ぽかぽか太陽とクーナの変化


「クーナ、ヤンの食堂の方へ、これを届けてきてくれないか?」


 人もまばらな午前中。

 ダンはそう言って、調味料の入ったバスケットをわたしへ差し出した。


「食堂の方で足りないと言っていたから。これを届けたら、そのまま昼休憩へ行っておいで」


「わかりました。ありがとうございます!」


 時刻は十一時前。

 いつも少し早めの昼休憩をもらうので、これを届けにいったらちょうどくらいだろう。

 バスケットを受け取って、ルル達を呼び寄せる。


「るん!」


「ピヨー!」


「いこっか、みんな」


 今日もフィーナルダットはいい天気だ。

 わたしは人で賑わうギルドの玄関ホールを抜けて、外へ歩き出した。

 抱っこしていたモフモフたちが自分で歩きたいと鳴くので、地面におろしてやる。


 ルルはわたしの前を、ピピたちはわたしのあとをピヨピヨと鳴いて付いてきた。

 ふふ、可愛い。なんだかアヒルの親子みたい。


 そういえばみんな、大きくなったなぁ。


「ねえルル、なんだかやっぱり、初めて会った時より、大きくなったねぇ」


「る?」


 ルルは振り返って、首を傾げた。

 額についた宝石の中では、今日も炎のような揺らめきがキラキラと輝いている。


「だってしっぽも、お腹の毛も、すごくモフモフになってるよ」


「るん!」


「太ったのかなぁって思ってたけど、やっぱり成長だったんだね。額の石も大きくなってるような気がするし」


 結局、カーバンクルってなんなのか、よくわかってない。

 図鑑でも調べてみたけど、幼体は珍しいってことくらいしかわからない。

 大きくなったら、みんなそれぞれ別の姿になるんだって。

 あと、カーバンクルって伝説上では、神様のお告げを持って、必要な人の前に現れる生き物だって書いてあった。

 でもまあ、カーバンクルは伝説の生き物でもなんでもなく、今でも普通にダンジョンに生息しているんだから、ルルは普通の生き物なんだろう。


「ピピたちも、まるっこくなったね」


「ぴ?」


 なんでひよこってこんなに可愛んだろう?

 全身を覆うふわふわした毛に、黒くてつぶらな瞳。

 小さなクチバシにつっつかれるのが、可愛くて好きって人もいる。


「君たちは食べ過ぎかもしれないなぁ」


 本当、精霊って、信じられないくらい物を食べる。

 食べたものは全部魔力に変換されるらしいんだけど、それでも三匹でアップルパイ丸々一つ食べちゃったりするから、びっくりする。


「ダンジョンには帰らなくていいの?」


「ぴいい」


 ピピはちっちゃな頭を横にプルプルふる。

 帰らないみたい。


「美味しいものがあるから?」


「……ぴ」


 ふふ、ちょっと図星みたい。


「ダンジョンって、どんなところなのかなぁ」


 遠くに見える街をみながら、呟く。

 あの大きな穴の中には、どんな光景が広がっているのだろう。

 中はもちろん危険だし、冒険者さんたちしか入れないのだろうけど、気になる。


「いつか、少しでいいからみてみたいな」


「ぴー」


 ひよこたちはパタパタと飛んできて、こくこくと頷いた。

 まるで、案内してあげるよ!と言ってるみたい。


「ふふ。そうだなあ、もしも君たちが言葉を話せるようになったら、中のお話もたくさん聞きたいかも」


「……ぴい?」


「ぴ」


「ぴゅー」


 三匹は顔を突き合わせて、首を傾げた。


「あ、そうだ。君たちにも、なんか、可愛い飾り買ってあげよっか」


 ルルはお洒落さんなので、可愛いリボンを好む。

 最近は、エレンさんに銀色のメダルに名前を彫ってもらって、首からぶら下げている。それが結構お気に入りみたい。


「どんなのがいいかなぁ」


 今度、エレンさんに相談してみよう。

 彼女は可愛いものが好きなので、きっといい提案をしてくれるはずだ。


「部屋にも、ルルたちのお皿とか、カップとか、欲しいね」


「る!」


「ララはソーダが飲みたいもんね」


「ぴー!」


 ララは目を輝かせて頷いた。

 この水色のモフモフはクリームソーダが好きなんだけど、コップの形状が深すぎて、いつも溺れかけて体中がベトベトになってしまうのだ。


「今度、街へ買い物にいこっか。もう一人でもお買い物できるもの」


 そう言って、ふと気づいた。

 今まであんまり、何がしたいとか、何が欲しいとか、思ったことなかったけど……。

 なんか今は、少しずつ欲しいものとか、やりたいこととかが出てきたような気がする。


 食堂の前で立ち止まって、街を見下ろす。

 ふわりと風が吹いて、長い髪をさらった。


「お日様のあったかさとか、風の匂いとか。こんなに穏やかで、心地よいものだったんだね」


 前にはわからなかったこと。


 こんなに当たり前で、すぐそばにあるものを心地よいと感じることが、わたしはとても幸せだと思った。


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