ありがとう
結果的に、アルバートさんも、黒いフードの男も、すぐに拘束された。
それはもう、目も当てられないくらいボコボコにされて。
だけど向こうもかなり抵抗していたから、仕方ないのかもしれない。
わたしはルーリーやエレンさんたちに助けられて、ルルを連れて倉庫の外へ一足先に連れ出されていた。
「よかった、よかったクーちゃん……! 無事でよかった!」
「ルーリー……」
ルーリーは涙をこぼしながら、わたしに抱きついた。
見たこともないくらい泣いていて、わたしはそのことに戸惑ってしまった。
「ごめんなさい……ルルがいなくなっちゃったと思って……一人で探しに行ったの……そうしたら、こんなことに……」
オロオロしていると、ルーリーは涙目で言った。
「シモンに一人で街へ行っちゃダメって、言われたじゃない!」
「……みんなに、みんなに……これ以上、迷惑をかけられないと思って……」
しゅんとしていると、そばにいたエレンさんが言った。
「クーナさん。私たちは一度も、あなたと一緒にいて迷惑だなんて思ったことはないです。むしろ、もっともっと頼って欲しかったです」
「……」
「ギルドにいる人たちは、みんなお互いに支えあって生きていますにゃ。それは別に、不思議なことでも、おかしなことでもないですにゃ」
檻を壊して、中にいたルルを見てくれていたクロナさんが、衰弱しているだけで大丈夫、とわたしにルルを抱かせてくれた。
さっきルルは苦しそうにしていると思っていたけれど、今はすうすうと穏やかに眠っていた。わたしはルルをぎゅ、と抱いて涙を堪えた。
でも、ダメだった。
「前にも言ったでしょ。私たち、もう強い縁で結ばれているのよ。……私、私ね……もうクーちゃんのこと、家族みたいに思ってるんだから」
ルーリーにそう言われて、我慢していたものが溢れてしまった。
そのままルーリーに抱きついてしまう。
ルーリーもぎゅう、と強く抱きしめてくれた。
わたしは初めてルーリーの前で、嗚咽を漏らして泣いた。
「ありがとう……ありがとう……」
わたしを受け入れてくれてありがとう。
わたしに居場所をくれてありがとう。
わたしを助けてくれてありがとう。
わたしも、ずっとみんなのそばにいたいと思うよ。
◆
アルバートさんも、黒いローブの男も、捕まった。
実のところ、杖騎士団も、ギルドも、ずっと彼らには目をつけていたらしい。
最初におかしいと気づいたのは、あのモコモット爆発事件だった。
ソラリスちゃんが言ったように、あのモコモットには、何か悪い呪術がかけられていた。そして呪術の跡を杖騎士団で解析した結果、王都で指名手配されている犯罪組織が使用する術と一部が合致したそうだ。
珍しいモンスターの違法売買や、人身売買を行う犯罪組織。
聞いただけでゾッとしてしまう。
ベルタ公爵三男のアルバートさんも、身柄を王都へ引き渡された。
貴族の血筋だからと、罪がなくなることはないらしい。
人身売買に関わったとして、これから裁かれるそうだ。
アルバートさんは珍しい種族の女の子が欲しかったらしく、どこからの伝手か知らないけれど、その犯罪組織にわたしをさらうように頼んだ(どうもわたしは、その犯罪者グループのリストか何かにピックアップされていたらしい……)。
その『伝手』をどこから手に入れたのか。
場合によっては、ベルタ公爵も裁かれることになる、大きな事件となってしまった。
わたしに外出を控えるようにシモンが言ったのも、そのせいだった。
(結局約束を守らず、わたしが一人で出ていっちゃったから、意味なくなちゃったんだけど……)
わたしがいなくなちゃった時、ひよこたちがひどく騒いで、まずクロナさんが気づいてくれたそうだ。
部屋にわたしがいない。
寮長さんに居場所を尋ねると、外へ行ってしまったと言う。
それからすぐにシモンにそのことを伝えて、わたしを探すことになったらしい。
「まだ熱が下がらないわねぇ」
「ん……」
わたしはといえば。
あれから、高熱を出して寝込んでしまった。
グランタニアへ来てから、ずっと張り詰めていたものが崩壊したように、高熱が出て、なかなか下がらなかった。
ルーリーが毎日看病してくれている。
でももう、申し訳ないからやめてほしいとは思わない。
「むっぴー!」
「ぴぎゅうー!」
「ぴーーー!」
ひよこたちが、パタパタとわたしの顔に集まってきた。
モコモットたちはあの時置いていってしまったことに、まだ腹を立てているらしく、とにかくわたしにひっついて離れてくれない。
「ごめん……まだ遊べないよ」
「ぴー」
「こらこら、ダメよあなたたち。元気になったら、いっぱい好物でも作ってもらいなさいね」
ルーリーはそう言って、ひよこたちをバスケットに片付けた。
ルルはといえば、わたしのそばで大人しく丸くなっている。
ルルも少し疲れてしまっているらしく、片時もわたしのそばから離れず、眠そうにしている。
「クーちゃん、勝手に起き上がっちゃダメよ」
「うん……」
眠い。
ルーリーに額を撫でられると、まぶたがゆっくりと下がってくる。
熱は辛いけれど、どうしてか、こうしてルーリーに看病してもらえることが、死ぬほど幸せだと思ってしまった。
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