デブピヨ
今日はお休みの日。以前はできる限りずっと働いていたんだけど、四日働いたら必ず一日は休まないとダメと言われて、ちゃんと休暇を取るようになった。
初めの頃は休みの日に何をしていいか分からなくて戸惑うことも多かったけれど、最近は部屋を整えたり、街へお出かけすることにはまっている。
本日も、朝の気持ちいい日差しを浴びつつ、モフモフたちと一緒に街へ出てきた。
「それにしても、なーんかきな臭い話ですよね」
「確かに、おかしいですにゃ」
わたしの隣を歩くのは、ギルド職員のエレンさんとクロナさん。二人はわたしと同じ寮に住んでいる、わたしのお友達だ。
今日は服が安い日だから、と三人で休みを合わせて、街まで遊びに来たのだ。
金色の綺麗な髪を揺らして、エレンさんは眉を寄せた。
「だって、聖女様っていう人がいるはずなのに、ちっとも状況はよくなってないじゃないですか」
「東のギルドでは、いよいよ冒険者たちがアルーダ国へ駆り出されていると言う話ですにゃ」
クロナさんも頷いた。クロナさんは妖精猫と言われる種族で、わたしの腰程の、二足歩行の猫のような見た目をしている。サラツヤの毛並みに整った顔立ちをしたクロナさんは、とっても美猫だ。
「なんか、そう遠くないうちに、銀狼王の盾からも冒険者たちが派遣されそうな感じがしますね」
「え、そうなんですか?」
「このまま騒ぎが治らなかったら、ありえますよ」
隣国、アルーダの現在の状況を聞いて、わたしは申し訳ない気持ちになっていた。
アルーダ国には聖女メルティア様がいるはずなのに、ちっとも状況はよくなっていない。それどころか、かなり悪化しているらしいのだ。
街に湧く魔物のせいで外出は禁止され、今では学園も閉鎖しているのだと言う。アルーダはダンジョンやモンスターの脅威がなかった平和な国だから、今大騒ぎになっているらしい。
「クーナさんを追い出したその聖女様って人、やっぱり怪しいですよ。私が少し話を聞いただけで、首を傾げるくらいですもん」
「……そうなのでしょうか」
「だって聖女様がいたとして、なんでその聖女様は瘴気を払ってくれないんですか?」
た、確かに。メルティア様は今、何をしているんだろう……?
わたしの癒しの力と一緒で、もしかしたら聖女の能力っていうのは、緩やかな育ち方をするのかもしれない。それだったら大変だな……。
「怪しい。怪しすぎます」
エレンさんは手に持っていたフルーツジュースをジュコーと吸って、ぷんぷん怒った。
ちなみにわたしもクロナさんも、フルーツジュースを持っている。
街で今、こうやって飲み歩きするのが流行ってるんだよね。
「エレンさんは、もしもうちのギルドからアルーダ国へ冒険者が派遣されることになったら、面倒な書類仕事が増えるから、怒ってるんですにゃ」
「あ、ばれました?」
てへ、とエレンさんは舌を出して笑った。
「ま、私はその、クーナさんを追い出したっていう聖女様が気に食わないだけですけどね!」
「……このままじゃ、グランタニアまで被害が出そうですか?」
そう尋ねると、クロナさんは首を横に振った。
「もしも出たとしても大丈夫ですにゃ。この国は大きいですし、とにかく腕利きの冒険者たちがたくさんいますから」
そう言われて、少しだけほっとした。
わたしが悪いわけではないけれど、自分がいた国のことだから、罪悪感のようなものがある。
「あ、そうだ! ピピたちにも何か飾りが欲しいって言ってませんでした?」
エレンさんがぽん、と手をうった。
「せっかくだし、アクセサリーも見に行きましょうよ!」
街を適当にぶらぶらしていたわたしたちは、エレンさんの提案で、ピピたちのアクセサリーを見に行くことになった。
「うわぁ……」
わたしは思わず、微妙な声をあげてしまった。
「ほ、本当、君たち大きくなったね……?」
「ぴ?」
わたし達はイミテーションジュエリーを扱うお店に来ていた。安い値段で可愛いアクセサリーを買えるから、お店の中には若い女の子達がたくさんいる。
ルルは首にリボンを巻くのが好きなお洒落さんだから、ピピ達にもお揃いのリボンを買ってあげようと思ったんだけど……。
「く、首がない……」
そうなのだ。首にリボンを巻く前に、三匹とも、丸っこくなりすぎて巻く首がないのだ。
きっと、わたしが甘いものをあげすぎちゃったせいで、いつの間にかこれだけ大きく、丸々と太っちゃったんだ……。そばでエレンさんがお腹を抱えて笑っていた。
「これはダイエットが必要ですね!」
「前みたいに、爆発したりはしませんにゃ?」
クロナさんにそう言われて、わたしもエレンさんもギョッとして、思わずピピたちから身を引いた。確かにソラリスちゃん家の納屋で育てられていたときは、超巨大なモコモットだったもんね。あれが大爆発して、今のピピ達に分裂したのだ。可能性はなきにしもあらず……なのかも?
わたし達が慌てていると、それとも、とクロナさんが言った。
「もうすぐ進化するとか?」
わたしはモコモット達を見た。彼女(彼?)らは目をキラキラさせて、アクセサリーを見ている。若干デブいけど、確かにルルも太ったなって思った頃に進化したんだよね。
「それはあり得るかもですね」
わたしは思わずそう呟いた。
「アクセサリーは、進化してからの方がいいかも……」
まだ若干怯えているエレンさんを連れて、その日はルルが気に入った水色のリボンに真珠のイミテーションジュエリーがついたアクセサリーだけを買って、店を後にしたのだった。
「あれ? クーナちゃん?」
そろそろ帰ろうかと、ギルドに向かう道すがら。
ソラリスちゃんの実家であるベルルのパン屋さん(銀のリボンはこのパン屋さんからパンを卸してもらっている)の前を通ったら、おばさんに声をかけられた。
「おかしいわね。今さっきも、クーナちゃんがこの道を歩いて行ったと思ったんだけどねぇ」
「え?」
ベルルのおばさんは、首を傾げた。
「さっき声をかけても気づかなかったみたいだから、忙しかったのかしらって思ってたんだけど、別人だったのかね……?」
まただ。この間聞いた、ルージュさんの話によく似ている。もしかしたら、本当に、この街に白狼族が来ているのかもしれない。
その日、わたしは注意深く街を観察しながら、ギルドまで帰った。
でも結局、その白狼族と思わしき人には、会えなかったのだった。
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