能力の開花


 ここで暮らすと決めたのならば、最低限、自分と関わる人たちには、事情を打ち明けるべきだろう。

 わたしはそう思って、ルーリーたちに、自分の生い立ちを正直に話した。


 隣国、アルーダ国の伯爵家に生まれたこと。

 母は早くに亡くなり、継母と義妹、そして父とはうまく行かなかったこと。

 ……そしてあの日の、断罪劇。


『聖女さま』によって、わたしはその、身に覚えのない罪を裁かれた。


 ルーリー達は、わたしを疑ったりなんかしなかった。

 クーちゃんがそんなことするはずないでしょ、と怒ってくれた。

 裁判も受けられず、森へ捨てられたことを、あまりにも残酷だと批判してくれた。


 悲しいことには変わりない。

 だけどもう、涙は出なかった。

 ポツポツと話すわたしに、ルーリーはただ「ありがとう」と言って、抱きしめてくれた。


 少し、ほっとしたような気がする。

 自分の出自を隠しているのは、なんだか気が重かったからね。


 ◆


 今日は、月に二回あるギルドの定期休業日。

 ギルドが開いていないと、喫茶店も営業できないから、この日は銀のリボンもお休み。

 けれどわたしはギルドの中へいた。

 ギルドマスター、シモンの執務室で、彼と向かい合って、再び「鑑定」を受けている。


 あたたかな光に包まれる感覚。

 ふわりと熱が引いていくと、わたしはゆっくりと目を開けた。


 パチパチ瞬きしていると、シモンがゆっくりと微笑む。


「おめでとう、クーナ」


「えっ……」


 どうしたんだろう。

 きょときょとしていると、シモンは微笑んで言った。


「君の新しい能力がわかったよ」


「!」


 ──何も持っていなかったわたしに、新しい力が芽生えた。


「今はまだ、かなり微力みたいだけど。君にはどうやら『癒し』の力があるみたいだね」


「癒し……?」


 わたしは自分の手を見下ろした。


「それは、どんな力ですか? わたし、この手で人の怪我を治したこととか、ありません……」


「んー。まだ能力が育ってないから、私もなんとも言えませんが。君の淹れる飲み物は少し、特別な効果がありましたよね?」


「あ……」


 そういえば、体が回復するような気がする……とかいう話を聞いたことがあるような、ないような。


「君はもう、無意識のうちに能力を発現させていたのかもしれませんね」


 小さくてもいい。

 わたしは、人の役にたつ力が欲しかった。


 それが今、この手にある。


「能力の育ち方がゆっくりしているのか、それともピーキーな性質をしているのかは分かりませんが、君の持つ力はこれから、必ず育っていくでしょう」


「……」


「ま、のんびり勉強して、将来のことはそれから考えればいいですよ。治癒術師なんて、引く手数多ですからねぇ」


 シモンはそう言って、のほほんと笑った。


「あの……」


「ん?」


「ずっとここで働いていたら、だめ……?」


 そう言って、上目遣いでシモンをみる。

 たとえこれから、どんな力を手に入れたとしても。

 わたしはこの街で、働きたい。


 シモンは瞬きをして、微笑んだ。


「ええ、もちろん。君の好きなように、自由に生きなさい」


「……!」


「君は何にも縛られない。好きに生きればいいさ」


「……はい」


 嬉しかった。

 膝の上で寝こけていたルル達の背を撫でる。


 今は小さな魔法の力かもしれない。

 けれど、訓練したら、いつかそれはみんなの役に立つような、素晴らしい能力になるのだろうか。


 そうしたら、この街で、冒険者さん達のお手伝いもできるかもしれない。

 

「そうそう。今日はね、これからギルドで大切な仕事があるんだ。私と一緒に、来てくれます?」


「えっ?」


 もちろんいくのはいい。

 でも、ギルドはおやすみなんじゃ……。


「まあいいから、いらっしゃい」


 そう言って、シモンはウィンクした。


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