トラブル発生!?

「あ、ベルルのパン屋さんで明日の朝ごはん買いたいっ!」


 街の中を歩いていたわたしたちは、エレンさんのその言葉で、パン屋さんによることになった。


「ベルルのパン屋さんは、バターロールとか、蜂蜜メロンパンとか。すごく美味しいんですにゃ」


「巨大蜂の巣からとれた蜂蜜は、それはもう絶品なの〜!」


 エレンさんがふわふわ笑ってそういったところで、あ、と何か気づいたような顔をした。


「あ、そういえば、ソラリスちゃんたち、どうなったんですかね?」


 わたしが首を傾げていると、クロナさんが補足してくれた。


「ソラリスちゃんは、ベルルのパン屋さんの末娘ですにゃ」


「えっ、そうだったんですか」


 ベルルのパン屋さん。

 どこかで聞いたことがあると思ったら、うちの喫茶店のパンの仕入先だ。

 それじゃあソラリスちゃんは、ベルルのパン屋さんのところの子供だったんだね。


「ついでにキリルさんたちの様子、見てみます?」


「なんか不安だし、そうしますにゃ」


 ルルも興味津々にパン屋さんを見ている。


「ルル、まだ食べたいの?」


「る!」


 ルルってば、ほんとによく食べるなぁ。

 わたしたちはいい香りがするパン屋さんへと入った。


 ◆


「もう!! ほんっっとにありえないです!!!」


 エレンさんの怒号が、パン屋さんの裏手にある庭に響く。

 わたしとクロナさんは頬をひきつらせて、二人を見ていた。


「Sランクの冒険者なら、引き受けた依頼はすみやかに解決してください!」


「だってぇ、かわいいお姉さんが……」


「かわいいお姉さんよりも依頼!!!」


 言い訳を続けるキリルさんに、エレンさんは怒り続けた。

 ベルルのパン屋さんに入ってすぐ。

 馴染みのご主人に挨拶してキリルさんたちのことを聞いたら、ついさっき来たばかりという。わたしたち、結構ごはん食べたりお買い物してたり時間とってたんだけど……と疑問に思っていたら、この通り。


「キリル、きれいな人に目がないから……」


 じとっとした目で、ソラリスちゃんがつぶやいた。

 どうやらキリルさんに連れまわされて大変だったらしい。


「もー! とっととやっちゃってください!」


「へいへい。どうせこの時期なら、増殖したスライムかなんかだろ」


 キリルさんはようやくやる気になったのか、指輪をはめた後、その上からぐいっとグローブをはめて、口で引っ張った。


「ソラリス」


「……」


「いーの? なんか言いたいことあんなら、今言ったほうがいいよ」


 腰に下げた剣を確かめて、キリルさんはかがむ。

 ソラリスちゃんに目を合わせるように。

 あれ、一体どうしたんだろ……?


「……何もない」


 ソラリスちゃんはふるふると首をふる。

 けれどなんだか、あまり気分がよくなさそうだ。

 わたしたちがはてなマークを浮かべていると、キリルさんはガシガシと頭をかいて立ち上がった。


「しゃーねぇ。ま、とにかくその問題の倉庫とやらをみてみっか」


 パン屋さんの裏手にある、古い倉庫に移動する。

 すると、わたしの肩にのっていたルルが、ううう、とうなりだした。


「ルル……?」


 珍しい。

 ルルがこんなに唸り声をあげるなんて。

 こんなことは、前に聖女様の話をしたとき以来だ。

 どうしてしまったのかと戸惑っていると、視線を感じた。

 ソラリスちゃんだ。


「……お姉さん」


「はい?」


 ソラリスちゃんは泣きそうな顔をしていた。

 思わずびっくりして、かがむ。


「どうしたんですか?」


「あ、の……」


 そう言って、ソラリスちゃんはわたしの裾をきゅ、とつかんだ。


「あそこ、なんだか……黒い靄みたいなのが、かかってる……」


「靄?」


 わたしは倉庫の方を見る。

 けれどわたしには、何も見えない……。


「うっし、開けるぞ。お前ら、もっと下がってろ」


 キリルさんは気軽にそう言って、倉庫の扉を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る