銀狼姫の盾
「ヤッベェ! 壊しちまった! いいのかよシモン、本当に経費で落としてくれるんだよな!?」
「ちょっと!? クーナさんが怪我しちゃったらどうするんですか!?」
「手荒すぎますにゃあ〜」
壊れた壁の向こうから、聞き慣れた声が聞こえてきた。
暗闇にいたせいか、差し込む光が眩しい。
「……?」
目を細めていると、瓦礫を踏んでこちらがわにやってくる人たち。
最初、逆光のせいでその人たちの姿はよく見えなかった。
けれど、なんとなく、声と雰囲気で、わかる。
「……!」
ぞろぞろとこちらへやってくるのは、わたしが会いたくてたまらない人たちだった。
「まあまあ、クーナにも怪我はなかったし、いいじゃないですか。もちろん、修理費用はベルタ公爵に持ってもらいますよ」
いつも通り、のんびりとした声。
「杖騎士団からも頼んでおこう。それよりも、今はクーナのことが優先だ」
二本の杖が交差した模様が縫い込まれた軍帽。
白と黒、並び立つ背の高い二人を筆頭に、ずらりと後ろにたくさんの人たちが続いた。
「みんな……!」
涙が出そうになった。
見間違えるわけがない。
わたしが大好きな人たち。
会いたかった人たちだ。
右に並ぶのは「銀狼王の盾」のメンバー。
左に並ぶのは、「杖騎士団」のメンバー。
そしてさらにその後ろから顔を覗かせたのは、ダンとルーリーだった。
「クーちゃんっ!」
ルーリーの目が驚きで見開かれた。
今すぐ駆け出して、あちら側へ行きたい。
「な……お前たち、一体なんなんだ!? どうしてここがわかった!」
アルバートさんと、黒いローブの男が後ずさった。
「おっ、三流の悪役みたいなセリフを吐くねぇ」
キリルさんが鼻で笑った。
「……数ヶ月前、使役の呪術がかけられたダンジョンの貴重な精霊が、パン屋の倉庫で発見された。杖騎士団の方で精霊にかけられた呪術を解析した結果、王都から指名手配されている犯罪組織が使用する呪術の紋と一部が合致した」
ギア様が言う。
……ピピたちのことなのだろうか。
「モンスター密輸は歴とした犯罪だ。人身販売も言わずもがな」
杖騎士の一人、ヘザーさんが不機嫌そうに言った。
「この街でこんな不愉快な事件を起こすだなんて、私たちのメンツは丸潰れです」
「そうだよねぇ」
能天気そうに、でも全然目が笑っていないのは、ヴィートさんだろう。
「不法密輸販売、及び人身売買未遂の疑いで、二人とも拘束させてもらおう」
「なっ! 俺は何もしていない!」
アルバートさんは焦ったように首をふった。
「だいたい、お前たちはなんなんだ!? 何の権利があって、ここへいるんだ!? 俺は公爵の息子だぞ!」
杖騎士だからだと思うけど……。
流石のわたしも呆れてしまった。
この人のことを怖いと思っていたけれど、その気持ちも薄らいでしまった。
なんて愚かな人なんだろう。
シモンも同じことを思ったらしく、苦笑していた。
それからシモンはんー、と少し首を傾げた。
「冒険者ギルドと杖騎士団の連合軍、みたいなものですかね?」
並んでいたガントさんたちが、言った。
「マスター、あれだ。俺たちは『クーナちゃんを見守り隊』のメンバーだっ!」
「違いねぇ!」
こんな時に、なんだか気の抜けた雰囲気になる。
シモンは苦笑して言った。
「それじゃあ、格好がつきませんからね。今日だけはこの同盟の名を、こう呼びましょうか」
シモンはニッコリ笑う。
「──白銀の狼姫を守る盾。『銀狼姫の盾』と」
◆
バキゴキィっと、冒険者さんたちが腕を鳴らす音が聞こえてきた。
「さて、こっちはギルドの『お姫様』を傷つけられて切れてんだ。命の保証はないぜ?」
あ、相変わらずガントさんたちは怖い……。
これじゃあどちらが犯罪者か分からない。
「命の保証はしてくれ。こいつらは貴重な情報を持ってるんだ」
ギア様が杖を抜いてくるりと回した。
狙いをアルバートさんに定める。
「フィーナルダット杖騎士団団長ギア・エセルの名のもとに命じる。あの者たちを即刻捕らえよ」
──戦闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます