銀狼王(後編)

 

 その昔、この大陸はダンジョンと呼ばれる魔物を吐き出す不思議な洞窟によって、人々が住むことが出来ない土地となっていた。


 土地は魔物によって荒らされ、ダンジョンから湧き出る瘴気によって、人々は病に犯された。心は荒み、争いが耐えぬ醜い生き物に成り果てた。


 やがて時はすぎ、大陸のダンジョンを生み出している"核"の正体がわかった。

 それはあまりに強い魔力と邪悪な魂を持つ、一つの生命体だった。

 人々は"それ"を邪悪なものの王「魔王」と呼んだ。


 ある時、一人の青年が魔王を倒すべく立ち上がった。

 それは白銀の髪と狼の姿を併せ持つ、獣人の青年だった。


 青年は、「魔王」を倒すために、四人の守護者を集めた。


 一人は剣を。

 一人は盾を。

 一人は弓を。

 一人は杖を。


 そして青年の勇気に共感した、神の力を持つ"聖女"が仲間に加わった。

 それぞれの道を極めた守護者たちは、命をかけて青年を守り抜いた。

 聖女は勇者たちのために魔を払い続けた。


 やがて青年は魔王との戦いに勝利した。

 人々は青年を「勇者」と称え、新たな国の王として祭り上げた。

 けれど四人の守護者は戦いで命を落とし、聖女もまた、残りわずかな命となってしまった。


 聖女は神のお告げを聞き届け、勇者にグランタニアの王になるようにと言い残して、自分は故郷の土地へ帰り、眠るようになくなったという。


 青年は『銀狼王』と呼ばれ、立派な統治者となった。

 けれど王はいつまでも四人の守護者と聖女に感謝し続け、いまだに土地に残り続ける四つのダンジョンのそばに、四人の守護者になぞらえたギルドを置いたという。


 王は彼らこそを『勇者』だと称え、以降、守護者たちは英雄として、いつまでもこの国の人々に崇められたのだった。


 ◆


「だから俺たちの国では、四つのギルドをその守護者になぞらえているのさ」


 酔っ払ったドワーフさんがそう言って、ヒック、としゃっくりをした。

 女剣士さんが手をひらひらと振っていう。


「ま、伝説の話ね、伝説の! でもかっこいいじゃん、王と四人の守護者なんて」


「そうですね……」


 わたしは、アルーダ国で聞かされた国の成り立ちと、今の話では、多くの矛盾があると思って、モヤモヤと考えていた。


「まあ、都合よくアレンジされてる部分もあるんだろうけどさ。周辺の国じゃ、よくこの話を持ち出して、喧嘩になることがあるんだよね。我が国の主こそが、英雄の血筋だって」


 アルーダ国もそうだ。

 王様は勇者の血筋、聖女はその時々によって神に選ばれると言われている。


 女剣士さんの言った通り、どこの国も多少は嘘を混ぜているのかもしれないね。


「伝説なんて、かっこいい方がいいもんね! ……あ、このこ酔っ払ってるんじゃないの?」


 女剣士さんはララを見てケラケラと笑った。


 ララは酔っ払っているのか、おかしなピヨピヨダンスを踊っている。


「ララ……」


「ピヨー」


 ララは酔っ払ってるのか、ドワーフさんの頭に飛び乗った。


「お? なんだこのちび、気が合うな」


「ぴー!」


 ララとドワーフさんがおかしなダンスをし始めるものだから、みんな笑ってしまったのだった。

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