白狼族あらわる!?


「クーちゃんメニューを増やしたいのよねぇ」


 ルーリーはそう言ってほっぺたに手を当てた。

 本日は喫茶店の定休日。定休日とは言っても、わたし達は今後提供するメニューを話しあったり、材料の仕入れがあったりするから、出勤することもある。

 ルーリーは新しいドリンクメニューを追加したいらしく、さっきから、何かいい案はないかしら~と呟いていた。


「クーナの淹れる飲み物は、時間がかかるものほど、回復効果が高くなる気がする」


 椅子に座っていたダンがそう言ってわたしを見た。


「そ、そうなんですか?」


 自分じゃ全然気づかなかった。わたしがドリンクを作る練習をする時に、ダンには何度も試飲してもらっているから、分かったのかもしれない。


「ああ、さっきそう思った。クーナ、だんだん力が強くなってきてるんじゃないか?」


 ダンはそう言って首を傾げた。


「手間と時間がかかる分、能力に触れる時間が多くなるからか……あと、淹れたてのものほど、効果が高い。時間が経つと、少しずつ効能が落ちていく気がする」


 自分の手に視線を落とす。


「少し、能力が強くなった……?」


 自分の手を見て、しっぽをぶんぶんと振るう。お客さんは、わたしの力にはあまり気づかない人も多い。キリクさんやルージュさんは、何となく分かるって言ってたっけ。

 疲れている時に甘いものを飲むから、それで回復していると思っている人も多いのだ。


 ちなみに、わたしは給仕と簡単なドリンクを作る係なので、ルーリーは何かわたしが作りやすくて美味しいメニューはないかと考えているのだった。


「もしもテイクアウトしたらどうなるのでしょうか?」


 ダンにそう聞くと、ダンもうーん、と首を傾げた。


「多分、あたたかいうちは大丈夫だと思うが、どうだろうな。やっぱり、時間が経つにつれて効果が落ちるから、効果目当てで飲むなら、普通に店で飲んでもらった方がいいと思う」


 うーむ、なるほど。じゃあ今のところ、ポーションみたいなものは、やっぱり作れないって感じか。いや、別に作るつもりもないんだけど……。

 あ、ポーションっていうのは、体の怪我や病気を治したり、体力を回復させたりする万能薬のことね。当たり前だけど、これを製作できる人はあまりいないから、ポーション自体結構な値段がする。シモンは、わたしが治癒術や付与魔術の一環として癒しの力を使えるようになった場合、お店の品物の値段が変わってしまうから、気をつけて欲しいって言ってた。

 これからは、もう少し注意深く自分の能力を観察していかなくちゃ。


「るー」


「ぴぎゅ」


 ぼうっといろんなことを考えていると、テーブルの上でモフモフ達がじゃれあっているのが見えた。以前まで、テーブルは四匹乗っていても広さに余裕があったけれど、ルルが進化し、モコモット達が大きくなった今、少々狭そうに見える。


「こいつらに餌をやるのも、しばらくはやめた方が良さそうだな」


「そ、そうですね……」


 ダンもモコモット達の体格を心配していたらしい。最近はヘルシーなメニューしかあげないように、気を遣ってくれていた。モコモット達の知らないところで、ダイエット計画が始まろうとしているのだ。見た目がどうこうではなく、わたし達はピピたちの健康について心配していた。あまりに太って病気になったら、大変だもん。普段から甘いものばかり食べてるから心配だ。


 わたし達はそのあとも、お店のメニューについていろいろ話し合った。

 夏だから、冷たくて美味しいドリンクメニューを増やしたい。

 ダンジョンの深い階層にある花から取れる蜜が爽やかで美味しい。

 でも滅多に取れないから残念……など。

 そんなことを話し合っているうちに、ふと、わたしの背後に人の気配がした。


「ねえ」


 女の人の声。私たちがやいのやいの騒いでいるから、お店が開いていると思ってお客さんが間違えて入ってきたのかもしれない。


「あ、ごめんなさい。今日は定休日で──」


 そう言って振り返ったわたしは、衝撃で声が詰まった。


「あんたが、白狼族のクーナっていうの?」


「えっ?」


 目の前に立っていたのは、わたしと同じくらいの年齢の女の子だった。

 白銀の髪に、真っ白な肌。瞳は綺麗な蜂蜜色をしている。

 鮮やかな黄色のワンピースに、動きやすそうなサンダルを履いて、活発そうな女の子だと思った。

 けれど一番注目すべき点はそこじゃなくって。


「あんた、どこから来たの? あたし、グランタニアにいる白狼族はみんな知っているけれど、あんたは知らないわ」


 ふん、と鼻を鳴らしてそう言った女の子は、何と。

 頭とお尻に、大きな狼の耳としっぽが生えているではないか!


「どうにか言いなさいよ」


 女の子は、固まったわたしに訝しげな視線を投げた。


「えーーーーっ!?」


 わたしは思わず、大きな声をあげてしまった。

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