おかしい人は一定数います
「アルーダ国の人だったの?」
「はい。あの人、そう聞いても否定しませんでした」
「うーん。やっぱり、話には聞いていたけど……フィーナルダットにも、アルーダ国の人たちが避難してきているのね」
看板をClosedにした後。ルーリーとダンが悩ましげにため息を吐いた。
わたしはと言うと、困ったように耳をピクピクさせている。
あのアルーダ国から来た男の人に絡まれた後。冒険者さんたちに助けてもらったわたしは、閉店まで何とか働くことができた。
ルージュさん初め、冒険者さん達が変な人がいないか、目を光らせてくれたおかげだ。
「もともと夏はね、いろんな地方からフィーナルダットへお客さんがやってくるのよ。前も言ったけど、夏のお祭りを見にくるの。だから見かけない人が増えるのは当然なのよ」
「しかし、どうやらアルーダの被害も深刻になってきたみたいだな。フィーナルダットでも見かけるようになるとは……」
二人は困った顔をした。わたしがどれだけアルーダ国にトラウマを持っているのか、よく知っているからだろう。それに、とうとうアルーダ国の被害が深刻化して、この街にまで人々が避難してきたというのだ。素早く動けるのはお金を持っている人が多い。アルーダでは、そういう人は得てして人間至上主義者が多いから、今、街でもちょこちょこトラブルが発生しているのだという。
アルーダ国の人は、人間以外の種族を蔑み、同等と見ないことが多い。けれどグランタニアには人間が偉いという価値観なんてないから、そこで摩擦が発生しているのだと思う。
「大丈夫か、クーナ」
ダンとルーリーが、心配そうにわたしを見た。
けれどわたしは、意外に落ち着いていた。消化不良を起こしたみたいに、胸がチリチリと熱い。
まだ怒っているのだ。あの人がギルドのみんなを貶したことを。
「わたしは大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんてかけてないわよ。むしろ、かけたのはあのお客さんでしょ」
ルーリーはぷんぷん怒って言った。
「もちろん、アルーダ国に被害が出ているのは、気の毒だわ。だけど、避難先で傲慢な態度をとっていいわけじゃないと思う」
「そもそも見知らぬ他人に失礼をしてはいけない」
二人が怒っているのを見ると、わたしの中のモヤモヤが少し晴れた。わたしの表情が緩んだのに気づいたのか、二人は不思議そうな顔をした。
「……ありがとうございます。わたしのために怒ってくれて」
親身になって考えてくれているからこそ、こんな風に怒ってくれるのだろう。
二人は顔を見合わせて、わたしと同じように、少し肩の力を抜いた。
「夏祭りの期間は、もともと人の出入りが激しい。困った客も増えるからな。できるだけ、知らない人とは関わりを持たない方がいいと思う」
「そうね。私たちも注意しておきましょう。クーちゃんも、何かあったらすぐにわたしたちを呼んでね」
「はい。ありがとうございます」
ペコ、と頭を下げる。以前なら、アルーダの話を聞いただけで、パニックを起こしていたかもしれない。けれど今は、それほどでもない。何かあっても、みんながいると分かっているから。
「るぅ~」
「ぴー」
ルルと小鳥達はと言うと、相変わらず好物の木苺のパイを貪っている。能天気な顔ではぐはぐとパイ生地を食べて、幸せそう。パイのカスまみれになったルルの口元をダンが拭った。
「明日の分は残すんだぞ」
「きゅるるぅ」
ルルはてへ、と言うように鼻をペロペロしている。
「クーちゃん、大丈夫そう? あんまり変なお客さんが多いようだったら、休みを取るものありよ」
心配そうにそう言うルーリーに、わたしは静かに首をふった。
「変な出会いも多いけど、もしかしたらいい出会いもあるかもしれないし。だから、働きたいんです。みんなのいるこの場所で」
そう言うと、ルーリーも少しだけ笑った。
「……そうね。クーちゃん対策はしっかり立てましょう。それにお祭りって楽しいから、クーちゃんもしっかり楽しめばいいわよ」
「祭りの期間中は、テラスを拡張しようと思ってるんだ」
わあ、なんだか楽しそうな計画だ。
「そうそう! ここからならちょうど、花火も見えるしね!」
「ギルドの前で見る花火はとても綺麗だ。クーナも楽しみにしているといい」
「みんなで一緒に、花火見ましょうねぇ」
ダンジョンに行く前から約束してたもんね。
すごく楽しみで、しっぽがブンブン揺れる。花火、早く見たいなぁ。
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