第二部前半最終話 クーナちゃんお疲れパーティ!
「どうしたの? クーちゃん」
次の日。十分に休めたので、そろそろ働こうと、わたしはいつもの喫茶店業務に戻っていた。
本日は人もまばらで、やることも少なかったので床掃除をしている。
けれど、ちょっとだけぼんやり気味。
「まだ疲れてるのかしら」
「ごめんなさい、考え事していて……」
結局、今になって昨日シモンたちが話していたことが気になってきたのだ。
「悩み事かしらね」
ルーリーはそう言って、おっとりと微笑んだ。
……ルーリーには敵わないな。思わず苦笑すると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「どうしたの?」
そう聞かれて、わたしは昨日の話をしてしまった。するとルーリーも、うーん、と唸った。
「そうねぇ。気になるわねぇ」
聞きたいような、聞きたくないような、そんな不思議な気持ち。
「まあでも、シモンが言いたがらないってことは、確定した内容じゃないってことなんでしょうね」
ルーリーはつぶやいた。
「不確定な情報を流すのを嫌がる人だから。それに、別にクーちゃんに悪意があって隠しているわけじゃないと思うわよ? あの人、そういう人じゃないし」
「それはもちろんです」
確かにシモンがそんなことをするなんて考えられない。
「キリクも、何だかんだ言っていいやつだしね。散々みんなに文句言われて悪役買ってるけど、あの人がいなかったら大変だったこと、何度もあるし」
うん、そうだよね。キリクさんっていつもわたしのことを助けてくれる。
「ギアは言わずもがな。みんなも、常に誰かのためを思って行動してる」
ルーリーは微笑んだ。
「話の内容は気になるけど……シモン達が言わないと決めたことなら、もう少し時を待ってみてもいいかもしれないわ」
「……そうですね。シモンが言わないのなら、まだ聞く時じゃないのかも」
アルバートさんのこと、あんまり聞きたくないし……ルーリーの言うとおり、もう少し時を待ってみてもいいのかもしれない。
シモンたちを信じよう。きっと悪いようにはならないはずだ。
「そんな顔しないで。何があっても、私たちが守るわ!」
「わっ!」
むぎゅーっとルーリーに抱きしめられ、頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「でも、クーちゃんもあんまり無理しちゃだめよ? 地底魚に食べられたって聞いた時は、本当に驚いたんだから!」
わたしは苦笑いしてしまった。帰ってから、この話はあっという間にいろんな人に広まってしまった。これからもきっと、魚の胃袋で寝ていたことはネタにされそうだ。まあ、それだけのことをやらかしたのだから、仕方ない。
「また一人で飛び出してしまった上、地底魚の中でも、怖いことがあって。リリやモフモフたちがいなかったら、きっとあの魚の中から出られませんでした」
しょげてそう言うと、ルーリーはわたしの頬を両手で包んで言った。
「一人で飛び出しちゃったのはもちろんいけないわ。でもね、リリに頼れたのは、いいことよね」
「いいこと?」
「だってリリやルルたちは、クーちゃんの大事な仲間じゃない。もちろん私たちだって」
きょとんとすれば、ルーリーはわたしの額をつんとつついた。
「クーちゃんがみんなを助けたいって思うように、私たちだってクーちゃんを助けたいのよ。だからね、私を、みんなを、信じて頼ってほしいの」
ルーリーはそう言って笑った。ギアも同じことを言っていたっけ。
頼る、か……。
その笑顔を見て、わたしはぽつりと呟く。
「わたし、みんなを助けたかったんです。弱い自分を変えて、みんなを守れるくらい強くなりたかった。でもまた助けられました。わたし、こんなのでいいんでしょうか」
以前よりもわたしは確かに成長していると思う。でも成長速度が亀の歩みのようにゆっくりで、こんなのでいいのかなぁとふと思ってしまったのだ。また助けられちゃったし。
ルーリーはうーん? と首を傾げた。
「強さにも、きっといろんな強さがあるわ。クーちゃんの言う強さというのは、一体どういうものなのかしら?」
「……」
そう言われて、確かに強さってなんだろう? と思った。
「……ルーリー、強いって、なんなのでしょうか」
逆にそう尋ねると、ルーリーはちょっと考えてから唇に指を当てた。
「それはクーちゃんが自分で考えないとね!」
でもこれだけは覚えておいて、とルーリーは言う。
「クーちゃんが助けてって言えば、きっと助けに行くから。絶対、絶対によ。だからもう、一人で行かないでね?」
「……はい」
素直に頷くと、頭を耳ごとくしゃくしゃと撫でられた。
あったかい。心地よい手だ。
わたしの思う強さについては、もう少し考えておくとしよう。
「ルーリー、わたし、また新しい縁を結びました」
冒険者ギルドの喫茶店で働き始めてから、何だか不思議なことばかり。
銀色のリボンはどんどん伸びて、いろんな人たちとの縁を結んでいく。
「ちょっぴり怖かったし、失敗もしちゃったけど……行ってよかったです」
「そっか。これからも、いろんな人との出会いがあるといいわね」
「はい」
二人で見つめあってニコニコしていると、おーい、とわたし達を呼ぶ声があった。
水色のツインテールを揺らしたソラリスちゃんだった。
「ルーリー! クーナお姉ちゃん! もう食堂の準備できてるって!」
わたしたちは顔を見合わせる。今日はこれから、グリフォンを助けたお祝いに、ダンの双子のお兄さんであるヤンさんが営むホオズキ亭で、お疲れパーティをやるのだ。
何と地底魚をシモンがそのまま保存して、地上まで持って帰ってきたんだよね。
「地底魚のフライに、お刺身……すごく美味しそうだったよ! でもルル達が全部食べちゃいそうだって! みんな早く、クーナお姉ちゃんにきて欲しいって言ってるよ!」
ソラリスちゃんは笑って、わたしの手を引いた。
ルーリーもエプロンを脱いで、わたしの手を引く。
二人に引っ張られて、わたしはギルドの外へ出た。
外は夕方で、空の向こうにある夕焼けがとっても綺麗だった。ギルドの隣にあるホオズキ亭からは、よっぱらい達の歌声と、賑やかな音楽が聞こえてくる。
「クーちゃん、行きましょ!」
「はいっ!」
わたしたちは迷わず、いい匂いのする方向へと駆けたのだった。
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