの居場所はここだもの」

 そう言うと、エレンさんはようやく泣き止んだ。

「本当に? お嬢様になっても、私と友達でいてくれます?」

「当たり前です。それにわたし、公爵位も継ぐつもりないし。わたしはわたしです」

 そう言うと、エレンさんはようやく、安心したようにくたっとテーブルに突っ伏した。

「よかったですぅ」

 すぐにくーくーと寝息が聞こえてくる。

 エレンさんもクロナさんも、今回のことで相当心配をかけてしまった。今度何かお礼をしよう。

「まあ、何はともあれ、ひとまずは解決したようでよかったですにゃ」

「はい。色々とありがとうございました」

 ぺこっとお辞儀をすれば、クロナさんの視線がわたしの後ろに動いた。

「クーナさん、ギアさんが来てますにゃ」

「えっ?」

 思わず振り返れば、本当だ。遠くから、シューティングスターとギアがやって来るのが見えた。

 休憩しに来たのだろうか。

「クーナさん、行かなくていいんですかにゃ?」

「えっと」

 クロナさんは、なぜかニヤニヤしていた。

 な、なんなのだろう、そのニヤニヤ顔は。

「クーちゃん、ちょっと休憩してきたら? ギアのところでねっ!」

 そばで食器を拭いていたルーリーも、なぜかにこやかにそう言う。

「さ、行ってらっしゃい」

「わ」

 二人に背中を押し出されて、何がなんだか分からないまま、わたしはギアの元へ足を運んだ。



「ギア、お疲れさまです」

 ギアとシューティングスターの元へ行くと、ギアは少し笑ってわたしを見た。

「クーナ、元気そうでよかった」

「はい。ちょっと疲れてますけど……でもみんなと一緒にいる方が、元気になれる気がして」

 シューティングスターの鼻を撫でながらそう言うと、ギアは頷いた。

「それなからよかった。あれから会えてなかったから、どうしているんだろうと気になって、つい来てしまった」

 お父様を王都に護送する件で、色々と大変だったのだろう。

「ギア、改めて……今回はありがとうございました」

 深く頭を下げる。

「ギアがいなかったら、わたし、きっとあのまま駄目になってました」

「俺は当たり前のことをしただけだ。クーナ、顔をあげて」

 そう言われて頭を上げると、ギアは真剣な顔でわたしを見ていた。

「君の父上は、王都に護送されたよ」

「!」

「ひとまずは、決着はついたわけだ」

 でも、とギアは続けた。

「君の父上の取り調べもあるし、君自身も裁判になれば、証言しないといけないこともあるだろう。これから、もしかすると少し大変かもしれない」

「……はい。レアとも話しました」

 まずは、リュシア家への挨拶からになりそうな気がする。イングリットさんの体調が戻ったら、ちゃんと話したいし。そう言うと、ギアは頷いた。

「大変かもしれないが、できるだけ俺も協力するよ」

「本当にありがとうございます」

 そう言うと、ギアは少し眉を寄せてわたしに言った。

「実は一つ、君に謝らないといけないことがあるんだ」

「謝らないといけないこと?」

 首を傾げると、ギアは言いづらそうに口を開いた。

「今から少し前、ちょうど君がダンジョンから帰ってきた頃か。あの時に、アルバート・ベルタが関与していた組織の情報が解析されたんだ」

「!」

「君を攫った男から、十六年前、アルーダ国に白狼族の女性を売ったという情報も得ていた」

「それって……」

「シモンと、キリクと、話していたんだ。もしかすると、君の母親のことと、何か関係があるんじゃないかって」

 そうか。真実の秤をシモンに鑑定してもらおうと部屋を訪れた時、三人が話していたのは、このことだったんだ……。

「だからギアは、わたしがあんなにとっぴなことを言っても、信じてくれたんですね?」

「……ああ、すまない。それもあるかもしれない」

 ギアは申し訳なさそうに言った。

「不確定な情報で不安にさせてはいけないから伝えるのはやめようと、シモンとキリクと決めたんだ。黙っていてすまなかった」

 そう言って、今度はギアが頭を下げた。わたしは慌ててそれを止める。

「ギア、わたし全然気にしてません」

「……そうなのか?」

「はい。だってわたしのためを思って、黙っていてくれたんでしょう?」

 あの日、ルーリーは信じて待ってみようと言ってくれた。きっとわたしに悪いことをしているわけじゃないからと。その通りだったのだ。

「ありがとうございます。わたしのために、いろんなことに一生懸命になってくれて」

 ギアはわたしを励ますために、自分の秘密でさえ、打ち明けてくれた。

「クーナ……」

「わたし、ギアと出会えてよかったです」

 気づいたらそんな言葉が口から飛び出していた。

 言ってから、はっと気づく。これじゃあ、ギアだけがなんだか特別みたいだ。

「あ、あの、ギアやルーリーやダンや……い、いっぱい、出会えてよかったです!」

「……そうか」

 なぜかギアも動揺しているような気がした。

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