ホオズキ亭


 ルルとピピたちを連れて、食堂の扉を開ける。

 するとそこには、愉快な音楽と、昼間から顔を赤くしてお酒を煽る

冒険者さんたちの姿が。


「わぁ、お昼前なのに、すごいね」


「る〜」


 ルルたちも鼻をひくひくさせている。

 ここは冒険者ギルドのすぐ横にある食堂『ホオズキ亭』。

 狩りたてのモンスターを使った美味しい料理が食べられる、ギルドの名物食堂だ。

 銀狼王の盾には銀のリボンという喫茶店があるように、例えば生命保険の営業所だったり、医務室だったり、アイテム買取カウンターだったりと、いろんな施設が入っている。

 ホオズキ亭もその一つで、冒険者さんたちだけじゃなくて、いろんな人が利用するのだ。


 朝、昼は食堂として、夜は酒場として常に人で賑わっている。

 料理が美味しいのは、ダンの双子のお兄さん、ヤンさんの腕がいいからなのだろう。

 あと、ギルドは狩ったばかりのモンスターなんかも買い取ってるから、それをさらにホオズキ亭で買い取って、その日のメインメニューにしちゃうこともあるんだって。


「お、クーナじゃないか」


 厨房を覗くと、料理人さんたちに指示を出していたヤンさんがこちらに気付き、笑顔でこちらへやってきた。

 ダンは無口だけど、ヤンさんはすごく愛想が良くてお喋りだ。


「ヤンさん、これ、ダンからです。足りてなかった調味料」


 バスケットをヤンさんに渡すと、彼はわたしの頭をクシャクシャと撫でた。


「頼んでいたものを持ってきてくれたのか。えらいえらい!」


「わっ」


 もう、完璧子供扱いだ。

 ヤンさんはひとしきりわたしを撫でた後、バスケットの中のものについて、説明してくれた。


「ありがとな。このミンって調味料は、ダンジョンの深い階層で育つ植物からしか抽出できないんだ。今年はその花が不作でなぁ」


 へえ、やっぱり不作とかあるんだなぁ。

 そういえば、ポークルにも美味しい時期があるってだんが言ってたっけ。


 ヤンさんはわたしをみて、顔をしかめた。


「それにしてもクーナ、お前はいつみてもガリガリだなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?」


「えと」


 これでもだいぶマシになったほう。

 前に比べて、本当に肉がついてきた。

 前は骸骨みたいだったもん。

 飛び出していた膝小僧も、ちょっとマシに見える。

 ルルたちなんか、やっぱりちょっとぽちゃっとしてるもんなぁ。


「女の子はもっと体を大事にしなきゃダメだ。そんなにガリガリだと、体も冷えてよくないぞ」


 ヤンさんはそういうと、わたしの背中を押して、空いている席に座らせた。


「ほら、今から飯作るから、食ってけ」


「あ…」


「お前たちも食うだろ?」


「るー!」


「ぴいい!」


 わたしが言葉を返す前に、ルルたちは目を輝かせてしっぽを振っていた。


「栄養満点のもん食わしてやるから、ちょっと待ってな!」


 ヤンさんはニカっと笑うと、そのまま厨房へ戻って行ったのだった。


 ◆


「おっ、クーナちゃんだ!」


「今日はこっちで飯か?」


 座ってソワソワしていると、冒険者さんたちが声をかけてきた。


「はい」


 みんな、顔が真っ赤。

 昼間っから飲んでる……。


 この間の旅人さんが、ランチをここで食べない理由が改めて理解できた。

 もうすっかり出来上がっちゃってるんだもんね。

 飲みたくなっちゃうよ、そりゃあ。


「聞いてくれよ、俺たちゃ昨日、すんげえモンスター狩ったんだぜ」


「今日のメニューは、俺たちが狩ったワイバーンのステーキさ。おいヤン、一番上手い部分クーナちゃんに食わしてやれよ!」


 厨房の方から、「わかってらぁ!」という声が聞こえてくる。

 ここの人たちは本当に、みんな気前がいい。

 経済が潤っているおかげもあるのだろう。


「ほらクーナちゃん、これも食べな」


「こっちも」


「よし、今日は全部俺のおごりだ!」


「ええっ!?」


 座っていただけなのに、なぜかわたしの目の前には料理が集まってくる。


「あ、あの……?」


「お酒はダメだよなぁ」


「じゃ、こっちのさっぱりレモンジュースだな。肉にあうぜぇ」


 料理や飲み物が集まってくる。

 すると他のお客さんたちもやってきた。

 いつも喫茶店を利用している、女剣士さんたちもいる。


「おっ、何これ? パーティでもやってんの?」


「クーナちゃんに腹一杯食わす会だな、こりゃあ」


 ざわざわと人がいっぱいになってきたお店の中。

 なぜかわたしを取り囲んで、パーティみたいなものが始まったのだった。


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