レアとイングリット

「うーん? 確かに耳もしっぽも、白狼族のそれよね? 一体どこから来たのかしら?」


 その女の子は首を傾げながら、わたしの周りをぐるぐると回って観察し続けた。

 ダンとルーリーもびっくりしたみたいで、二人ともわたしと同じように声を失くしていた。

 そんな私たちに助け舟を出してくれたのは、全く別の女性だった。


「やめなさい、レア。なんて失礼なことをしているの」


「!」


 声のした方を見れば、さらに衝撃の光景が。そこにいたのは、同じく白狼族の女性だったのだ。

 レアと呼ばれた女の子よりも、幾分か年上に見える。

 基本的に獣人族は、見た目にあまり年齢が出ない。出るのはしっぽのボリュームや毛艶など、人間にはない部分なので、この人もわたしが思っているよりかなり年上なのかもしれない。


 なんてことだ。この空間に、わたしを含めて白狼族の女性が三人もいる。

 今までお母様以外、見たことなかったのに!

 わたしが唖然としていると、年上の女性がこちらを見て、申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。


「ごめんなさい、娘が失礼なことをしてしまって」


「い、いいえ……」


 そこでようやく、わたしは我にかえった。

 やはり二人は親子だったらしい。女の子はお母さんとわたしを見比べて、興奮したように言った。


「だってお母様、見てよ。あたしたちの知らない白狼族の、若い女の子がいるのよ! これは種族の生息分布を知るための、大きなチャンスよ!」


「ええ、だけど見ず知らずの人にそんなに突っかからないで。驚いているじゃない」


 女性はそう言うと、申し訳なさそうな顔をした。女の子はふんっと鼻を鳴らす。どうすればいいか分からなくてオロオロしていると、あの、と後ろから声をかけられた。ルーリーだ。


「よかったら、少しお茶をしていきませんか?」


 見れば、この奇妙な状況に、モフモフたちも驚いたような顔でこちらを見ていた。

 わたしの顔を見て、二人の白狼族の女性の顔を見て。

 まさか見分けられないとかないよね……なんてことを考えるくらいには、わたしの頭は混乱していたのだった。





「突然ごめんなさいね。私はイングリットと言います」


「あたし、レア。呼び捨てでいいわよ。さんもちゃんもいらないから」


 ダンの淹れてくれた紅茶の香りが、喫茶店に広がる。一口紅茶を口に含むと、ミルクの優しい味がして、ほっと落ち着いた。改めてテーブルを囲むメンバーを見渡す。


 わたしの隣にはダンとルーリーが、そして目の前には、イングリットさんとレアという名の、白狼族の女性達が座っている。聞けば、レアはわたしと同じ年齢だった。


「まさかクーちゃんと同じ白狼族の方が来るなんて、びっくりしたわ」


 ルーリーも最初は戸惑っていたけれど、今は嬉しいのか、頬を赤くして興奮している。

 わたし達はお互いに自己紹介を終え、お茶を飲んで少し落ち着いたところだった。


「イングリットさんはどうしてこちらに?」


 ルーリーが首を傾げた。

イングリットさんは、お茶に丁寧にお礼を言ってから、事情を説明してくれた。


「実は私達、家業の取引のために、しばらくこの街に滞在することになったんです。観光も兼ねて」


 フィーナルダットはグランタニアが誇る四大ダンジョンの一つ「大地の迷宮」を有する、非常に栄えた街だ。確かに観光で滞在する人も、たくさんいる。


「それと同時に、私たちは現在絶滅の一途を辿っている白狼族の種の保存のために、同じ種族がどこにどれだけ住んでいるかを確認して、リストにする活動も行っているんです」


「この街に白狼族の若い女の子がいるって風の噂で聞いたから、ついでに確かめに来たってわけ」


 レアがそう言って、オレンジジュースを飲んだ。紅茶より、フルーツジュースの方がいいって。


「あら、それじゃあ……」


 ルーリーは困ったようにわたしを見た。

 わたしもどう返答していいか分からなくて、視線を彷徨わせる。


「で、あんたは? 一体どこから来たの?」


 レアに矢継ぎ早に聞かれてしまって、わたしはどうしよう、と目を白黒させた。

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