VS地底魚


 アレスが去ったのを見届けた後。

 天井の光をぼんやりと眺めていると、誰ともなくため息を吐いた。


「素晴らしかったですよ、クーナ。大成功じゃないですか」


 シモンの優しい声で、わたしはようやく緊張から解放された。


「はぁああ」


 みんなもホッとしたみたいだ。

わたしも一気に疲れがきて、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。


「ああ、もう、本当びっくりしたぁ」


「そうよねぇ。クーナちゃん、大丈夫だったの?」


「は、はい、ご心配をおかけしました」


 座り込んでいたわたしのもとに、ルルたちが駆け寄ってきた。


「ごめんね、みんな」


「るぅ」


「ぴー」


 モフモフたちを撫でながら、先程の出来事を掻い摘んで説明する。

 空を飛んでフィーナルダットの街を見たことを話すと、みんな驚いていた。

 そもそもプライドの高いグリフォンが、背に人を乗せることは滅多にないらしい。


「よくあのグリフォンが許したよな。俺なんか、そばに近寄るのもダメだったぜ」


 キリクさんがそう言って鼻を鳴らした。


「いけすかねー野郎だぜ。どうせ可愛い女の子にモフモフしてもらいたかっただけだろうよ」


「き、キリクさん……」


「まあいいじゃないの。クーナちゃんも無事だったんだし」


 ステラさんがそう言って、ぽんぽんとわたしの頭を撫でてくれた。


「そろそろ地上へ帰りましょうよ。私、お腹減っちゃったわぁ」


「ムイムイもー!」


「マイマイもー!」


 静かな地底湖に、双子のキャッキャとした声が響く。

 わたしも頷いて、立ち上がろうとしたその時。


「!?」


 地面がガタガタと揺れた。


「なんだ!?」


 キリクさんとギアがパッとわたしを背に隠す。水面がザブザブと揺れ、波が小島までやってきた。

 体の奥底まで震えるような、低くて不気味な音が空間に鳴り響く。


「シモン……」


 キリクさんがシモンを見た。シモンは珍しく笑顔を引っ込めて、水面を見ている。


「百回層は本来なら、地底魚がレイドボスでしたね」


「今までグリフォンがいたから、レイドボスが出現していなかったのか」


 ギアがハッとしたように、そう言う。


「もう少し先になるかと思っていましたけど……来ますね、これは」


 どういうことか聞きたかったけれど、地面が揺れすぎて舌を噛みそうだ。怖くて体が動かない。

 身の毛もよだつような、不気味な声がずっと響いている。

 みんなわたしを守るように、さっと周りを固めてくれた。


「クーナ、予想よりも早く、レイドボスが湧出してしまったようです。何があってもじっとしていてくださいね。そうすれば絶対に、あなたに怪我はさせませんから」


「は、はい」


 シモンに強くそう言われ、わたしはぎゅ、と服を握った。

 何かが、来る。


「!」


 ザパァっと音を立てて、激しく地底湖が揺れた。大量の水しぶきが上がり、巨大な黒い影が湖の中に現れる。その大きさが異常で、わたしはゾッとしてしまった。


「おいおいおい、地底魚ってこんなにデカかったか!?」


 ガントさんが叫ぶ。


「どうも、長く湧出していなかった分、イレギュラーが起こりそうな感じだわね」


 ステラさんがそう言って杖を構える。

 次の瞬間、ザァアと音がして、湖から巨大な魚……のようなものが跳ね上がった。


「ひゃっ!?」


 魚なんてもんじゃない。昔図鑑で見た、鯨くらいの大きさがある。

 しかもその魚──多分地底魚というのだろう──はなんと、湖の中だけじゃなくて、空中を泳ぐようにして飛んでいるではないか。


『グォオオオオ!』


 深海の中で響くような、不気味な低い声。地底魚はギラギラとした目で、こちらを見ていた。

 再び湖の中へ飛び込むと、水柱が上がる。小島は水に飲みまれそうになったけれど、シモンが手を振ったら、私たちのまわりに透明なドームみたいなものが現れて、水から守ってくれた。


「帰ったら焼き魚パーティですね?」


 みんなの目が、キラっと光った。

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