銀狼王(前編)

※本日少し短めです。








 並べられた料理を食べつつ、飲んだり踊ったりしている冒険者さんたちを見る。

 みんな、昼間だということをすっかり忘れているようだった。

 

「ね、クーナちゃん。ちゃんと食べてる?」


 女剣士さんがわたしの顔を覗き込む。

 そん彼女も、ほっぺが赤い。


「はい。美味しいです」


 ヤンさんの作ってくれたステーキは、じゅわ〜と旨味のある肉汁が滲み出てきて、すごく美味しい。

 めったに食べられない、レアなモンスターのお肉なんだって。


「それはよかった。クーナちゃん、ガリガリだからねぇ。ところであんたたちは……って、クーナちゃん以上にしっかり食べているわね!」


 女剣士さんはルルたちをみて、苦笑した。

 ルルたちもそれぞれ、目当ての料理をはぐはぐと頬張っている。

 また口周りをソースでべたべたにしている。

 

 けれどふと気づくと、ララ(水色)が、ジョッキの中に首を突っ込んでいた。

 小さな足が必死にジョッキを蹴っている。

 ララは甘い飲み物が好きだ。

 ソーダか何かと勘違いしているのだろう。

 

「こらっ!」


 慌てて止めようとしたけど、もう遅い。


「ぴよ〜」


 ララはジタバタした後、ジョッキごとテーブルへひっくりかえってしまった。

 幸いなことにお酒はそんなに入っていなかったらしく、テーブルの上が濡れるにとどまった。


「ぴ!?」


「あはは、ばかだねぇ、あんた」


 女剣士さんは笑って濡れたひよこをすくい上げる。

 ララはブルブルっと身震いした。

 ちょっと酔っ払ってるみたい。


 わたしは謝りながら、慌ててテーブルを吹いた。

 そして、まずいものを発見する。


「あっ!」


 誰のかわからないけれど、ギルドの会員証がお酒で濡れてしまっていた。

 銀色のメダルに、盾と、狼の横顔が掘られたものだ。


「あ、大丈夫。ふけばきれいになるし」


 どうも、女剣士さんのものだったらしい。


「ほ、本当にごめんなさい!」


「何言ってんの、このメダル、一度はトロールに飲み込まれたことだってあるんだから、大丈夫よ。こんなのじゃちっともダメージなんかつかないわ」


 そう言って、女剣士さんは笑う。


「あたしらはメダルだけど、ギルドの職員はブローチなんだっけ」


 そういえば、みんな同じ模様が掘り込まれたブローチを胸につけていた。


「クーナちゃんはブローチ、持ってないの?」


「あ……わたしはただの喫茶店なので、持ってないです」


「そーなんだ。あげればいいのにね。シモンも忙しくて忘れてるのかも」


 そんな、ギルド職員でもないのおこがましい。

 すると話を聞いていた隣の冒険者さんたちが言った。


「せっかくクーナちゃんと同じ『狼族』の模様が彫り込まれているんだから、クーナちゃんほど似合う子はいねーだろ」


「銀狼王は白銀の毛並みを持つ、白狼族の男だって話だからな」


「えっ」


 びっくりした。


「そうなんですか?」


「おうよ。なんだ、知らなかったのか?」


「は、はい」


 そういえば銀狼王っていうくらいだもんね。

 このギルドの象徴になっているのは、獣人なんだ。


「嬢ちゃん、そりゃあ聞き捨てならねぇな」


 椅子の上に立ってお酒を煽っていたドワーフさんが、顔を真っ赤にして言った。


「グランタニアの偉大な王の話を知らないってのはよ」


「ご、ごめんなさい」


「今から話してやるから、よーく聞いて、覚えて帰りな」


 そう言ってドワーフさんが話してくれたのは、この国の成り立ちにも関わる、昔々の伝説だった。


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