黄金の花

◆お知らせ

2巻の発売が2022年4月8日に決まりました。

あとAmazonに2巻の書影出てました!(^◇^)

進化したモコモットかわええです!

1巻も今Kindleアンリミテッドで無料みたいなので、暇な方ぜひイラスト見てみてください。すごいモフです!クーナの耳めっちゃ分厚くてモフりたいです。




◆本編


「……ギアはすごいです」


 涙を拭いて、少し笑った。


「わたしを見ていたら、自分のことを思い出すでしょう。辛くなるでしょう」


「ああ、だから君を助けようと思うんだ。俺がそうしてもらったように」


 ──そのために今日まで生きてきた。


 ギアはそう言って、わたしの手を握った。


「……わたしはあなたを尊敬します。ありがとう、ギア」


 やっと分かった。わたしがいつも、一人で飛び出しちゃう理由が。


 ──助けてと言えなかったのだ。


 アルーダ国の学園で断罪されたあの日、ロイ様に糾弾されても、震えていることしかできなかった。本当は助けてと、そう言いたかった。でも言えなかったのは、わたしを助けてくれる人がいなかったからだ。でも今は違う。だってみんながいるもの。それを分かっていてもなお、たった一人で飛び出してしまう癖があるのは、きっとあまりにも長い間一人でいたから、助けを求めることに慣れていなかったのだと思う。わたしはきっと、ゆっくりと変化している最中なのだ。


 強くなりたい、変わりたいと思ってダンジョンに行った。でもきっと、肉体の強靭さや、誰かに立ち向かったりすることだけが強さじゃない。

 助けてと言えることもまた、強さなのだと思う。わたしにとってそれは、あまりにも勇気のいる行為だったから。伸ばした手が宙をもがくのは、まるでお前は孤独なのだと突きつけられているようで、心底恐ろしい。その恐怖は、わたしの魂の奥底にまで染みついている。だけど冷静になった今なら、わたしの手を取ってくれる人がたくさんいると分かる。お父様たちが急にやってきて、わたしはパニックになっていただけだ。


 何を焦っていたのだろう? わたしは確かに変わっている。ゆっくりとではあるけれど、成長しているんだ。もうあの頃の自分じゃない。そう気づくと、体の震えが止まった。指先まで、ギアの体温をもらったみたいに体があたたかくなる。


「ギア」


「……ああ」


「助けて、ください……。わたし、アルーダ国には帰りたくない……!」


 震える声でそう言った。今この状況でその言葉を口にできたのは、ギアも勇気を出して自分のことを話してくれたからなのだろう。


「当たり前だ。クーナは俺たちが守る。だから一緒に行こう」


 わたしは頷いた。石みたいに重かった体が、今はもう動く。


「みんなもごめんね、心配かけて」


「る?」


 ルルたちを抱き寄せて、話しかける。


「今からちょっと遠いところへ行くけど、それでもいいかな?」


 ルルはしっぽを振り回して喜んでいた。モコモットたちもピーピーと鳴く。あったかい。大丈夫、わたしにはみんながいるもの。ようやくいつもの自分が戻ってきたような気がして、ほっとした。帰ったら、みんなに謝ろう。いつ帰れるのか、さっぱりわからないけど……。


 ギアの手を握ると、その時、不思議なことが起こった。


「えっ……」


 草原に、ぽつりぽつりと金色の光が輝き始める。それは次第に数と輝きを増していき、最終的にはあたり一面、黄金の光に包まれていた。


「これは……」


 よく見ると、それは金色の蕾だった。蕾は一斉に綻び始める。わたしたちの周りは、光の花でいっぱいになった。この花、地底魚の夢の中でも見た花だ……。

 そういえば、この花のそばにお母様がいてわたしを助けてくれたんだっけ……。


 息を呑んでいると、ギアがぽつりと言った。


「……アトランシアだ」


「アトランシア?」


「この花の名前。魔力に感化されて咲く花だ。一体どうして、今咲いたんだ?」


 ギアも驚いたように、あたりに咲く花を見つめていた。

 そっか。この花、アトランシアって言うんだ。ずっと気になっていたんだよね。


「きれい……」


 近くで花を見ると、微かにあたたかかった。


「そういえば、不思議なことに君を助けた時も、この花が咲いていた」


「そうなんですか?」


「ああ。この花が持つ熱のおかげで、君は体温を奪われずに済んだんだ」


 そうだったんだ。この花も、わたしの恩人だったんだね……。

 感謝の気持ちを込めて花に触れようとすれば、近くの花がガサガサと揺れた。


「!」


 なんだろう、動物?

 首を傾げてじっと音がする方を見つめていたら、突如、強い輝きを持つ何かが、ぴょこんと跳ねた。ぴょこん、ぴょこん、ぴょこん。飛び跳ねて、こちらにやってくるではないか。


「ひゃっ!?」


 思わずギアにしがみつく。


「なんだ?」

 ギアも驚いたように、そちらを見た。花が揺れ、わたしたちの前にやってきたのは──。


「!」


「これは……」

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