第百階層:青の地底湖


「さあ、いよいよだ。準備はいいかい」


 シモンにそう尋ねられて、わたしはしっかりと頷く。仮眠をとったわたし達は、第百階層を目指すことになった。目の前にあるのは、薄暗い洞窟だ。

 ここまでたくさんのモコモット達が旅を助けてくれたけど、ここからまた私たちだけになる。


「うわー! 楽しみ!!」


 ルージュさんが元気よくそう言った。


「グリフォンなんて一生に一度見られるかどうか、わからないよ」


「クーナちゃん、怖いでしょうけど、私たちがついているから大丈夫よ」


 ステラさんにぱちっとウィンクをもらった。わたしは頷いて、前を見据える。


「俺たち前半部隊が先へ降りて合図を送る。クーナは必ずシモンと一緒に来るように」


「わかりました」


 ギアがみんなを先導して、洞窟へ入っていった。

 しばらく待ったのち、安全の確認が取れてから、わたし達も出発することになった。



 薄暗い洞窟の中を進む。魔力で輝くカンテラだけが、洞窟を明るく照らしていた。

 けれどしばらく下り続けると、カンテラの明かりがいらないくらい、あたりが明るくなってきた。

 九十九階層のように、眩い日差しがあるわけではない。

 そこにあるのはひんやりとした、深い青色の光。

 洞窟を進み続けると、ようやく百階層にたどり着いた。


「う、わ……」


 思わず、目の前の光景に見惚れてしまった。

 そこには、巨大な地底湖が広がっていたのだ。水面は不思議な青色の光を発していて、近くに行って覗いてみると、中にはキラキラと光る不思議な魚が泳いでいた。

 太陽はないはずなのに、天井には穴が空いていて、そこから一筋の光が湖の中央に差し込んでいる。そしてその光が照らすのは、湖の中央にある小さな島と、そこで寝そべる大きな何か。


「あれが、グリフォン……?」


 誰かの呟きが聞こえてくる。天井から降り注ぐ光の中に、寝そべっている巨大な動物がいた。

 鋭いクチバシの生えた、鷲の顔。なのに体は、翼の生えたライオンのような姿をしている。

 体毛が、光を浴びてキラキラと輝いていた。

 湖の中央にいたその生き物は、とても神秘的な姿をしている。


「綺麗……」

 思わずそう呟くと、グリフォンは顔を上げてこちらを見た。


「さあ、クーナ」


「は、はひ」


 シモンに呼ばれて、声がひっくり返る。どうしよう、やっぱり少し、怖いかもしれない……。

 湖の中央にある島まで、ちょうど足場になるような平らな石が続いている。

 この石を踏んで、あの中央の島まで行けと言うことなのだろう。


「キリク、本当に大丈夫なのか?」


 ギアがキリクさんにそう聞いた。キリクさんは鼻を鳴らして言った。


「あいつ、今『自分は気高い生き物です』って顔してるだろ? でも話してみるとそうでもないんだぜ」


 そう言ってから、突然キリクさんは叫んだ。


「おーーい女好きグリフォン! お前のためにクーナを連れてきてやったぜぇえええ!」


 キリクさん!? 何やってるの!?

 キリクさんの絶叫が地底湖に響く。


「おいキリク! やめろ馬鹿!」


 ギアがめちゃくちゃ焦ったようにキリクさんの肩を揺らした。


「あんた、頭がおかしいのか!?」


「大丈夫だって」


「勘弁してくれ! あんたのせいでいっつも厄介ごとに巻き込まれるんだ、こっちは!」


 ギアが怒っても、キリクさんは大丈夫と適当にひらひら手を振っていた。

 グリフォンは起き上がると、あまりよろしくない鳴き声をあげた。ぐるぅううって、ルルの超機嫌悪い時の鳴き声みたいなのをあげている。

 だ、大丈夫なのかな……!?


「まあいいや。行きましょうか」


 シモンはあまり気にしていないようで、わたしに手を差し出した。


「あの場所まで送っていきましょう」


「は、はい」


 その手を取ってうなずく。


「キリク、あなたが先に行ってください。他の人たちはここで待っていて」


「俺も行く」


 ギアがそう言った。


「それじゃあ、ギアは後ろからついてきてください」


「わかった」


 と言うことで、先頭をキリクさん、真ん中をわたしとシモン、後ろをギアの構成で固めて、あの離れ小島まで行くことになった。

 な、なんか怒ってるみたいだけど、大丈夫かなぁ……?


「クーナちゃん、頑張って!」


「何かあったら俺らがすぐに行くからな!」


 みんなの声援を聞いて、すくんでいた足が前へ進んだ。

 ……頑張るって、決めたもんね。それにみんなが一緒なら、なんとかなるかもしれない。

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