賑わう街

 今日は休みをもらったので、街に出かけて気分転換することにした。お祭りが近づいているせいか、ギルドも大忙しなのだ。お祭りが始まるともっと忙しくなるから、今のうちに休憩しておいた方がいいと、ダンとルーリーに勧められた。


 アルーダ人に会わないか少し不安だったけど、そんなことを言っていたらわたしの日常が制限されてしまう。わたしは何も悪いことをしていないのだから、堂々としていればいいのだ。

 ルルとピピ達を連れて、街を歩く。街はすっかり、夏のお祭りに向けての準備で賑わっていた。

 ワイワイ、ガヤガヤと人が多くなっている。


「お、クーナちゃん。お散歩かい?」


「こんにちは。気分転換に、少し買い物でもしようかなと」


「そうかい。最近は街も賑わってるから、気をつけるんだよ。あ、そうだ、これ持っていきな」


 よく行くお菓子屋さんのおじさんが、こっそりと焼き菓子をくれた。


「えっ? いいんですか?」


「今日は張り切って焼き過ぎちまってな。内緒だぞ」


 そう言って、しーっと笑う。わたしはペコペコと頭を下げて、ありがたくお菓子をいただいた。

 バスケットに入れると、足元にいたルルがパタパタとしっぽを振った。


「後でね」


 そう言うと、目をキラキラさせてはしゃぎ回る。

 それからも街を歩いていると、なぜかたくさんの人たちに声をかけられた。


「クーナちゃん、ちょっとこれ持ってきなよ!」


「クーナちゃん、これあげる。よかったら持っていって!」


 バスケットにぽいぽいとお店の商品を入れられて、びっくりしてしまった。

 今日はみんな、どうしちゃったんだろう? でもよく見てみたら、周りのお客さんにも、何だかサービスをたくさんしているみたい。景気いいなぁ。

 ベルルのパン屋さんの前を通った時も、ソラリスちゃんのおばさんが、わたしにウサギの形の菓子パンをくれた。


「うちのソラリスがよく世話になってるからね」


 ふくよかなおばさんは、そう言ってわたしの頭を撫でた。

 ソラリスちゃん、今日もシフトに入ってくれているので、すごく助かる。

 ベルル家は子供達がたくさんいて、ソラリスちゃんは最後から二番目の女の子なんだって。本人は将来鑑定士になるために、ついでにギルドの喫茶店でアルバイトをしてくれているのだ。


「ありがとうございます。なんだか皆さん、最近気前がいいですね……あっ、いつもいいですけど、それ以上ってことです!」


 わたしが困惑したようにそう言えば、ベルルのおばさんは笑った。


「そりゃあ、クーナちゃんが可愛いからさ! 一生懸命なクーナちゃん見てると、可愛がりたくもなるよ」


「ま、まさか……」


 わたしが苦笑していると、おばさんは大真面目な顔で言った。


「いんや。クーナちゃん、この間グリフォンに乗って、空を飛んだだろ? あの一件から、クーナちゃんのことを知らない人はこの街にいなくなってね」


 そういえばわたし、アレスの背に乗ってこの街の空を飛んだんだった。

 喫茶店でも、よくそのことを話題にされる。


「みんな自分の娘みたいに、クーナちゃんのこと、可愛がってるんだよ」


「……」


 隠していても、出自のことは何となく察せられるのだろう。どこから来たとかそういうことではなくて、多分、帰る場所がないんだろうな、とか、そういうことを。


「クーナちゃん、何か辛いことがあったら、あたし達に言うんだよ。ここの住人達はいい人が多いんだ。外から来る人は困った奴も多いけど、きっとクーナちゃんの力になるよ」


「……ありがとうございます」


 ほわっと胸が温かくなった。おばさんはニヤッと笑って言った。


「まあ実のところ、お祭りの間は景気もいいもんだからさ。余計に何か、お節介をしたくなるんだ」


「そうなんですか?」


「ああ。夏の祭りの七日間は、ダンジョンに不思議な光が満ちる。その間はゲットできるアイテムなんかが、グッと質のいいものになるからね。それをわかってるから、この冒険者の街じゃ、お祭りの前後は金の流れが良くなるんだ」


 へええ。なるほど。そんな事情があったのか。


「だからクーナちゃん、気にせずもらっておきな! あたしらあんまりできることはないかもしれないけど、こういう時はちょっとでもよくしてやりたいからさ」


 わたしはお礼を言って頭を下げた。その後、ベルルのおばさんはルル達にもパン屑をくれて、すっかり手懐けてしまったのだった。




 












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