脱出!

 リリはピュルル、と綺麗な声で囀った。

 不思議な声。なんだか頭のモヤをとってくれるような……。

 そうか、きっとリリがこの不思議な声でわたしを助けてくれたんだ。


「それにしても……」


 ピュルル、ピュルルルといろんな方向から声は響いてくる。

 リリだけの声じゃないのはどうしてだろう、と思っていたら、どうやらその声はこの暗闇の外側から聞こえてくるようだった。多分だけど、きっと、ピピとララも進化したのだと思う。

 リリ、ピピ、ララの囀りが三重奏となって、闇に響き渡る。

 リリはふわりと羽ばたくと、天井へ浮かぶ光の球のもとへ飛んでいった。


「リリ……?」


 ピュルル、と囀ると、球がブルっと震えた。光がチカチカと点滅し始める。

 リリは一生懸命、囀り続けた。そして小さなクチバシで、球を突っつく。


「あ!」


 必死に突いていると、ぴしりと球に傷が入った。ピカピカ光って、もう壊れそうだ。


「が、頑張って……!」


 あのマイペースでのんびり屋のリリが、一生懸命球を壊そうとしている……。

 手に汗握り、固唾を飲んでその様子を見守る。けれどリリは、途中で力尽きてしまったのか、ポトリと床へ向かって落ちてきた。わたしはダッシュで駆け寄って、なんとかリリをキャッチする。


「ピィ……」


「大丈夫!?」


 すっかり疲れきっていたリリだけど、ブルブルと頭を振って、もう一度飛び立つ。


「も、もういいよリリっ! 降りておいで!」


 そう言っても、リリは必死に球を突いて離れようとしなかった。ハラハラしているうちに、球の点滅は激しくなる。ブワッと、強い魔力の風のようなものを感じた。


「っ!」


 その風に煽られて、リリはまた落ちてくる。今度もちゃんとキャッチ。それからがっしり掴んでおく。リリはすっかり弱った様子で、ピィ、と小さく鳴いた。


「うんうん、ありがとう」


 リリに頬をすり寄せる。わたしのために頑張ってくれたんだね。

 見上げれば、球にはヒビがピシピシと入っていた。相変わらず外からの囀りは止まない。

 リリを抱いたまま上を見上げていると、突然、真っ暗だった天井から、何か光の剣のようなものが飛び出してきた。


「!」


 剣は球を貫く。

 光の球は、ビシビシと音を立てて、今度こそ割れてしまった。


 パリィインッ!


 暗闇に甲高い音が響く。

 その瞬間、私たちを包み込んでいた闇に、光の亀裂が走った。


「わぁっ!?」


 闇が崩壊し始めている!

 しかも、グワングワンと床や壁や、あちこちが揺れているではないか。

 わたしはリリを落とさないようにしっかり抱きしめ、揺れに耐えた。光はやがて大きくなる。


「……ナ!」


「!」


 誰かの声。暗闇は激しく揺れ、どんどんとその大きさを縮小させていく。

 わたしはリリを抱いて、声の主を探した。

 このままじゃ、闇の崩壊に巻き込まれてしまう!

 闇がじわじわと小さくなってくる。どうしようと思っていた、その時。


「クーナ!」


 誰かの声。それと同時に、闇の中に手が差し伸べられた。


「!」


 わたしは迷わず、その手をとる。そして眩しい光の中に引き上げられた。


「……?」


 わたしの名を呼んで、そちら側の世界へ引き上げてくれるその手。


 ──それはギアの手だった。


 わたしはどうやらまた、彼に助けられたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る