シューティングスターに乗って

 結局、わたしたちはお菓子を食べながら、他愛のない話をお昼頃まで続けた。

 初めてギアと喫茶店で出会った時、なんだかとっつきにくそうで、緊張して話しにくかったのをよく覚えている。けれど交流を重ねた今だと、彼はただ生真面目なだけで、全然怖い人なんかじゃないとわかる。苦労性で、優しい人だ。


「そろそろ帰ろうか」


 話していると、あっという間にお昼になった。わたしはうなずいて、草原で眠っていたルルたちを起こす。さあ、ギルドに戻ろうと歩き出したところで、ギアに呼び止められた。


「クーナ、乗ってみるか?」


「え? 乗るって、何にですか?」


「シューティングスターに」


「え!?」


 そういえばわたし、馬って乗ったことない。でもわたし、重くないかな。荷物もあるし、シューティングスターも疲れちゃうんじゃないかなぁ。


「ここ、足引っ掛けて」


「ふわっ!?」


 突然腰を持たれて、グイッと一気に視線が上がる。

 慌ててギアの言う通り、あぶみに足を引っ掛けて、シューティングスターの背中へ登った。

 ぽすんと座れば、いつもよりも高い視点から、ギアを見下ろす形になった。


「す、すごいです!」


 ちょっと感動。ふわふわしっぽを振っていると、わたしの後ろにギアがまたがった。


「ギ、ギア!? シューティングスターが潰れちゃいますよ!?」


「クーナは軽いから大丈夫だ」


 重すぎてシューティングスターが潰れちゃうんじゃ……と不安になっていたら、ギアがそう言って笑った。うわ、なんだか距離が近い……。


「お前達もおいで」


 ギアがルル達を呼ぶ。ギアが伸ばした手にルルはピョンと飛びついた。モコモット達はピチピチと飛んで、シューティングスターの頭に止まる。なんとも平和な光景だ。

 ギアが手綱を握ると、シューティングスターはゆっくりと街へ向かって歩き出した。

 体から少し力を抜くと、ギアの胸に背中が当たる。ひゃっと思わず姿勢を正した。


 ……な、なんか、また胸がドキドキしてきた。これ、一体なんだろ……?

 わたし、今日、適当な服できちゃった。しっぽもボワボワじゃない? 葉っぱもついてるし……。

 突然自分の容姿が気になりだす。だけど馬に乗っているから、しっぽの毛もとかせない……。


「怖いか?」


「い、いえ! そういうわけではなく、えと、初めて馬に乗ったもので」


 慌てて誤魔化すと、ギアはそうか、とうなずいた。わたしが動揺しているのには、気づいていないみたいだ。


「今は無理だが、思いっきり走ると、風を感じて気持ちいいんだ」


「……こうやって歩いているだけでも、いつもより高い視点から景色を見れて、楽しいです」


「ああ。馬も悪くないだろ?」


「最高です!」


 そう答えると、ギアが笑った気配がした。馬、好きなんだなぁ。

 そわそわ、もじもじしているうちに、わたし達はそのまま街へ入った。高い視線から街を見るのは、新鮮味があって楽しい。けれどなんだか、今日はすごく視線を感じる。


「ねえ見て、ギアが女の子を馬に乗せてる……」


「今まであんなことあった?」


「ギアさんって女性連れてるとこ、一回も見たことない……」


「あのこ、もしかして……」


 ヒソヒソと噂する声を、わたしの耳が拾った。

 思わず赤くなる。な、なんか変なこと言われてる!


「ギ、ギア」


「ん?」


「も、もう大丈夫です。おります」


 そう言ってもぞもぞすると、彼はキョトンとした様子で言った。


「何言ってるんだ、ギルドはもうそこじゃないか」


 ひえ~! 恥ずかしい! 街の人に見られてるのに!

 でもギアは全然気にしていない様で、何度おりると伝えても全然おろしてくれなかったのだった。



 結局、わたしはギアにギルドまできっちり送ってもらった。


「それじゃあ、俺はもう騎士団に戻るよ」


「は、はい、ありがとうございました!」


「……くれぐれも、変な奴には気をつけて」


 頭をくしゃっと撫でられる。赤くなった顔を隠すようにペコッと頭を下げて、ギアを見送った。

 もふもふたちもシューティングスターに頭を擦りつけて、別れの挨拶をしていた。


 うう、なんなのかなぁ、この体が熱くなる感じは……。

でも、悪いもののような気はしないんだよね。楽しくて、幸せなことというか。

 結局、わたしは午後から約束していたショッピングの待ち合わせ時間まで、ぼんやりとギアの帰った方向を見ていたのだった。

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