もふもふ大爆発
「!」
体が熱い。
心臓が焼けているみたい……。
手の先から強い光が溢れ出る。
だけど黒い靄はうまく消せなかった。
なんとなく、自分の力が足りないのだと気づく。
どうしよう……!
そう思っていると、いつの間にやってきたのか、ルルがわたしの肩へかけ登ってきた。
「ルルっ!」
「きゅるぅうう!」
ルルが甲高く吠えた。
すると、指先の光がさらに強くなった。
今なら抜けそう……!
わたしは思いっきり、黒い杭を引っぱった。
ずるる、と重い感覚ののち、すぽんっと杭が抜ける。
「きゃんっ!」
思いの外すぽーんと抜けて、わたしはその場に尻餅をついてしまった。
いたた……でも杭は抜けた。
杭はどろどろになって、わたしの手から消えていく。
「ぴぎゅうぅううう!」
「ふへっ!?」
杭が抜けたモコモットは、ぼわっと一瞬にして膨れ上がった。
え……!? なにこれ、なんか爆発しそう……!
「クーナ!」
尻餅をついてぽかんとモコモットを見上げていると、ぐいと後ろから体を引かれる。キリルさんだった。
「この、馬鹿っ!」
「ごめんなさ……」
言い争っている場合じゃない。
もう逃げられないと思ったのか、キリルさんはわたしを背に回して、左手をモコモットに向けた。
その瞬間、またあの金色の光がわたしたちを囲む。
「きり……」
「黙ってろ!」
次の瞬間。
パァアアンッ!
とものすごい音をたてて、モコモットが爆発した。
光が空へまい、倉庫ごと吹き飛ばしてしまう。
「ひえっ」
ルルを抱っこしたまま、キリルさんの背にしがみつく。
けれど体に痛みもなければ、爆風を感じることもない。
ただただ、まばゆい光だけが、わたしたちを包み込んでいた。
「……?」
ゆっくりと目をあければ。
「へっ?」
ぽっかりと倉庫の天井に開いた、穴。
絵の具を流したみたいに真っ青な空から、雪みたいにふわふわしたものが、たくさん降ってくる。
「ぴっ」
「ぴっ」
「ぴっぴっぴっ」
ひよこ。
どう見ても、ひよこだ。
ひよこが雪のように、空から大量に舞い降りてくるではないか。
黄色や水色やピンクの、カラフルなやつ。
「な……」
わたしもキリルさんも、言葉を失った。
「るん!」
ルルは唸り声をやめて、ホッとしたような声を上げている。
ひよこはふわふわと舞い降りては、なぜかわたしの元に寄ってくる。
「ふわっ!?」
「ぴ」
「ぴぃ〜」
「ぴっ!」
もふもふと集まってくるひよこにあわあわしていると、ようやくキリルさんが動いた。立ち上がって、空を見上げる。
そこで、さらにおかしなことに気づいた。
ひよこはもふもふと大量に降ってくるけれど、屋根やその他の瓦礫なんかが、空中で停止していたのだ。
キリルさんが小屋の入り口の方を振り返る。
「……キリル。あんたも腕が鈍ったんじゃないか」
黒髪に、印象的な青い瞳の男の人が、入り口にたって、空に杖を向けていた。
前に見たことがある。
今日は、軍帽のようなものもかぶっている。
軍帽には、二本の杖が交差した紋章のようなものが縫い付けてある。
あの紋章は、おそらく隊服の背中にも縫い付けてあるのだろう。
「ギア」
キリルさんは舌打ちした。
「これは一体、どういうことだ」
青い目が、わたしを捉える。
さらに後ろからは、わらわらとギア様と同じ黒い服を着た人がやってきた。
みんな、わたしを見て何かを言っている。
「あれ、白狼族の女の子か? 俺、初めて見たよ」
「すげえ、やっぱり運動神経桁違いだな」
「いやそれよりあの子、さっき明らかに『浄化』してたよな……!?」
冷や汗がだらだら流れてくる。
「え、と……?」
キリルさんの背中にしがみついて、わたしは目を泳がせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます