まさかのわたしがダンジョンへ!?

「えと……それってわたしのことですか?」


「そー。はた迷惑な幻獣だよな」


 キリクさんはケッと足を組んで不機嫌そうな顔をした。シモンたちも困ったような顔をしている。

 うーん。そのグリフォンは、なぜかわたしに会いたがっているってこと?

 もしかして、グリフォンにも癒しの力は効くのかなぁ。


「グリフォンって喋るんですね」


 っていうか、まずそう思った。


「結構長生きしてるからな。別に人間の言葉を話せたって変じゃねぇだろ」


 もしかしてルルも、成長したら言葉を話すようになるのかな。


「……わたしがダンジョンへ行けば、問題は解決しますか?」


 そうみんなに問えば、微妙な空気が流れた。


「……俺は反対だ。危険な場所に、クーナを行かせない方がいいと思う」

 そう言ったのはギアさんだ。首を横に振って渋い顔をしている。


「そうですねぇ。危ないですもんねぇ」


 シモンもんー、と迷っていた。


「ま、勝手に野タレ死ねばいいんじゃねぇの?」


「き、キリクさん、そんな……」


 わたしは少し考えてから、みんなに言った。


「あの……わたしでいいなら、ダンジョンに行きます。一人じゃ絶対無理だけど……」


 みんな、少し驚いた顔をしていた。


「何かお役に立てるなら、立ちたいです」


「無理しなくてもいいんですよ。怖いでしょう」


 シモンがそう言った。


「そうですね……なのでせめて、誰かと一緒だったら心強いんですけど……」


 一人で行けって言われたら、流石に無理だ。目的の場所にたどり着く前にきっと死んじゃう。

 だけど腕利きの冒険者さんたちと一緒なら、きっと大丈夫な気がする。


「うーん。そうか。じゃあ私が同行しましょう」


「! シモンが行くのか!」


 キリクさんがびっくりしていた。


「だって不安ですし……」


「お前も珍しく、体張って行動することがあるんだな」


「何言ってるんですか。いつも私は体張ってますよお」


 シモンがヘラヘラ笑って言った。なんだか、シモンが一緒だったら、大丈夫な気がする。


「私だって昔は腕利きの冒険者でしたし。キリクも一緒に行きますよね?」


「いいけど、ちょっと休憩させてくれ。俺、もうあんな頑固じじいみたいなやつと話したくねぇよ」


「いやいや、準備が出来次第すぐ行きましょう。こう言うのは引き伸ばしてもろくなことないんで」


「ええ、マジかよ」


 キリクさんは相当辟易していた。グリフォンとは、気が合わなかったみたい。

 でも二人とも一緒なら、心強いや。


「……俺も行こう」


「えっ」


 予想外なことに、ギアさんも援助を申し出てくれた。


「俺もまだ資格は持っているし、数日くらいだったら本業の方も大丈夫だ」


 ギアさんは、今は杖騎士団の団長を務めているけれど、以前はキリクさんと同じSランクの冒険者だったらしい。


「でも……」


「本来なら、一般市民を一定以上のダンジョンの階層へ入れることはできない。それに不安だ」


 ギアさんはちらとふてぶてしいキリクさんとシモンを見た。


「何かあったら困る……」


「何かってなんだよ、ああん?」


「……」


 二人は口喧嘩を始めてしまった。それを横で苦笑いしながら見ていると、シモンが言った。


「ま、他にも何人か冒険者たちを連れていきましょう。確かにダンジョンの中は危険ですけど、そう気を張らずに」


 ううむ、そう言われても、緊張はしちゃうかも……。


「それにキリクとギアがいるなら、安心ですよ。この二人は元々、バディを組んでたんですから」


「ええっ!? そうだったんですか!?」


 し、知らなかった。そういえばキリクさん、以前にパーティを組んでた人がいたって言っていたっけ。それってギアさんのことだったんだ。二人ともSランクだし、確かにパーティメンバーとしての釣り合いは取れている。


 ギアさんは、キリクさんには打ち解けたような、自然体で接しているなとは思っていたけど……そういうわけだったのか。


「ったく、いつの話してんだってーの」


 キリクさんが呆れたようにため息をついた。


「俺とこいつは、昔っから気が合わなくて、バディを解消したんだ。今度もダンジョンの中で喧嘩して、大変なことになるかもしれねーぜ」


 そ、そんな……。わたしがオロオロしていると、ギアさんがムッとしたように言った。


「俺はお前と喧嘩するために、ダンジョンに行くんじゃない。クーナを守るために行くんだ」


「ふーん? 前から思ってたけどよぉ、ギア、お前……」


 キリクさんがニヤついた顔で何かを言おうとしたら、シモンがそれを遮った。


「はいはい。喧嘩はそこまで。それじゃあ、早速準備を始めますよ」


 そう言って、シモンはわたしを安心させるようにウィンクしたのだった。

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