貴族の噂


「そうだなぁ、あの辺だったら花火も見やすいなんじゃないかなぁ」


「ヤン、注文していた追加のテーブルは届いたのか? うちのだけじゃ足りないぞ」


 お祭り用のメニューの試食会をしながら、ダンとヤンさんがああでもない、こうでもないと話し合っている。

 ルーリーとわたしは試食のサンドイッチを食べながら、具はもっと卵を増やしたほうがいいんじゃないか、とかそんなことを話し合っていた。


「ルルたちってば、さっきまで木苺のパイを食べていたのに、まぁた食べてるわ」


 ルルとピピたちはホットサンドをつっつき回して、大変だった。

 ルルの口周りについた食べカスを拭ってやる。

 結局、わたしたちの喫茶店はヤンさんのホオズキ亭と協力して、外でビアガーデンのようなものを開くことになったのだ。

 ちょうど花火も綺麗に見られる位置らしいので、お客さんもたくさん見込めるらしい。


「お祭りの時はみんなテンションあがっちゃうから、クーちゃんも変な人に気をつけるのよ」


「はい」


「よその街からもいろんな人がやってきているみたいだし……」


 ルーリーはふとつぶやいた。


「そういえば、見慣れない貴族をのせた馬車がこちらへやってきているって噂も聞いたわ」


「……」


 胸騒ぎがした。

 それって……。いや、そんなことあるはずない。

 だってお父様たちは、わたしが死んだって思っているはず。

 それ以前に、探そうともしないはずだ。


「……気をつけます」


 と言いつつも、ドリーミングフィッシュの中で見た夢が脳裏に浮かぶ。

 なんとなく、嫌な予感がする……。


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